02, 初めてのお仕事
広い、無駄に広い校舎を歩く。
私立銀縞高等学校は、世界的なセレブ校であり女子高である。
そこにトレードグループ・05,として、女の子でありながら初宮まつりは居る。
05,初日のお仕事は、銀縞高等学校の生徒達に体育館で挨拶をする事。
5人全員が並んで廊下を歩く様は何とも言えない光景である。
普通女子高ではお目にかかれない貴重な男子生徒なのだから。
「ここが体育館かあ……」
「金縞と全く同じ作りじゃねえかよ…」
ぶつぶつ一年組が文句を言いながらも、三年組が押して入場。
『きゃ~~~~~~~!!』
大歓声の中、05,はステージに立つ。この状況を例えるなら、アイドルグループのコンサートだろうか。
マイクを教師から受け取り、一人ずつ丁寧に質問に答えたり自己紹介をしていく。
その中に一人、無愛想な子がいた。
『朽くん?』
司会の女教師が話しかけても、ふいっと顔を背ける。
『こいつ、元々こうなんです。気にしないでください』
万がフォローすると、苦笑いして司会は進行。
「朽先輩、どうしたんですか?」
こっそりまつりが聞いても、冷たい目で睨まれるだけ。
放っておこう。
05,に選ばれたことを、あまり快く思っていないのだろう。
『では、今日からよろしくお願いしまーす』
湊がまとめ、5人は体育館を後にした。
「はあ…疲れた…」
まつりがため息を吐くと、純がまつりの頭に肘をついて眉を下げ、呆れた様に笑った。
「まつり、このくらいで音を上げちゃ駄目だよ?」
「え、どういうことですか?」
「05,は学費免除の分、ちゃんと女生徒に尽くさなきゃ」
パチン、と指を鳴らしウインクする純。
「それがどんな身分の奴でもな!」
湊も後付けして言った。
「まあ、男として女に囲まれチヤホヤされて過ごす高校生活は最高だろう」
万が嬉々とした顔でまつりに言うのだが。
(やっぱり…)
「朽先輩、大丈夫ですか?」
「……」
喋ろうともしない。
目を合わせようともしない。
「朽あ、なんか喋ろう?」
純が心配そうに覗き込んでも、またふいっと顔を背ける。
「朽、いい加減にしろ」
万がその鋭い目で眼をとばしても、微動だにしない。
――そのとき。
「いい加減にしろ…?」
重い口を開いた朽の本日第一声。
「調子こいて他人に媚売ってる君らだけには言われたくない」
ふう、と朽は再び口を閉じた。
超冷淡な、感情のこもっていない声。
キャラとしては受けがよかったものの、こうも仲を乱す様なメンバーだと考え物だ。
「朽先輩、言いすぎっすよ…」
湊が言っても、素晴らしい位無視。
「…よし、明日は休日だったな」
万がまつりに確認するように訊ねる。
「はい、そうですけど…」
「じゃあ明日、ここに集合。朽の心を開かせる」
未だにそっぽを向いて立っている朽を見て、まつりは言った。
「万先輩の頼みなら仕方ないですね」
にっこりと女の子の微笑みで言うまつりに、朽以外の全員が見惚れた。
「まつりが言うなら、俺もいっちゃお」
「僕は元々大賛成だけどねー」
「朽は?」
万が訊くと、少しだけ俯いて「わかりました」と同意した。
「じゃあ明日12時、銀縞に集合!あ、一応メアドと番号交換しとくか」
朽にも無理やり交換させ、各自教室に戻った。
「まつり君はどんな子がタイプですの?」
席に着くと、女子達がまつりの周りに集まった。
慣れるまで少し時間がかかりそう。
「んーと、特に希望はないけど、優しい子がいいな」
『素敵ー!』
(なにがどう素敵なんだ…)
一言喋れば騒がしい。
一体朽はどうやって切り抜けていくのだろうか。
「まつり君のおうちは何をやってらっしゃるの?」
「一応、父がIT関係の社長で、母はその子会社の名誉会長なんだよ」
「まあ、リアルでいて嫌味も感じられないわ!」
―――…一体、誰が05,なんかというものを考え付いたのだろう。
だけど、これで無事卒業できるなら…!
まつりがそう思っていると、湊が近づいてきた。
「やっほー、俺様参上☆みたいな」
『湊くん!』
女子のテンション急上昇中。
助かった、と席を立とうとすると制服を掴まれ逃げられない。掴んでいるのは、湊だ。
「え…」
「あははー、まつりどこ行くの?まさか帰るのかな?トイレ?――逃がさねえぞ」
オーラが黒い。
それはそうか、湊の周りにはクラスの半分以上の女子が集まってるんだもんな。
おとなしくまつりは席に再度着いた。
「湊くんは、中等部の頃から金縞だとお聞きしましたわ」
「うん、でも実は幼等部からエスカレーター式にね」
「まつり君は今年から?」
「俺は元々、違う学校に行ってたから…」
苦笑いしつつ、まつりは答えた。
憂いも垣間見える表情に女の子もうっとり。
という流れで、一日のお勤めは終了する。
まつりは帰り支度を済ませ、送迎車に乗って帰宅した。
*
「おかえり、まつり!遅かったね」
父がリビングでそう迎えた。
「遅いってお父さん…いつもと同じだけど…」
そうだっけな、と言いながら父は一人笑っていた。
「ところでまつり、何故制服はズボンなんだ?」
いきなり指摘され、言葉が見つからない。
「しかもその校章、【GS】が銀縞で【KS】が金縞のはず。お前がつけているのは【KS】の方じゃないか」
「ごめんなさいっ」
大きな声で謝り、その場にいた使用人たちも驚く。
「私、何かの間違いで金縞に入っちゃったの!」
『!?』
頭を深く下げ、反省の態度をとる。
「では、学校に言って直して…」
「もう遅いの…」
「どうして?」
意を決して、顔を上げる。
「私、05,っていうトレードグループに入っちゃったから!」
――――。
いまいち状況を把握していない父に、まつりは最初から全てを話した。
「―――そうだったのか」
全てを理解した父は、そう呟いた。
「本当にごめんなさい…」
「でも、まつりが可愛くも格好いいという魅力があってこその立場だ。誇りを持て。父さんは応援してるぞ!」
我ながら、理解力のある父を持ったものだ。
「ありがとう、お父さん」
「で、まつり。その四人くらい女の子だと知っているんだろうね?」
「あ…」
「知らないなら、近いうちに言っておく事だ。変な誤解を招く」
「はあい…」
少し叱られた。
普通は激怒なんだろうけど、滅多に怒らない父だから逆に恐ろしい。
(明日は12時に集合…そういえば)
どうして入学式にも教室にもいなかった湊が、05,に選ばれた事を知り、理事長室にもいたのか。
もしかしたら皆、湊がサボり魔であることを知っていたのかもしれない。
(幼等部からいるんだもんね)
疑問を解決したところで丁度、使用人から夕食の合図が聞こえた。




