第8話 初めての依頼
「あー、いらん恥かかされた!」
冒険者ギルドから逃げるように離れた俺は、公園のベンチに腰掛けると身体の力を抜いて背もたれに寄りかかる。
幼い女児がポカンとした顔でこちらを見ているが、今は気にしている気力がない。
「確かに自分で選択したけど、それを称号に反映するとか嫌がらせだろ!」
身分証という目に見える形で示す必要性はまったくないのではなかろうか?
身分証の魔導具というのは古代文明が開発したアーティファクトなのだが、これを作ったやつは絶対に性格が悪い。
もし目の前にいたら殴り飛ばしているところだ。
「それにしても、軒並みステータスが高いのはあの選択肢のお蔭だろうな」
勇者の体力と賢者の魔力と精霊使いの精霊力。いずれもAとなっている。
あの場では聞き耳を立てている冒険者がいたので詳しい説明を受けることができなかったが、おそらく普通の冒険者はそこまで高いステータスを持っていないはず。
「転生特典は確かに約束を守った……ということはだ?」
最後の一つのペナルティに関してもガチということになるだろう。
一瞬、言葉に詰まるが元々、現代であのまま過ごしていたとしても童貞のままだった可能性は高い。ここは割り切るべきだろうか……?
「ひとまず、明日になったら依頼を受けられるし、今日のところは休むとするか……」
無一文の俺は、人気のない場所を探すと身体を休めるのだった……。
翌日になり、インベントリに入っていた果物で腹を満たした俺は、再び冒険者ギルドを訪ねた。
目的は、クロエさんが用意しておいてくれた依頼を受けるためだ。
「あっ、おはようございます。タクマ様」
朝ということもあり、それほど人がいない。昨日は依頼が終わった後だからあんなに冒険者がいたのだろう。
「何かよさそうな依頼はありましたか?」
「そうですね、タクマ様の実力であれば護衛依頼はいかがでしょう?」
「護衛依頼ですか……」
彼女の提案に俺は眉根を寄せる。
「何か問題が?」
他人と一緒に依頼を受けたことがないもので……。
依頼書には募集人数が書かれているのだが四名となっている。見知らぬ冒険者三人と同行することになりそうだ。
「確かに、強い冒険者の方で、他人と足並みを揃えられない方もいらっしゃいますが、タクマ様なら大丈夫ではないかと?」
先日のやり取りから俺が揉め事を回避するタイプだと認識したのだろう。
実際、他の冒険者と行動をともにしても揉めることはない。
「実は、既に三名決まっているのですけど、その三人の方が中々癖が強い方でして……、他の冒険者の方が受けてくださらないのです」
それで困っていたところに都合よく俺が現れたということか。
正直、あまり気乗りしないのだが、冒険者を続けていくならクロエさんとは今後もやり取りをすることになる。
ここで恩の一つを売っておくのも手だろう。
「わかりました。その依頼、引き受けることにしますよ」
「本当ですか! ありがとうございます!」
彼女はホッとした表情を浮かべると、俺の両手を握り感謝を伝えてきた。
「それでは、こちらが集合場所になります。依頼人も他の護衛も既にいるはずなので、早速向かってくださいね」
集合場所の地図を受け取り、依頼の手続きをした俺は、早速集合場所へと向かった。