第14話 野営
「おっ、ちゃんときたね?」
朝になり、宿の朝食をきっちりとった俺は、ショウジュさんが待つ宿へと向かった。
ショウジュさんはまだ宿の中らしく、宿の前にはナタリーとミアとアメリアが立っていた。
「昨夜はお楽しみだったかい?」
ナタリーはいつも通りの無表情で俺に質問をしてくる。
女性から下の話題を振られるとは想定していないので驚く。
「いや、街を歩き回ったり買い物をしてたら疲れてきたから宿に泊まったよ」
異世界にきたばかりということもあってか、やらなければならないことも整えなければならない環境もある。
そのような遊びにうつつを抜かしている暇はないのだ。
「へぇ、私たちと一緒に行動してムラムラしてるかと思ったんだけどね」
ミアの言葉はもっともだ。確かに、ナタリーやアメリアは肌が露出するような衣装を身につけている上、とびっきりの美女だ。
一緒にいて目のやり場に困ることもあるし、扇状的な格好に思うところがないわけでもない。
「そこらの動物じゃあるまいし、理性があるだろ」
だけど見損なわないで欲しい。
欲望に身を任せる程人間失格なつもりもないのだ。
「朝から気持ち悪い会話をやめていただけますか?」
アメリアに睨みつけられてしまった。
話を振ってきたのはナタリーだし、からかったのはミアだが、俺がそれに乗ったのが気に入らなかったようだ。
所作に気品のようなものがあるので、育ちが良いのかもしれない。
宿の馬車置き場の入り口が開き、そこから馬車が出てきた。
「皆さん揃っているようですな。今日もお願いします」
手綱を握り、馬車を操縦しているショウジュさんがそう告げる。
宿できちんと休んでいたようで、スッキリした顔をしていた。
雇い主が現れたので、俺たちは街を出発する。
前日と同じく、俺とミアが前衛でナタリーとアメリアが後衛だ。
しばらくの間、無言で歩いているとミアが話し掛けてきた。
「ねえねえ、本当に昨日は色街行かなかったの?」
「しつこいやつだな。行ってないと言ってるだろ?」
興味本位にしても少ししつこい気がする。俺は苛立ちを含ませると彼女を睨みつけた。
ところがだ……。
「ふーん、そっか。そういう男なんだねあんた?」
ミアはどこか機嫌が良さそうにすると、前を向いて鼻歌を歌い始めた。
夕方になり、本日の移動を終了する。
街道横にある広場に馬車を停めると、ショウジュさんは近くにいる商人と話に行ってしまった。
次の街まで距離がある場合、街道横には馬車を停める広場があることがある。
そこに集まった商人や冒険者が合同で見張りをしたり、商人同士で商談をしたりする場合もある。
出発前に事前にその話をされていたので、今日はここで一夜を過ごすことになっていた。
「さて、私たちも食事にしよっか?」
ミアとアメリアは荷物の中からパンと水を取り出すと、鍋と火を用意して料理を始めた。
料理といっても硬いパンを切って表面を焼いたり、野菜や干し肉を入れて調味料で味を整えたスープを作るくらいだ。
ナタリーは馬車のそばで武器の手入れをしている。
「何よ? あんたも欲しいの?」
料理するのを見ていると、ミアが俺に気付き聞いてきた。
「言っておくけど、自分で料理を用意するのも冒険者の必須スキルなんだからね。準備してなくて食べられないのは自分の責任なんだから」
現代であれば、誰かしらが同情して分けてくれるかもしれないが、こちらの世界の人間は成人していれば自己責任という風潮が見られる。
知らなければ悪だし、本人が抜けていたらきちんと酷い目に遭うべきという考えだ。
「どうしても欲しければ、働くなら考えなくもないけど?」
「ミア、この方に分けるなんて本気ですか!?」
アメリアが驚いたように俺も驚く。
これまでの彼女の関係性からして、そのような甘い言葉が出てくるとは思わなかったからだ。
「この先護衛が終わるまで、私たちの荷物を持つ。それならスープ一杯くらいなら分けてあげる」
スープ一杯とこの先数日荷物が増えるのが妥当か考えるとあまりメリットがなさそうだが、こちらに選択肢を与えてくれるらしい。
「申し出はありがたいが、その提案は断らせてもらう」
「まあ、昨日あれだけ言ったんだし、保存食くらいは用意してるよね?」
断られると思っていたのか、ミアはあっさりと引き下がった。
「それじゃ、俺は少し別な場所を見てくるから」
馬車はナタリーが見ているし、ここで食事をする必要もない。
俺はその場から離れると、違う炊事場へと向かった。