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第2話 姫顔の美少女

トンネルを抜けると未来であった。

正確にいうと、未来風の学園である。生徒たちは空を飛んで移動しているし、いかにも近未来というつくりの建物がずらりと並んでいる。

俺は圧倒され、魔法という言葉に抱いていた怪しさも一瞬にして吹き飛んでしまった。


「どうだい、ビックリしただろう! これが魔法の力だよ。」

先生はドヤ顔でこちらを見てくる。


「はい、正直驚きました。この世界に、こんなところがあるだなんて。」


「きっとまだまだ驚きは尽きないよ! 見学がてら校長室まで行って、編入手続きを――」


バシャッ!


嬉しそうに話していた先生にいきなり、バケツをひっくり返したような勢いで水が降ってきた。


「ちょっと! 帰ってきたなら私たちの授業が先じゃないの?」


そして目の前に現れたのは、小柄な美少女。お面で美少女を装っている先生と違って、こちらは正真正銘の美少女だ。

茶髪なのも相まって、どこかの国のお姫様なのではないかと錯覚してしまう。


そんなお姫様を(たしな)める執事のように、先生は穏やかに口を開く。

「成瀬さん、授業外での魔法攻撃は校則違反のはずですよ。」


「悪かったわね。でも、先生の足元のお花に水をやろうと思ったら、たまたま当たっちゃっただけよ。」

どうやらこの成瀬とかいうお姫様は、お転婆(てんば)娘のようだ。

そして彼女の口は止まらない。

「それより先生、この人が噂の天才くん? 授業中に飛び出してまで連れてくる価値があるようには見えないんだけど。」


悪かったな。価値がないような見た目の人間で。


「さっき言ったでしょう、成瀬さん。彼は風属性持ちなのよ。ついに見つかったって報告が校長先生の耳に入ったものだから、急いで連れてくるように司令を受けたの。ほら、うちの校長って行動だけは速いひとだから。」


「それ、本当なの? 風属性持ちって。だって、ずっと見つかっていなかったんでしょ?」


「だからすごいのよ。――うん。ちょうどいいわ。いまから彼の編入手続きを校長室で行うから、成瀬さんも付いてきなさい。どうせ、そこで魔法適性を検証することになるから。」


成瀬姫はその提案を承諾した様子で、結局、俺は先生と成瀬さんと3人で校長室へ向かうことになった。


◆  ◆


「いやあ、ビックリです! 階段がわりの空飛ぶ移動に、歩かなくても進む廊下! なんでこの技術が世に出ていないんですか?」

俺は正直興奮しっぱなしだった。

アニメや漫画の中だけだと思っていた未来の世界が、目の前にあったのだ。


「魔法技術に関わることだからね。うかつに世間に公表できないんだ。」

先生は理由を端的に教えてくれる。

「そのくらい、少し考えたらわかりそうなものだけれどね。」

そして成瀬さんが余計なひとことを加える。

普段ならむかついているところだったが、アニメに想いを馳せていた俺には、今後ツンデレ化するフラグにしか見えなかった。


そんな妄想をして口元をにへりと(ゆる)ませているうちに、俺たちは校長室の前に到着していた。


「さて、ここが校長室よ。成瀬さん、礼儀を忘れないようにね。」


先生は注意を促すと、扉に手を当てて、力を思い切り込めた。

「校長室には機密情報もあるから、セキュリティが固いの。一部の教職員が魔法の力を流すことでしか、扉は開かないのよ。」


先生の魔法の力を受け取ったのか、扉の上のランプが光る。

そして、(おごそ)かな模様を装飾された重そうな扉が、一瞬で、消えた。

これが魔法の扉か、と感心していると、前の方から向けられている視線に気付く。


視線を遠くにやると、とてつもない爽やかイケメンが俺に笑顔を向けていることがわかった。


「やあ、よく来てくれたね。私が校長の自見(じみ) (けい)だ。ジミー・Kと呼んでくれたまえ。」


話している間も、キラキラの笑顔が止むことはない。

名前に反して全く地味ではない校長である。


「そして君が、風属性くん……でいいのかな。」


宇佐美(うさみ) (ともる)といいます。よろしくお願いします。風属性かはわかりませんが……。」

俺は自己紹介を済ませ、偉い人の前ということで、できうる限り深く頭を下げた。


「なるほど。それではまず初めに適性のテストをするとしよう! 司馬先生、よろしく頼む!」


イケメンに頼まれた先生は少し嬉しそうにしながら、俺の前に高校の制服を差し出した。

ブレザーが主流の時代に珍しい、黒の詰襟(つめえり)だ。応援団ではよく見る気もするが、応援団のものとは違い、黒ボタンである。

「テストといっても、簡単なものだ。科学魔法は、名前の通り科学技術によって発動する。そしてその技術は、この制服に編み込まれている。先生は難しいことは知らないが……とにかく! 君に適性があるのなら、この服を着て、指定の詠唱をすれば魔法が発動するはずだ。」


服に技術が編み込まれている? にわかには信じがたい話だ。

しかし、そもそも魔法とは不思議な存在である。一旦、受け入れるしかない。

俺は先生に手渡された服の袖に腕を通した。


「宇佐美くん。君は風属性に適性を持っているはずなの。だから壁に向かって、はっきりゆっくり、こう唱えてみて。« 科学(シアンス)魔法(マジ)(ヴェール) 颯鈴(クロシュ) » !」


さて、これは運命の分かれ道である。

ここでうまく魔法を発動できれば、俺は期待通り天才児ということになるのだろう。

しかし、失敗すれば……引きこもりへと、一直線に戻るだけだ。


この人生、どうにかして逆転させたい。

お願いします、魔法よ、どうか出てください!


「« 科学(シアンス)魔法(マジ)(ヴェール) 颯鈴(クロシュ) » !」


ヒュルリ、ヒュルリ。

さっき着た制服が、(あた)りの空気という空気を吸い寄せる。

ピュルリ、ピュルリ。

集まった空気は、次いで伸ばした手の先へと送られ、大きな空気のかたまりが形成されていく。

ビュルリ、ビュルリ。

そして空気は俺の手を離れ、壁に向かってその球は、放たれた!


バガン!!!

その刹那、校長室の壁が吹き飛ぶ!


ヒュルリ。

部屋は外気にさらされて、風がひとつ、俺たちのもとへと帰ってきた。


「すごい、すごいよ、大成功だ! これは紛れもなく伝説通りの風魔法だよ。君は伝説の続きを(つむ)ぐ英雄となる資質を持っている!」

真っ先に喜んだのは、校長先生。

「嘘、本当? 本当に、この冴えない男が、風魔法の使い手ってわけ!?」

次いでとまどっているのが、可愛い成瀬さん。


司馬先生は、私が連れてきたんだから当然、という顔をして、ただ立っていた。


どうやら俺の人生は、成功に傾いてきたらしい。

第2話をお読みいただき、ありがとうございます!


また、さっそくご評価くださった方に最大の感謝をお伝えします!

本当にありがとうございます!

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