第13話 資金調達
三人と離れた俺は溜息を吐く。
冒険者の過ごし方は様々と言われているが、まさかミアの言う通りにするわけにもいかない。
それと言うのも……。
称 号:『永遠に童貞』
最強の能力を得る為に払ったペナルティが存在していたからだ。
(だが、本当に永遠に童貞なのだろうか?)
前世と今も含めて俺が童貞なのは間違いない。
だが、称号一つで縛られるほどこの制約は厳しいものではない気がする。
前世ではそういった店に行くつもりがなかったので、童貞を捨てることはできなかったが、冒険者が当たり前のように色街を利用している状況なら、金で買うという解消方法がある。
(最悪、童貞を捨てたら全能力を失うとか?)
俺が勇者・賢者・精霊使いの万能チートを使えるのはこの称号があるからの可能性がある。
もしこれを失ってしまえば、この先の生活が立ち行かぬことになるだろう。
(序盤でそんなリスクを負うわけにはいかないよな)
ミアの話を聞く限り、色街で試すだけならいつでも可能そうだ。
ならば、今焦って検証するよりは、装備や金をある程度稼いでからでも遅くはないのではないか?
「そうすると、まずは路銀稼ぎかな?」
あれよあれよと言う間に護衛依頼にきてしまったが、現在の俺は無一文。
食料はインベントリに入っている果物で何とかなるが、他にも色々入り用になるだろう。
少し歩いていると、店仕舞いをしている中年の女性を発見する。
片付けているのは青果類で、ここは野菜や果物を売っている店なのだとわかった。
「すみません、ちょっといいですか?」
「はい? 冒険者さんが何か?」
中年の女性は作業を止めると俺に向き直り話を聞いてくれた。
「実は、果物を収集してきたんですけど、買い取ってもらうことは可能でしょうか?」
金がなければ作ればいい。
精霊が次々に運んできてくれたお蔭で、インベントリには大量の果物が入っている。
これを売ればお金を作ることができる。
「うーん、普段は付き合いがある商人から買っているんだけど……。物入りなのかい?」
「実は、今夜の宿代もなくて……」
正直に俺の財布事情を説明すると、中年の女性は同情した表情を浮かべた。
「それは可哀想に。そう言うことなら、構わないよ。売るものを見せてごらん」
店の奥に入れてもらい、鞄から(インベントリの入り口)果物を籠に出していく。
あっという間に、籠いっぱいに果物が積み上がった。
「結構あるじゃないか。それに、今しがた採ってきたかのように新鮮だね」
インベントリの中では時間が経過しないのでいつまでも新鮮な状態を保つことができる。
「リンゲにレオンジにマッコル。それにウイチまであるのかい!?」
「あの、ウイチって?」
彼女が手にしているのは、俺が食べた中でも一番気に入っていた果物だ。
驚く様子からして何かあるのではと気になる。
「ウイチの木は滅多に見つからない上に、収穫できる量が凄く少ないんだよ。うちも商人に頼んではいるけど、入荷するのは一週間に一度あればってところだね。仕入れ値がはるけど、愛好家も多いから絶対に売り切れる果物さ」
収集に関しては風の精霊に「人間が食べられる果物」としか指定していないので、どこで採ってきたのかわからないが、そのような価値がある果物だとは知らなかった。
じっと見ている間にも彼女の仕分けは進む。
果物の種類ごとに並べ、状態を確認して計算をしている。
「全部で十万マッカになるよ」
籠ひとつを満タンにした程度にしては高額な気がする。
ショウジュさんが泊まっている宿一泊が三千マッカだったので、十分だ。
「ありがとうございます。それでお願いします」
「それじゃあ、こっちの水晶で取引するから、身分証を触れさせておくれ」
金額が表示されており、触れると数字が消えた。
自分の身分証を確認すると、残高が表示され十万マッカの数字があった。
(へぇ、便利だな)
これがあるから、こちらの世界の人間は通貨を使わないらしい。
魔導具を通じた取引の他は金や宝石などの直接取引となるようだ。
「あんた、この後どこにいくんだい?」
「えっと、確か……アードという村に護衛で行く予定です」
「なるほど、割と辺境にある村だね」
「それがどうかしましたか?」
「もしまた金に困ったらウチにおいで。果物を買い取ってあげるからね」
「ありがとうございます」
どうやら、今回の取引は向こうにもメリットがあったらしく、次の商談を持ちかけてくれた。
「帰りも立ち寄るつもりなので、その時はよろしくお願いします」
また、空いた時間で風の精霊に頼んで果物を集めておくことにしよう。
その後、色々な店をまわって買い物をした俺は、千マッカで泊まれる安宿を見つけると、その日はベッドで身体を休めるのだった。