第三話 激臭、マッカレル男爵!
回転寿司屋で、デブレンジャーたちが食事をしている。
平時なので、ファトルスーツは未着用。
「まず最初に断っておくが……回転寿司をナメてはいけない。最近のチェーンは、ネタの鮮度管理から米のブレンド、果てはシャリの温度調整に至るまで、ありえないレベルで最適化されているんだ。特に重要なのが“サーモン”だ。これは日本では戦後に普及した比較的新参のネタなんだが、脂のノリ、舌ざわり、見た目の美しさ……すべてにおいて初心者受けがいい。だが、それだけではない――真の寿司通は、サーモンの中にも“トラウトサーモン”“ノルウェーサーモン”“炙りチーズサーモン”といった奥深い系譜を見出す。わかるか? この差を感じ取れるようになると、人生が豊かになるんだよ。ちなみに光り物、例えばアジ、サバ、イワシなどは『しめ方』と『寝かせ方』で味がまったく違ってくる。とくにアジは生臭さが出やすく、薄皮一枚の差で“旨味”か“生ゴミ”かの分かれ道なんだ――」
「レッドがタッチパネルを離さないんだから、しょ~がないじゃん。そ~ゆ~とこ、子供っぽいんだよね、レッドって」
「バカを言うな、ピンク。こういった重要なアイテムは、リーダーが持つものと相場が決まっている!」
「おい、みんな! 寿司屋に来て、魚を注文しないとは何事だ!」
「まぁいい……これもリーダーの宿命だ。オレは……和牛握りとローストビーフ握り百貫ずつ、と……あ、それと生ハム握りも百貫ばかり頼んどこう。」
「何を注文したっていいじゃないか……好きなものを食べさせてくれよ」
「誘ったのはブルーなんだから、あたりまえだ。おごりじゃなかったら、誰も来なかったんだぞ?」
「レッド、チーズケーキとチョコケーキ百個ずつ追加して。あと消臭剤」
「ピンク、いい加減にしろ! それにこの店もおかしいぞ! 言われるままにケーキだのカレーだのを際限なく出してきやがって! ここの在庫はどうなってるんだ! 寿司屋としての誇りはどこへいった! そして、消臭剤とは何だ!?」
あそこのテーブルにヤバイ奴らがいる、と周りの客がどんどん店を出てゆく。
残ったのは、デブレンジャーの一味だけ。
「困るんですよねぇ……お客さん」
奥の調理場から、のそのそと店員が出てきた。
店員を目にして、ブルー・フィッシュが絶句する。
その姿は――上半身はサバ、下半身は二本足、声はマグロ。
【ナレーター】
マグロの声ってどんな!?
ビシィッ!
【ナレーター】
説明しよう!
マッカレルとは魚へんにブルー、すなわちサバの意味なのだ!
一同「おぅ!」
「チェンジ・ファトル――オン!」
全員一斉にかけ声とポーズを決める。
ひとり、釈然としない様子のブルー・フィッシュ。
【ナレーター】
説明しよう!
「チェンジ・ファトル・オン」のかけ声と共に、メンバーはファトルスーツを装着し、デブレンジャーへと変身する。
デブレンジャーがファトルスーツを装着するタイムは、わずか三分(※平均値です)に過ぎない。
では、その装着プロセスを順を追って見てみよう。
一 メンバーがそれぞれ持っているファトル・バッグからスーツを取り出す。
二 着ている服を脱ぐ(下着まで脱ぐかどうかは、各メンバーに任されている)。
三 ファトルスーツを着る。
四 服を畳んで、ファトル・バッグにしまう。
五 ロッカーなどが近くにあれば、ファトル・バッグをそこへしまう(ロッカーの鍵はなくさないように注意する)。
注意:女性メンバーは、手近な遮蔽物(トイレ等)に隠れて変身を行うこと。
ビシィッ!
「……どうにかなんないの、それ? 長いんだよ、毎回毎回」
イライラを隠せない、マッカレル男爵。
「え……貴様って、魚好きじゃなかったっけ?」
困惑顔のマッカレル男爵。
ブルー・フィッシュの〈尾びれキック〉が炸裂!
「ぐえええっ!」
盛大にぶっとぶマッカレル男爵。
ごろごろごろごろ……バリーン!
入口のガラス戸を突き破ったマッカレル男爵が、店の外へと転がり出る。
「リーダーとして言わせてもらえば、お前は自由というものをはき違えている」
びくんっ、びくんっ……
店の隅では、ブルー・フィッシュの〈尾びれキック〉をまともに浴びたグリーン・ベジタボーが、釣り上げられたばかりの魚のように激しく痙攣している。
「おまたせ~♥ あれっ、もう始まってる……てか終わってる? なんで? 私が着替えるまで、待ってくれてもよくない?」
「はぁ? クソみたいな色して屁理屈こいてんじゃねぇよ、ウンコ野郎」
「ウンコじゃなくて、ウコンな。ウコンはターメリックの和名で、カレーには欠かせないスパイスなんだぞ? ちなみに、わしのパーソナルカラーは、サフランイエローだ」
「ピンクもイエローも、仲間割れはよすんだ! 戦いの最中だぞ!」
「しょ~がないなぁ……じゃ、許してあげる♥ 今度から口の利き方に気をつけてよね!」
「何を言っているのかわからないな……まぁいい、どうやらマッカレル男爵は倒したようだし、解散するか」
「ああ、文字通り必殺の一撃。キック一発で、マッカレル男爵の息の根を止めてしまうとはな……正直、驚いたよ。他のメンバーじゃ、ああはいかない」
「ま、まぁな……キックには自信があるんだ。あのキックは、カジキの尾びれの動きを元に、苦心して編み出した技で――」
「――カジキの尾びれは特に強靱でな、時速百キロを越える種類もいるんだ」
誰もいなくなった薄暗い店内で(※グリーン・ベジタボーは数に入れないとする)、朗々と語り続けるブルー・フィッシュ。
早くも身が腐り始めたマッカレル男爵の悪臭が、夜の繁華街に漂っていた。
【ナレーター】
デブレンジャーの活躍によって、今日も地球は救われた!
だが、宇宙人の侵略は止まらない!
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
もう、デブしかいないんだ!
〈つづく〉
【次回予告】
スパイスこそ正義!
カリー・イエローだ。
一人称が〈わし〉なので、わしが老人だと思っているちびっ子もいるかもしれない。
だが、実際にはまだ53歳の青年だ。
若く見えると良くいわれるんだが、その秘訣は睡眠にある。
なにしろわしの睡眠時間は1日8時間! 長くても短くてもいけない。
カレー?
カレーはべつに関係ない。ただ、おいしいだけだ。
食べ過ぎは良くないから、一日に百杯までと決めている。
言っておくが、大盛りじゃないぞ?
いくらわしでも、カレー大盛り百杯はちょっと無理よ、無理。
あまりわしを買いかぶらないでもらいたい。
え、時間? ああそう。
――さ~て、来週のデブレンジャーは?
「レッド、暁に死す」
「ブルー、大海原に死す」
「グリーン、樹海に死す」
の三本です。
来週もまた、観てくださいね?
スパイスこそ正義!
ちぇンジふぁトルゥゥ、おん……ヌッ!
【ナレーター】
うそなのだ!