孫の顔
案内役と庭に出ると、大きな声を上げる老婆と、付き添いらしい妙齢の女性が居た。
「孫の顔を見るまでは死ねない」
老婆が叫んでいるのは、要はそう言う事らしい。
「困った方なんですよ」
案内役は苦笑した。
「お子さんは亡くなっていて、お孫さんも既にいらっしゃらないので。叶わない願いなんですが、納得して戴けなくて」
「養子を取って、孫を産んでもらえばいいのでは?」
思い付きでそう言うと、「とんでもない!」とそう言った案内役の表情には、わずかだけれど恐怖が浮かんで見える。
「そんな提案したら、死なせる気かって怒られちゃいますよ。ご家族に」
なるほど。
自分の軽率な考えが恥ずかしい。
何でも、付き添っている女性は曾孫だそうだ。
なるほどね。
小さい子が駆け寄ると、途端に老婆の表情が優しくなる。
その子に手を引かれ、老婆は歩き出した。
シッカリとした足取り、っていうか結構速いけど、大丈夫?
子供は老婆に付いて行くのに小走りだ。
付き添っていた女性は追い付く積もりは無い様で、ノンビリと後を歩いて行く。
さっき反省したばかりなのに、あちらで子や孫の顔を見るのはまだまだ先なんだろうな、なんて考えが、どんどん小さくなる老婆の後ろ姿に浮かんだ。