祇園視点1
放課後の図書館、その奥の席。
後ろが壁で図書館の中でも特に人目につかない位置。
教室と違いクーラーがある部屋は寒がりの私には不快なほどだ。初夏からは常に持ち歩いているカーディガンを、バックから取り出して羽織る。
冷房の風を薄手の生地がさえ切り、心地よい暖かさにくるまれた。落ち着いた雰囲気の中で読書に没頭できる。
読んでいるのは西戸崎くんが勧めた小説。ライトノベル、といわれるものだ。扇情的なイラストを間近で見せられてはじめは引いたけど。
やっぱり、彼が人に勧めるだけはあった。
文章も話の緩急もしっかりしていて思った以上に小説している。胸熱なシーンの合間に日常のシーンが挟んであって、飽きることがない。
読み進めるたびに続きが気になり、徐々にページをめくる手が速くなっていくのを肌で感じた。目薬をさしたいくらいに疲れた目も休憩が惜しい。
気がついたら、カーディガンで覆われていない指先が冷たさで白くなっていた。
頃合いかな。
目を休めるために周りを見ると、図書室に残った人たちは大分少なくなっている。
サイレントモードにしてあるスマホで時間を確認すると、まだ下校時刻には大分余裕があった。ラインの着信はあとで確認することにして、もう少し続きを読んで帰ろう。
茶表紙のブックカバーで覆われたライトノベルを再び開こうとすると、場違いなほど大きく甲高い声が聞こえた。
「あ、千里じゃん、探したよ~」
「ライン送ったのに全然既読つかないし、なにやってんの?」
図書室の中なのに声、でかいんだよ。
心の中でそう毒づくと、高校入学してから入ったグループの女子たちが私の席に近づいてくる。とっさにバックの中に入れてあったもう一つの茶表紙の本を、机の上のラノベとすり替える。
「こんなの読んでたんだ~」
「マッジメ~」
赤間、小倉といった声がでかい女子たちは、断りも入れずに読んでいた本をのぞき見してタイトルを確認すると、からかうように言う。
ほっんと、不快な奴ら。でも彼女たちのグループに入っていると目を付けられにくくなったから、その点には感謝している。
所属しているグループで学校内の立場が決まる、中学のころはあまり信じてなかったけれど。
高校に入って所属するグループのタイプをあえて変えたことで、はっきりとわかった。彼女たちのグループに入ったことが周囲に知れ渡ると、私を見る目が全然違う。
でも声がでかい彼女たちは本に対してすぐに興味をなくしたか、話題が移る。
「そういえばさ、千里」
「近頃同じ班になった、何て言うんだっけ、」
「西戸崎君」
グループの中で唯一の三つ編みの子が、遠慮がちにそう言い添える。
名前は箱崎さん。確か古賀くんの彼女さんだっけ。
「そーそー、その西戸崎? てのと、なんかいい感じ?」
「邪魔するのも悪いからしばらくは見守ってたんだけど、」
「あの陰キャのどこがいいん?」
額に青筋がたちそうになるのを必死にこらえ、口元を緩ませた。
愛想笑いでごまかしながら、角がたたないような台詞を並べていく、親切とか、真面目とか、まとめるの上手いとか。
彼女たちもいじめてやろうとかシメてやろうとかは考えていなかったみたいで、すぐに関心は別の女子の恋バナにうつっていった。
人の悪口と恋バナばかりで、よく飽きないね…… 知能指数の低さが見て取れる。
私は体が冷えて痛くなってきたお腹を押さえつつ、愛想笑いと追従に戻った。




