第5話 街に到着
「おっ、街が見つかったな」
異世界に転生した翌日の夕方。俺はようやく街を発見することができた。
道中は特に苦になるようなこともなく、水は微精霊に出してもらったし、食料は木に生っている果物を風の微精霊に頼んで採ってきてもらった。
しばらく歩いていると、門が見えてくる。どうやら検問があるらしく、兵士が二人門の前に立っていた。
「身分証の提示をお願いします」
日本語ではない発声をしているのだが意味がわかる。自動翻訳が働いているらしい。異世界転生の特典だろうか?
「えっと、身分証は持っていません」
俺がそう答えると、兵士の一人は俺の格好を観察した。
「武器も防具も身につけずに街道を歩いてきたのか?」
「実は、道中盗賊に襲われまして。荷物も馬車も奪われてしまい、身分証もその時に紛失してしまったのです」
あらかじめ考えておいた言い訳をしてみる。すると、兵士たち同情したかのような顔をすると申し訳なさそうに謝った。
「領地の荒廃は我々の責任だ。申し訳ないことをしたね」
「命があって幸いだ。そういうことなら、仮の身分証を発行しよう」
テキパキと手配をしてくれる二人。
実際、盗賊の被害に遭う者も多いのか、心を痛めているようだ。
「こちらの水晶に手をかざしてくれ」
「これは?」
「犯罪歴がないか調べるための魔導具だ。ときおり、身分証をなくしたと偽って潜り込もうとする盗賊が存在しているからな」
「なるほど、大変ですね」
俺は彼らを労いつつ魔導具に手をおく。すると、水晶が青く光った。
「どうやら問題ないようだね。これは仮の身分証になる」
そう言って、銅でできたプレートをつけた首飾りを渡してきた。
「滞在中はその身分証を首からぶら下げておくように。それと、新たな身分証を発行するには街にある各ギルドに行くといいぞ」
「それって、冒険者ギルドとかですかね?」
俺の質問に兵士は頷いた。
「この街にあるのは「冒険者ギルド」「商業ギルド」の二つになる。もっと大きな街や王都であれば「錬金術師ギルド」や「魔導師ギルド」もある」
「ギルドって一度所属したら他には入れないんですかね?」
もしそうなら、加入するギルドについて考えなければならないところだ。
「ギルドの登録だけならどこのギルドも無料で行うことができるが、上のランクのギルド員になるにはそれぞれ条件が異なるぞ」
どうやら、身分証を作るだけならどこでも良いらしく、実際に活動していく上で自分に合ったギルドを選ぶのがよいとのこと。
「色々親切にありがとうございます」
俺は兵士たちにお礼を言うと門を通り街へと入った。
「おお、凄いな!」
目の前の光景に感動する。
石造りの地面と、大きな道路。
両側には店がずらりと並んでおり、遠くには屋敷が見える。
道路を馬車が行き交っており、通行人は一般人が多く、買い物カゴを持って買い物をしている様子。
中には武器や杖を持っている人間、法衣を身につけている者もおり、彼ら彼女らが冒険者なのだろうと推測が立つ。
街に到着するまでは沸かなかった異世界に転生した実感がようやく湧いてきた。
周囲の人間は俺の姿を気に留めずに横を通り過ぎていくのだが、冒険者の何人かがチラチラとこちらに視線を向けてくる。
もしかすると、何かしらの力が漏れておりそれを感じているのかもしれない。
「とりあえず、冒険者の格好をしている人についていけばいいか?」
街に入った人間はとりあえず街の中心に向かっているようなので、俺もそちらに向かう冒険者についていくことにする。
途中の店では先程収集した果物が売っていたり、ガラスケース越しに高級な魔導具を扱っている店だったり、綺麗な宝石類を扱っている店や、服飾関係の店まで見て回りたくなる店が沢山あった。
目移りしながら向かっていると、前を歩いている冒険者が建物に入っていく。
木造建築の大きな建物で、中から出てくる者も武器や防具を身に着けている。どうやらここが冒険者ギルドで間違いなさそうだ。
木のドアを押し開けると中の様子が見える。
テーブルがそこら中に並んでおり、酒の匂いが漂っている。
テーブルにつき酒を呑んでいた連中の視線が一気に俺に集中する。
値踏みするような、余所者を警戒するような、せせら笑っている者もいた。
ようやく辿り着いたここから冒険者としての活動が始まる。
俺は連中の視線を受けながらカウンターへと向かった。