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代理戦争

作者: 雉白書屋

「ふう……」


 椅子に座る男は、軽く息を吐き、肩を回した。退屈な仕事。だが、それでいい。何も起きないことは良いことだ――彼がそう思ったそのときだった。


『――ください』


「え?」


『――してください』


「今……」


『えっ』


 今、頭の中で声がした。彼がそう思うと、それが伝わったようで、声の主が語りかけてきた。


『あの、もしかして、この声が聞こえているんですか?』


「え、ああ……でも、こんなことが」


『ああ、ご心配なく。あなたの頭がおかしくなったわけではありませんよ。稀に、私の声が聞こえる方がいるのです』


「そ、そうか……それで、その」


『ああ、頭の中で思うだけで通じますよ。そうしてください。独り言を言うと、他の人に変に思われてしまうでしょうからね』


 彼は少し安心しながらも、妙な気持ちになった。幻聴に感謝するなんて……。


『幻聴ではありません。実は、私は天使なんです』


 ――天使?


『そうです。ほら、聞いたことがありませんか? 何かの選択に迫られて葛藤しているときに』


 ――自分の中の天使に従うか、悪魔に従うかってやつか。


『そうです。拾った財布を警察に届けるか、自分のものにしてしまうか……まあ、たとえ話はしなくていいですね。おわかりいただけたようで何よりです』


 ――しかし、今、悪魔はいないようだが……。


『ええ、その点も説明しなければなりませんね。実は、天使と悪魔の囁きというのは、一種の勝負なんです』


 ――勝負?


『はい。私たち天使と悪魔は、何千年も戦争を繰り広げてきました』


 ――天使と悪魔の戦争……確かに、イメージはできるな。


『しかし、武力では決着がつきませんでした。そこで、協議した結果、ある方法で勝負することになったのです』


 ――それが人間に囁きかけることに関係があるのか?


『はい! 人間がどちらの言うことに従うかで、勝敗を決めているんです』


 ――なるほどな。どちらが誘惑できるか競っているわけか。


『はい。負けたほうは自分の世界へ大人しく戻り、二度と人間界に介入できない決まりなんです』


 ――それなら、ぜひとも天使に勝ってほしいところだな。それで


『はい、今、悪魔が来ていない理由を聞きたいんですよね? ズルではありませんよ。実は最近、勝負のルールが少し変わったんです』


 ――え、どう変わったんだ?


『もっと、わかりやすい方法があると気づいたのです。天使と悪魔がそれぞれ人間を選び、戦わせて、死んだほうが負けという、いたってシンプルなものにね』


 ――なるほどな、確かにシンプルだ……ん? 死ぬ? 喧嘩でもさせるのか?


『いえ、ほら、今も外国で行われているじゃないですか』


 ――今も? 外国で?


『戦争です』


 ――え、それが天使と悪魔の勝負だっていうのか? まさに代理戦争じゃないか。


『そうです。わかりやすいでしょう? 天使側と悪魔側に分かれて、人間同士が戦っているのです』


 ――そんな……じゃあ、最近のあの戦争も、悪魔が仕組んだのか。国のリーダーに囁いて……。


『え?』


 ――え?


『いえいえ、あの戦争を引き起こしたのは天使側ですよ。だって、悪魔なんて邪悪な存在は絶対に滅ぼさなきゃいけないじゃないですか。あはは』


 ――え……。


『ですから、さあ、あなたもこの戦闘機を首都まで飛ばして、ミサイル発射スイッチを押してください。先制攻撃は効果的ですからね』

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