第9話 三人の女性冒険者
護衛依頼の集合場所は、町の出入り口横にある馬車の停留所だった。
冒険者ギルドからは結構離れており、依頼人をあまり待たせるわけにも行かなかったので、俺は早足で向かった。
「失礼、隣街までの護衛依頼を受けてきたタクマです。依頼人のショウジュさんというのは?」
馬車の特徴を聞いていたので声を掛けると、四人の男女がこちらを向いた。
その内の一人が依頼人のようで、恰幅の良い中年男性が近付いてきた。
「おお、お待ちしておりましたよ。クロエさんが優秀な冒険者を是非一名加えたいとおっしゃってましたので。よろしくお願いいたします」
彼は歓迎の雰囲気を纏いながら笑顔で俺にそう告げるのだが、少しその内容が気になった。
「うん? 元々空いていたのではなくてですか?」
クロエさんからは空き枠があるからと護衛依頼を勧められたのだが、話が食い違っている。
「クロエさんからはタクマという冒険者が護衛にくると聞いてますから間違いではないかと?」
彼は首を傾げながらそう答えた。
「なるほど……そういうことか……」
そこでどういうことなのか理解した。
この護衛依頼、元々は三人募集の仕事だったのだろう。
先日の夕方に俺が冒険者登録をしたことで、彼女なり良い仕事を割り振るつもりで考えたところ、この仕事にねじこむことにしたようだ。
登録したてでうまくやれるか心配してくれたのだろうと推測が立つ。
「納得しました。それじゃあ本日から宜しくお願いします」
今回は好意に甘えさせてもらうのだが、ちゃんとお礼を返さなければなるまい。
そんなことを考えつつ、ショウジュさんと握手をしていると、こちらの様子を見ていた三人の女性が待ったをかけた。
「ちょっと待って欲しいんだけどさ!」
その内の一人の少女が前に出てくる。
パッチリとした瞳を持つ小柄な少女で、腰には二本の短剣を挿しホットパンツと動きやすい格好をしている。
「この依頼、護衛人数が三人だったから受けたの。後から男が一人来るってわかってたら受けなかったよ!」
苛立ちを隠すことなく俺を睨みつけてくる少女。
「やめな、ミア。それは依頼人が決めることだ」
「だけど、ナタリー。私たちじゃ不満だって思われてるってことなんだよ?」
長身の女性がミアと呼ばれた少女を止める。
彼女はナタリーという名らしいのだが、自分の身長を超えるほどの長剣を背中に背負っている。身につけている防具はビキニアーマーなのだが、鎧自体も傷が入っており、彼女の肌にはうっすらと傷のようなものが残っていた。
歴戦の戦士を思わせる出立ちだ。
「ミアの言うとおりです。ろくに働きもしない男性が護衛依頼に参加して、仕切るつもりならこちらは降りさせていただきたいと思います」
「そんな無茶な、アメリアさん。どうか考え直していただけませんか!?」
依頼人のショウジュさんが血相を変えて最後の一人の女性に縋りついた。
肌が露出した純白のドレスに身を包み、宝玉が嵌め込まれた美しい杖を持っている。おそらくは魔法を使う人間なのだろう。
歓迎されていない空気を感じる。
このまま俺が回れ右をして帰ればことは納まるのだろうが、クロエさんが心配してショウジュさんに頼み込み依頼をねじ込んでくれたのだから、その優しさを無碍にするわけにはいかない。
「えっと、邪魔にならないように立ち回りますし、どうにか同行させてもらうことはできないでしょうか?」
できるだけ低心で頼み込んでみることにする。
「まあ、落ち着けアメリア。ここで依頼を蹴って帰ったらペナルティになる。そうしたら今後の仕事にも影響があるだろ?」
ナタリーがアメリアの肩に手を置き、デメリットを忠告した。
「それはそうですが……」
どうやら、仲間の話は聞くらしく、風向きが変わってくる。
「うーん、確かにそれはそれで面白くないんだよねー」
ミアはアゴに手を当て少し考えると……。
「そうだ、やっぱりあんたが自分で抜ければいいんだよ!」
「初の依頼なんだが、ここで抜ける宣言をしたらペナルティがあるのは同じでは?」
名案とばかりにキラキラと目を輝かせ告げるミアに、俺は今しがた聞いたばかりのデメリットを告げる。
「私は女同士でしか依頼を受けたくないし、あんたは邪魔なんだから仕方ないじゃない」
あまりにも我儘な内容に空いた口が塞がらない。
そんな話、呑めるかと思っていると、ミアは提案をしてきた。
「だったらさ、私と勝負しない?」
「……勝負だって?」
「そ、あそこに木があるのが見える?」
五十メートル程離れたところに十メートル程の高さの細い木が並んでいる。
「見えるけど、それがどうしたんだ?」
「今から合図して同時にスタートして、あの木の天辺に生ってる木の実を先にこっちに持って帰ってきた方が勝ち。勝った方が負けた方の言うことを何でも聞く。私のお願いはさっき言った通りだからね!」
ルールを説明するミア。
依頼人のショウジュさんはというと困った顔をしており、助力は期待できない。
ナタリーもアメリアも今度はミアの提案に口を挟まないことから、内心では俺に負けて欲しいと思っているのだろう。
正直なところ、勝負に気乗りしないのだが、皆が納得している以上は俺も駄々をこねるわけにはいかない。
「わかった、その条件でいい」