第十六話 盛況、まんぷくフェス!
【ナレーター】
ファトルキングのキッチンカー・モードが、予想を超えた大人気!
オモチャに付属している食材の他にも、世界各国の様々な料理のミニチュアが、ぞくぞくと発売されることが決まったのだ!
江戸川の河川敷に停まっている、キッチンカー形態のファトルキング。
デブレンジャー主宰の〈まんぷくフェス〉は、休日の家族連れで賑わっていた。
「いらっしゃい、いらっしゃい! 美味しい串焼きはいかがですか~」
「新鮮なイカやホタテを使った海鮮焼きそば! 冷えたビールもあるよぉ! さァ、買った買ったァ!」
「え~、冷やしきゅうりは如何ですか……さっぱりしてておいしいと思います……皆さんご存じですか? きゅうりは低カロリーで水分が豊富なんです。暑い夏にこそ、ピッタリの野菜……きゅうりに割り箸を差して冷やしただけのこの商品。なんと一本八百円……お買得ですね」
「グリーン、もっとおっきな声出さないと、お客さんに聞こえないよ」
「こういうの苦手なんです……それに、なんだか詐欺を働いているような気がして……」
「お祭りの屋台なんて詐欺みたいなもんだよ? 雰囲気と勢いで売るんだから、威勢良くしないと。ブルーを見習いなさいよ」
「はぁ……それにしても、値付けが高すぎませんか? 冷やしきゅうりが八百円って……」
「ちょ~かんがエクアドルで足止めくらっちゃって、私たちが活動費を稼がないとダメだってこと、わかってるよね?」
「わかってますけど……長官もどうかと思いますよ。だって、チョコレートを山ほど買って税関で止められて、そしたら財布が盗まれていたことが判明して……極めつけはパスポートが偽造だってことがバレちゃったんですよ?」
「チョコレートに関しては、アタシが頼んだことだから、あんま責めないであげて」
「エクアドルと言えば、チョコレートしか思い浮かばないでしょ?」
「すごい偏見ですね。他にも、ガラパゴス諸島とか赤道記念碑とかあるじゃないですか」
「……それで、チョコレートをどのくらい買えば、税関で止められるんですか」
「あっ、お店ほったらかしだった! グリーンもちゃんと声出していこ~っ!」
持ち場に戻ったピンクは、店先に山と積まれていたスイーツの在庫が消えていることに気がついた。
「えっ……なんで!? あんなにあったスイーツが空っぽなんだけど!?」
「さっき、大口のお客さんが来て、ぜんぶ買ってくれたんだ。ピンク、持ち場を離れてどこへ行ってた?」
「それにしたって、半分は取り分けておいてくれたっていいじゃん!」
「そうか……そこまで気が回らなかった。ピンクは、多くの人においしいスイーツを味わってもらいたかったんだな」
「違うよ! 売れ残りを食べようと思って楽しみにしてたのに!」
「あぁ……こんなことなら、あんま美味しくないスイーツを仕入れとけば……そしたらぜったい売れ残るから、後でそれ食べられたのに……」
敵の気配!
ビシィッ!
「その通りだ」
グルテン伯爵は、余裕の笑み。
「この度は、お買い上げ誠にありがとうございます。売上げは全て恵まれない人々に寄付させていただきますので――」
ぺこり。
【ナレーター】
説明しよう!
恵まれない人々とは、活動予算が不足してるデブレンジャーを意味しているのだ!
「それはそれとして――伯爵って糖質オフ生活してるんだよね? だったら、スイーツなんてどーせ食べないんだから、肉とか魚を買い占めればいいのに!」
「これから買い占めようと思ってたのだ……早々と正体を見破られてしまったのだから、仕方あるまい」
残念そうなグルテン伯爵。
「伯爵だから、あたりまえだ!」
「納得してる場合か! せっかくのフェスティバルを台無しにするとは、許せん!」
「……勝手に私を敵と決めつけて、焦って戦いを挑んできたのは君たちではないか」
「私は無駄な争いを好まない。だから、まず君たちの売り物を買い占めて、フェスを終わらせた後、ゆっくりと勝負に取りかかろうと考えていたのだ」
「売れればいいというものではない! このフェスは地域貢献も兼ねているんだ!」
「……どうも、意思の疎通がうまくいっていないようだな。ピンク、今朝のミーティングには君も参加しただろう」
「なんだ」
「何故だ」
「ああ」
「品物は届けてくれるのか?」
「いや、いらん」
「何故だ」
「わからん野郎だな! 俺たちは金が欲しい、お前は品物が要らない――ならば金を置いて、とっととここから立ち去れば丸く収まるだろう!」
「そうしたら、私だけが損をしてしまうではないか」
「あたりまえだ」
見れば、彼らの周りには人だかりが。
「この状況――俺たちが伯爵をカツアゲしているようにしか見えないぞ」
「みなさん、ここは危険です! ブルー、グリーン、ピンク、地域の皆さんを早く安全な場所へ!」
一同「了解!」
小一時間後――
「記憶混乱ウェーブを撒いておきましたから、我々の悪行が広まることはないでしょう」
「……終わったか?」
デブレンジャーの用意したブルーシートの上に寝そべっていた伯爵が、よっこらしょと体を起こす。
ビシッ!
「ではやるか!」
ビシッ!
「なんだ、まだ何かあるのか」
「この河川敷では、街に近すぎる。騒音だの爆発だのがあれば、秘密基地の方に苦情が殺到するからな。いつもの採石場に移動するぞ」
「どこにあるんだ、その採石場とやらは」
「私は組織でも少々浮いた存在なのでな」
【ナレーター】
説明しよう!
よく使う場所なので、地図の用意があるのだ!
「……ちと遠いな。馬車で三日ほどかかる見当だ」
「遠出をするには、いろいろと準備がある」
「まどろっこしいな……そうだ、ファトルキングに乗せてやるから、一緒に行こう」
「いいのか?」
「席もひとつ空いているし、そのほうが効率がいい。みんな、いいな?」
「僕は賛成しかねますね。仮にもこいつは敵ですよ? その敵をファトルキングの内部に引き入れるなんて、情報漏洩の観点からも危険すぎます」
「それは……スパイスを目玉にすり込んでやる! とかなんとか言うはずです」
ゴウンゴウンゴウン……
ファトルキングの操縦室。
イエローの席に座る、グルテン伯爵。
「……うむ……馬車と違って、ふわふわとして……うぉえっぷ!」
「乗り物酔いですか……そこのボタンを押すと、窓が開いて風が入ってきますよ。
「すまない……こういう乗り物には慣れていなくて……このボタンか――」
パカッ!
伯爵の座っていたシートがガタッと前傾、それと同時に床にぽっかりと穴が空いた。
「うわあああぁぁぁっっ!」
……パタン、スッ。
床が閉じ、シートが元通りの位置に戻る。
一同「おぅ!」
【ナレーター】
高度一万メートルから落ちたのでは、ひとたまりもない。
グルテン伯爵は、戦いの空に散っていった。
それは亡きイエローの意思だったのだろうか――
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
最近の屋台は値段が高すぎて、気軽に焼きそばも食べられないのだ!
〈つづく〉
【次回予告】
ボンジュール、ブラック・ノワールだ。
今回は私の出番がなかったので、こちらに登場することにした。
夏の暑いさなかに屋台で焼きそばを焼くなど、私には耐えられそうもない。
ゆえに、リーダー権限で病欠とさせてもらった。
ところで、私は美味しいものしか食べないわけだが、美味しいもの=高級なものとは限らない。
先ほど焼きそばの話が出たが、世の中には美味しい焼きそばだってある。
たとえば、焼きそばパンの焼きそばだ。
伸びきった麵に薄いソース。
口に含むと喉に詰まりそうになる、あの感じ。
――悪くない。
屋台の焼きそばには、懐かしい思い出もある。
店主がサービスだと言って、ソースをどんどん追加するのだ。
そんなことをしたら、味が濃くなりすぎてしまう……なにがサービスなものか!
少年時代の私は、ハラハラしながらその様子を見守ったものだ。
だが、できあがった焼きそばは味が濃いどころか、むしろ薄い!
さては、あのソース――あのソースの正体は、ほぼ色の付いた水だったのだ!
からくりに気づいたのは、大人になってからのことだった。
そんな屋台の焼きそばだって、悪くない。
美味しいものとは、すなわちおいしく感じるものだ。
つまりは食べる者の主観だ。
美味しいと感じるから美味しい。
それで良いじゃないか。
では、次回もまたこの番組を応援して欲しい。
チェンジ、ファトル……オン!
ア ビヤント!




