第二十話 新型、ニュー・ファトルキング!
茨城県久慈郡大子町――
【ナレーター】
説明しよう!
袋田の滝の地下深くに、デブレンジャーの秘密格納庫があるのだ!
格納庫に集合したデブレンジャーは、皆一様に上を見上げていた。
彼らの目の前には、巨大戦艦。
【ナレーター】
説明しよう!
見た目の違いは、君たちの心の中にあるのだ!
「任せてください! 新型戦闘艦〈ニュー・ファトルキング〉は、旧型と違って完全国産・独立設計で、F.A.T-LINK不使用の閉回路制御となっています。旧型の弱点であった複雑な操作系統を廃したことで、EMPやハッキングの心配がなくなりました。また、メインの駆動源は“バイオ脂肪電池”で、これは人体由来の脂質を酵素分解して低温安定エネルギーを生み出す、夢のクリーン技術です。だから地球にも優しいし、何より安全です。なにせ旧型は核融合を使っていて、しかも炉が“半常時臨界”状態だったので、常に臨界点ギリギリでした。それに冷却系にはヨーグルトを流してたし、制御コアが真空管だったんですよ。知っていますか、真空管? しかもその真空管が六十年代のソ連製ヴィンテージ品で、壊れたらブルガリアの闇市にしか在庫がないんです。壊れるたびに謎のルートで密輸ですよ……おかげでメンテ班が全員インターポールにマークされるし、毎回ヒヤヒヤものだったんですから、たまったもんじゃありません。というわけで、新型は旧型とは比べものにならないくらいの安全設計になっているんです。ただ、それと引き替えにピーク出力が二割ほど低下してしまっていまして……まぁ、これは仕方ないですね。なにしろ、地球を守るメカが地球環境を破壊してちゃ意味がないっていうか……実際、旧型は、移動するだけで汚染物質をまき散らしているような状況だったわけで、これじゃどっちが敵なのかわかりゃしないという――」
「発酵熱が安定するんですよ! 問題点も多い方式ではありますが、いざという時には食料にもなりますし」
「そのとおり。諸君には、これからニュー・ファトルキングの試運転を行ってもらいたい」
◇
ニュー・ファトルキングの操縦席――
「設備一覧を見てよ――温泉とかテニスコートとか……ウソでしょ! カジノにヘアサロン!?」
「全員分の個室もあるし、ゲストルームまで! 僕、ここに住んじゃおうかな」
「全ての設備を電子頭脳が管理・制御してるんだって……すごいね」
「そういうのは後でゆっくり堪能するとして、まずはこいつをぶっ飛ばそうぜ! みんな、シートベルトは締めたか?」
ブルーの手がアクセルレバーを目一杯押し込むと、ニュー・ファトルキングがドカンと動き出す。
めちゃくちゃな加速!
格納庫のゲートが開く間もなく、袋田の滝を盛大にぶっ壊しながら、巨大戦艦が空へと飛び立ってゆく。
猛烈な加速Gで、全員の身体がシートに押しつけられる。
肺が押しつぶされて、呼吸もままならない。
ヒュォォォ……ンン……
加速が止んだ。
圧迫されていた肺が元に戻り、あえぐように深呼吸をくり返すデブレンジャーたち。
レッドが何度か呼びかけると、ピンクが意識を取り戻した。
「す、すまねぇ……以前の調子で動かしたんだが、トンデモねぇじゃじゃ馬だぞ、こいつは」
「以前よりも最高出力は下がっていますが、かなりピーキーな特性みたいですね」
「ここまで来るのに二十秒くらいかかったとして……加速度は一億Gオーバー! ということは、普通なら乗員は瞬間蒸発、座席は化石、機体は概念だけ残して地球に置き去りです!」
「ニュー・ファトルキングには〈加速度巻き取りシステム〉が搭載されていますので、機体ならびに乗員の安全は確保されています」
「申し遅れました。私はこのニュー・ファトルキングに搭載されている電子頭脳〈オムニ・ファトラス〉です」
「はい。正確には、F.A.Tの一員であるイエロー・レモンの音声指令に従った結果です」
「そういえばイエロー、君はなぜ電子頭脳の名前を知っていた?」
「どうしてだろうなぁ……あっ、マニュアルに書いてあったのを目にしたのかも?」
「ざっと検索しましたけど、マニュアルには開発時のコードナンバーしか書いてありませんね」
「あの時は必死だったからなぁ……自分でも覚えてないんだよね」
「イエローのおかげで助かったんだし、細けぇことはいいじゃねぇか、なぁ!」
「せっかく火星まで来たんだし、観光でもしていこうよ! 火星名物ってなんだっけ?」
「名物ねぇ……土産物なら〈火星の月〉ってことで、フォボスとダイモスか」
「重力が地球の三分の一だから、同じ値段で三倍の量を食べられるんじゃないでしょうか?」
「大きな異常はありません。出力をマイルドにするよう、操縦系を調整しますか」
「ああ、このくらいじゃじゃ馬のほうが、いざって時に頼りになる」
「――敵影を発見しました」
オムニ・ファトラスの声が、心なしか申し訳なさそうに響いた。
「試運転で、戦闘能力も試すことになるとはな……オレたちは運がいいのか悪いのか」
「ファトラス、〈加速度巻き取りシステム〉で溜めたエネルギーはどこにあるの?」
「亜空間のストレージに貯蔵しています」
「なるほど……それを一気に解放すれば、武器として使えるんじゃない?」
「まさしく、その仕組みを使った武装があります――〈グラビティ・クラッシュ・ドライヴ〉がそれです」
「まどろっこしいな……〈重力砲〉に名前を変更だ、ファトラス」
「変更完了」
「レッド・ミートの操作卓に、〈重力砲〉発射トリガーを展開します」
銃のグリップと引き金のようなインターフェイスが、レッドの手元に現れる。
電子的に増幅された敵影に照準を合わせ――
カチリ
引き金を引いた途端、モニターに映し出される大爆発。
「お見事です」
「モット、ロボロボしく、ハナスこトもデキマス、ガ」
「うぃ~す」
「了解」
「……興味深いな。ファトラス、君はどんなテクノロジーで作られてるの?」
「私のプログラムには、敵宇宙人の技術が使われています」
「原理を拝借しているだけなので、危険はありません」
「全てがオープンになっていますので、ご自由にどうぞ」
「可能です。着陸シークエンスに入りますか」
「了解。火星への着陸シークエンスに入ります」
スクリーン一杯に大写しになった火星の姿を、デブレンジャーたちは感慨深げに見つめていた。
【ナレーター】
危なっかしい旧型戦艦に変わって、〈ニュー・ファトルキング〉が投入された!
試運転で遭遇した敵も難なく撃破し、意気を上げるデブレンジャーの面々。
ひょんな事から訪れることになった火星で、彼らを待ち受ける運命とは――
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
袋田の滝が凍った姿は〈氷瀑〉といって、とても神秘的なのだ!
〈つづく〉
【次回予告】
やぁ、みんな。
苦労が絶えないリーダーのレッド・ミートだ。
ブラックが長官代理となって、オレは再びリーダーに返り咲いた。
やはり、リーダーと言えば赤、赤と言えばリーダー。
つまりオレがリーダーになるのが、いちばん自然ってわけだ。
だいたい黒なんて不吉な色だし、気分も沈むし、黒いし、とにかくリーダーには向いていない色だと思う。
個人的な感想だぞ?
あくまでも個人的な。
だが、皆もそう思うよな。
それに、青だってリーダーって色じゃない。
青はニヒルで社会性がない、黄色はカレー、ピンクは女――これはもう、世界の仕組みに組み込まれているといっても過言ではないだろう。
個人的な感想だぞ?
あくまでも個人的な。
……ああそうだ、緑を忘れていた。
緑は影が薄い!
これについての異論は認めない。
今回はニュー・ファトルキングの試運転だったわけだが、その性能には驚くばかりだ。
なにせ、一分もかからず火星に着いてしまうんだからな。
いつも、科学的な説明はグリーンに任せているが、他のメンバーは誰も聞いていないし、おそらく理解もしていない。
皆も同じ気持ちだと思う。
リーダーだから、他人の気持ちは良くわかるんだ。
だが、メンバーそれぞれに役割というものがある。
その役割に沿った仕事を割り振るのも、リーダーの役目だ。
グリーンのつまらない解説に、いちおう耳を傾けるのもリーダーの仕事なんだ。
リーダーの重要性やその仕事の大変さをわかってもらえたと思う。
そして、有能でないとリーダーは務まらないことも!
おっと、時間をだいぶオーバーしてしまったようだ。
リーダーなら許されるがな。
さて、次回は火星に降りて少し歩き回ってみようかと思っているのだが――
どうせ一筋縄ではいかないんだろう?
オレにはわかってるんだ、リーダーだしな。
それではリーダーも、いや来週もまた観てくれよな!
チェィンジ・ファトル――オォン!!
デブレンジャーのリーダー、レッド・ミートでした!
【ナレーター】
リーダーリーダーうるせぇな!




