第十五話 見よ、新必殺技!
地方の採石場――
【ナレーター】
説明しよう!
箱根の温泉街は、君たちの心の中にあるのだ!
「調べると、ここみたいな採石場は箱根にも存在するみたいですね」
「ここはいつもの採石場に似ているが、箱根なんだ。そうだろ?」
「あ、ああ……そうでした。僕たちはいま、箱根にいるんですよね。別撮りとかではなく」
「スミマセン……そういえば、昨日は遅くまで有料チャンネルを観てました」
「ちっ、違いますって。僕が観てたのは、〈時代劇オンリーチャンネル〉ですよ!」
「……あやしいな? 怒らないから本当のことをゲロっちゃえよ」
「ホントなんですって! 何を見てたのかも言えますし、ストーリーだって……なんだったら、モノマネしましょうか? "――てめぇら人間じゃねぇ……たたぁっ斬ったァる!"」
レッドが頑張って敵がいるように振る舞ってはいたが、デブレンジャーの前には人っ子ひとりみあたらない。
聞こえてくるのは、吹きすさぶ風の音だけ。
キッチンカーの傍らで、会席料理を前に手酌で日本酒をちびりちびりと呑るブラック。ファトルスーツの上から浴衣を着ている。
「見えない敵と戦うこともまた、F.A.Tの役目ではなかったか?」
「なるほど、そういうことか! グリーン、ファット・レーダーで周囲を探ってみてくれ」
気がつけば、グリーンが地面に倒れ、胸を押さえて苦しんでいる。
「心臓か!? 日頃、サラサラ血を自慢しているくせに、どうして――」
「だが、血管が詰まったのはドロドロ血が原因だろう……食事はともかく、睡眠不足もホルモンバランスを崩して血液をドロドロにする可能性があるんだ……遅くまで、エロ有料チャンネルを観てるからこんなことになるんだ!」
「違う! 断じて違う! 僕が観ていたのは〈時代劇オンリーチャンネル〉です! モノマネだって――」
「今は言い争ってる場合じゃねぇぜ……グリーン、戦闘は続けられるか?」
パンッ!
破裂音と火薬の臭い――ブラックを除く全員が、キョロキョロと周囲を見回すが、あたりに動くものは見当たらない。
互いに背を向けて円陣を組み、周囲を警戒するデブレンジャー。
息が詰まるような緊張感の中、ただひとりブラックだけが静かに杯を傾けている。
と――
ドサッ、ドサッ……ドサッ。
ブルー、ピンク、グリーンが、何の前触れもなく倒れる。
レッドの周りで、胸を押さえてうめき声を上げる三人。
「彼らは、撃たれたから苦しんでいるのではない。苦しんでいるから撃たれたのだ」
パンパンパン!
銃声が三発。
「ま、まただ……三人が倒れた後に、銃声が聞こえた――これが、因果律の逆転なのか……」
「おそらくタキオン粒子を使った攻撃――敵は因果律を操れるようだ。今のところ、ファトルスーツは敵の銃弾を跳ね返していて、衝撃はあるものの死に至るまでのダメージは受けていない」
フラフラと立ち上がる三人。
「でも、ちょ~痛かったぁ……うぅ……なんか骨にヒビ? 入ったみたいなんだけど」
「イタタタ……二度も撃たれると、さすがに堪えますね……だけどブラックの説明でなにが起きているのかわかりました。つまりこれは、いわゆる“タキオン粒子”による攻撃です。タキオンとは、理論上、光速よりも速く移動する粒子のことで、通常の因果律に従わない、つまり“結果が先に起こり、原因があとから来る”という性質を持っています。たとえば、僕が銃で撃たれたとしましょう。普通なら“銃声がしてから弾が当たる”ですが、タキオンの弾丸の場合は逆です。“まず撃たれた状態になり、そのあとで銃声が聞こえる”んです。このとき、観測者によっては“撃たれた”という現象が“自然発生したように見える”ことがあります。つまり、発砲が未来に起こる出来事でありながら、現在の僕の肉体に結果だけが先行して現れるのです! さらに、その発砲者がこの時点で“まだ存在していない”こともありえます。タキオンは“未来からやってくる粒子”なので、“これから発砲する誰か”が敵である可能性が高いのです。これは時空の非可逆性とエントロピーの逆行という観点からも矛盾していません! ポカンとした顔をしてますね……では、バカにでもわかるように説明しましょう――」
「そうだよ。モタモタしてたら、また撃たれちゃう! 痛いのもうヤダからね!」
「……わかりましたよ。せっかくノッてきたところなのに。対策は簡単です。敵がタキオン粒子を使っているということは、タキオン波を検出すればいいだけの話で、それにはこの――」
ドッ!
腹の真ん中に空いた大穴を、信じられない面持ちで見つめるグリーン。
どさっ!
地面に倒れたグリーンは、もうそれきり何も話さない。
ドゴォーーーンッ!!
地方の採石場に、雷鳴のような爆発音が響き渡った。
「急げ、お前のちからはまだ弱い。急がねば仲間の死に間に合わなくなるぞ」
「目を閉じて呼吸を整えろ……吸って吐く、吸って吐く……呼吸だけに集中するんだ」
「目を閉じ――吸って……スウウッ……吐く……フゥゥゥゥッ……」
「そうだ、羅亜怒……心を無にするんだ。そうすれば、赤嶺家の血がお前を導いてくれる」
「……吸って……スウウッ……吐く……フゥゥゥゥッ……吸って――はっ!」
レッドが、ぱちっと目を開けた――グリーンが生きていて、先ほどの説明をくり返している!
「……わかりましたよ。せっかくノッてきたところなのに。対策は簡単です。敵がタキオン粒子を使っているということは、タキオン波を検出すればいいだけの話で、それにはこの――」
レッドは、力一杯グリーンを突き飛ばす。
ドヒュッ!
先ほどまでグリーンが立っていた場所を、強烈な衝撃波が通り過ぎてゆく。
グリーンが腕の端末を操作すると、各人のファット・ウォッチに敵の位置情報が表示された。
「注意してください。その位置に敵が現れるのは――およそ三十秒後です!」
「ファトルキングは稼働中だ。一撃で確実に仕留めるには、それしかないぞ」
「稼働中……って、キッチンカーモードであなたの食事を作っているだけじゃないですか!」
「一度始めた食事を途中でやめるわけにはいかん。F.A.Tの隊員ならば、そのくらいのことはわかっているはず」
一同「おう!」
ファット・ウォッチの表示に従って、敵の出現予測ポイントを囲む四人のデブレンジャー。
レッドの合図で、互いに背を向けて円陣を組んだ四人が、一斉に尻を突き出す!
その真ん中へ出現する敵の姿――
ドォゴォーーーンッ!!
大爆発!
「ぐえええっ……あつくるしいっ!!」
断末魔の叫びを残し、敵は一瞬にして圧死した。
「もう少しズレてたら、同士討ちでしたからね。極めて危険な技です」
【ナレーター】
説明しよう!
放送時間というものがあるのだ!
地方の採石場に――いや、箱根の空に燃える夕日が、五人の戦士たちの姿を真っ赤に染めていた。
【ナレーター】
因果律を操る強敵に苦しめられたデブレンジャー。
だが、時を遡るというレッドの特殊能力によって、なんとかそれを倒すことができた。
そして何故か、レッドの――赤嶺家の秘密を知っていたブラック・ノワール。
果たして彼は何者なのか!?
謎は深まるばかり――
たたかえ、デブレンジャー!
負けるな、デブレンジャー!
昔々のSFのように、何でもかんでも〈特殊な〉で済ませたいところなのだ!
〈つづく〉
【次回予告】
ども、ピンクだよ~っ♥
なんか、戦闘のあとにグリーンが興奮してゴチャゴチャ説明し始めてうるさかったから、また甘食地獄を喰らわせてやったのね。
そしたらアイツ、どうしたと思う?
ポケットから牛乳取り出して飲んでんの!
信じらんなくない?
だって、牛乳だよ?
アタシが甘食を食べさせること、予測してたってことじゃん。
キモチワル~。
グリーンって、べつに悪いヤツじゃないんだけどさぁ……だけど、たまに苔に話しかけたりしてるんだよねぇ……
怖っ!
え~と、次回は……えっ、ブラックの秘密が明らかになっちゃうの!?
またウソじゃないよね?
ホントなの?
うわぁ、楽しみ~っ!
レッドの過去もナゾだけど、ブラックはもっとナゾなんだよね~。
みんな、こころして待つよ~に♥
ちぇ~んじ、ふぁとる~ぅ……お~ん!




