第二十一話 衝撃、火星の町中華!
「めちゃくちゃ見るべきものがあるじゃないですか! だって火星ですよ、火星!」
「そんなことありません! まずはオリュンポス山――もはや、山というより大陸です! こんなに大きな山、地球にありますか?」
「では、マリネリス峡谷はどうですか! 全長四千キロメートル! 深さ七千メートル! この超巨大な谷間の地下には、古代火星文明の遺跡が眠っているという説があるんですよ?」
「じゃあ、とっておきの場所を紹介しましょう! シドニアの顔、これ! ピンクだって、一度くらいは見たり聞いたりしたことがあるでしょう」
「そうですよ! その実物がここにあるんです! 興奮しませんか?」
「はぁ……どうしてわかってもらえないんだろう……せっかく火星に降りたったのに、何もせずに帰ろうとするなんて……僕には信じられません」
「だが、退屈なのは事実だしな。俺がおごってやるから、地球に帰って寿司でも食おうぜ」
「そんな……ブルーまで! レッドはわかってくれますよね、火星のロマンが!」
「わからんでもないがな……火星の地を踏んだのは、なにげに人類初だし。学術的には凄いことだってのも理解はできるが――」
「ラーメン屋だと……ここは火星だぞ? 冗談はグリーンの顔だけに――」
絶句したブルーが指差す方を見ると、確かにラーメン屋らしき建物が見える。
「あるんだからしょーがないじゃん! 面白そうだから行ってみようよ」
ラーメン屋らしき建物に向かって走り出すピンク。
慌てて後を追うレッド。
それに続く残りの仲間たち。
ガラッ
引き戸を開けると、そこはラーメン屋というよりも町中華の雰囲気だった。
客はいない。
カウンターに座っていた白衣の男が、読んでいた新聞から顔を上げる。
「……らっしゃい」
「お好きな席へどうぞ……」
ピンクが小上がりに腰掛け、ブーツを脱ぎ始める。
「こういう小汚ぇ店が、意外と旨いんだよな。俺、海鮮定食ね……イエローは?」
「アタシは杏仁豆腐と揚げ餅、この冰粉てゆーのも美味しそうだから、それも頼んじゃお」
「……みんな、普通にくつろいでるが、火星にラーメン屋なんておかしいとは思わないのか?」
「いちおう店とその周辺をスキャンしました。周囲は謎の力場に包まれていて、地球と同じ環境が保たれているようです」
「……ネギラーメン・チャーシュー大盛り、炒飯、ニンニク餃子、レバニラ炒め、エビチリ、青椒肉絲……とりあえず、こんなところか」
「へぇ……レッドは、メンバーの事までちゃんと考えてるんだね」
「……へぃ、お待ちどう」
店主が、できあがった料理を次々と運んでくる。
たちまちテーブルの上は湯気の立つ料理で埋め尽くされる。
「……早くて文句言われる筋合いはないね」
ぶすっとした顔でカウンターに戻ったオヤジが、バサリと新聞を広げる。
「この餃子……キャベツとニンニクだけなのに、味わい深い……素材がいいんでしょうね」
イエローが唐揚げの皿にのっていたレモンを手に取る――
ブルーが、イエローの手をガシッと掴んだ。
ニヤリと笑うブルー。
ぱっと笑顔になるイエロー。
「ブルー、いつまで女性の手を掴んでいるんですか。セクハラになりますよ?」
何度か追加注文をくり返し、デブレンジャーたちの体脂肪も溜まってきた頃――
「お客さんたち、デブレンジャーだろ?」
いつの間にかそばに来ていた店主が、ぼそりと言う。
サッと身構える一同。
しばしの沈黙。
両者の間に立ちこめる緊張感。
「何者だと言われてもね……ただの中華料理屋の店主だよ」
頭をかきながら、店主が答える。
「それは……」
店主が答えようとした、その時――
ガシャン!
入口のガラス戸を打ち破って、武装した男たちが突入してきた。
その数、ざっと二十人ほど。
「〈ベトリアン派〉だ!」
カウンターの影に慌てて身を隠す店主。
灼熱したレッドの拳が、襲いかかってきた敵の腹にめり込む。
声を上げる間もなく、ドサリと床に倒れる敵。
強烈なブルーの蹴り!
三人ほどの敵がまとめて吹っ飛ばされ、壁にめり込む。
左腕に装着した巨大な端末で、敵の顔面をしこたま殴りつけるグリーン。
メキョッ!
端末の角が敵の頭蓋骨を陥没させる。
甘食を敵の口にねじ込むと同時に、粘度の高い蜂蜜を鼻の穴に流し込む。
敵は息ができず、苦しみ抜いて死ぬ。
イエローが、左腕のファット・ウォッチに呼びかける。
「もうすぐファトラスが来るから、それまでみんな持ちこたえて――」
イエローが顔を上げたときには、既に戦闘は終わっていた。
メチャクチャになった店内のそこかしこに、倒れた敵が転がっている。
カウンターからそ~っと顔だけ出した店主がその惨状を見、
「す、すごい……これなら〈ベトリアン派〉に勝てるぞ」
ゴゴゴゴゴ……
割れた窓ガラスの向こうに、ニュー・ファトルキングが姿を現した。
【ナレーター】
なぜか火星にあった町中華!
ブルーの予想通り、汚い店はけっこう旨い!
そして、突如として襲いかかってきた敵の正体は!?
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
納豆炒飯は、試してみる価値があるぞ!
〈つづく〉
【次回予告】
やぁ、グリーン・ベジタボーだ。
今回は、いわゆる町中華的なお店が舞台だった。
中華料理ってひとくちに言うけど、地方によって特色があるんだよね。
北京、上海、四川、広東あたりが、よく知られている。
中華は脂っこかったり、辛かったりするイメージもあるけど、野菜たっぷりなメニューもたくさんあって、僕にも食べられる料理が多いんだ。
このところの僕は、ちょっと考えがかわってきていて、肉そのものはともかく、そのエキス――つまり出汁の形でなら、それほど抵抗なく肉や魚を受け入れることができるようになってきた。
以前、ピンクから"ミドリムシ"って悪口を言われたことがあったけど、あれがきっかけになって、いろいろと考えるようになったんだよね。
人生、何があるかわからない。
僕が野菜以外のものを食べられる日が来るなんてね。
さて、物語もいよいよ佳境に入ってきたみたいだ。
次回は敵の正体が判明するかも知れないので、お楽しみに!
チェンジ、ファトル、オン。




