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地の底から響いてくるような低い男の声がした。
ゆっくりと振り返る。
――そこに二尺程床から浮いて立っている、禍々しい雰囲気を放つ一人の男が居た。
全身がぼんやりとした光を帯びている。
長髪の赤毛に赤い瞳の四白眼。
顔立ちは整っているが、瞳には獰猛な光が見え隠れし、口角が上げられた口からは犬歯を覗かせている。指先からは鋭い鉤爪が伸びていた。
衣から覗く肌は筋肉隆々で、胸には斜めに深い傷痕が走っている。
全体的に神というよりもまるで凶暴な肉食獣、といった印象を受けた。
男の存在感に圧倒されているとじろりと見下ろしてくる目と合う。
そこで漸くカイははっと我に返り、居住まいを正し頭を垂れた。
「……お初にお目にかかります、バク様。私は、」
「既にナコトから話に聞いている。カイ、と云ったか」
続きを遮るようにして名を呼ばれる。
ナコトとはカイの父の名前だ。
「仰る通りでございます。あのバク様……」
「あー、止め止め。堅っ苦しくてつまんねー事は嫌いなんだよ、俺」
バクが突然態度をがらりと変え、またしても話を遮られる。
「……やっぱ向いてねーな。神特有のやたらと高尚で胡散臭ぇ喋り方なんざ。反吐が出る。慣れねぇ事はするもんじゃねぇな」
「……」
カイが呆気に取られていると、何がおかしいのかバクは身体を震わせてげらげらと笑い出した。




