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脱リア充のススメ。~発達障がいの子に家庭教師をしていた陰キャの僕はいつの間にか生徒会長~  作者: 霧


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静音ちゃん

 しばらくは何食わぬ風で作業を続けていく。

 下草を刈り、落ち葉をまとめる。獣道や害獣の糞があるところはチェックして後で先生に伝える。猟友会の人に情報を伝えておくらしい。


 栗色の瞳の子は、まだ一人だった。

 でもいきなりさっきの子に話しかけることはしない。そもそも一人ぼっちが陽キャに声をかけられるのがどれだけ屈辱的か。


 一人の子は、自分と他人を比べるクセがついているから。

 一人ぼっちの自分と、仲間がいて楽しそうな他人を比べてしまうから。


 だからまずは慎重に距離を詰める。彼女のガラスの箱のようなテリトリーに、少しずつ踏み入っていく。


 彼女の雰囲気が僕を拒むもののように感じれば、少し距離を開けてクールダウンの時間を取る。そうやって少しずつ、少しずつ。


 彼女と同じ空間で作業をしても空気を悪くしない、関係を作っていく。

 木立の隙間から差し込む日が茜色を帯びる頃、彼女と僕はほんの数メートルの距離にいた。


 といっても一緒に作業をするわけでなく、あくまで空間を共有しているだけ。

 でも、それでいい。陰キャは言葉によるコミュニケーションが大の苦手だ。


 その分、声を交わさずして自分と相手の相性を見極める能力に優れている。今のところ、彼女が不快に感じている色はない。


 再び僕と彼女の目が合う。警戒と拒否の色が薄らぎ、目元が穏やかになっているのを確認して。

 僕は彼女に声をかけた。



「隣、いいかな」


 できるだけ穏やかな口調と顔つきを心がけて話しかける。


「はい」


 さっきのグループと違って返事がある。僕を同類と感じ取ったのだろう。だが表情は硬く返事も最小限で、まだ警戒しているのがわかる。


 何も言わず、さっきまでと同じように草を刈っていく。だけど隣にいるせいか、刈った草を拾い集めたり、ごみ袋のところまで持っていくのを協力するようになっていった。


 言葉ではなく、こういった作業で交流して。少しずつ距離をつめていく。

 これが僕たち陰キャの交流術の一つだ。


「これ、持っていきます」


 彼女が文章を話してくれるまで小一時間はかかったけど。


「私、玉名静音っていいます」


 名前を教えてくれて。それからは、話ができるようになった。


 小学生相手だから話に気を使わないと、そう思った僕はすぐに彼女に対して舌を巻く。


「この草、アカザですよね。アカザ科で中心部が赤紫色。若芽や若葉は食料になる」


「この神社の広さが二千平方メートルとすると…… 五時間で終わらせるのに一時間四十平方メートル。みんなバラバラにやってるから効率が悪い…… 豊臣秀吉の築城みたいに、ご褒美を出して競わせるとかできないんでしょうか?」


 とても小学生とは思えないくらい、頭のいい子だ。草の種類、花の種類、仕事をどれくらいの量やればどれほどの時間がかかるかという計算。


 でも計算や理論に夢中になってこっちの顔色も気にせず長々と話すことがある。そんな風に空

気が読めないところはあるけれど。


 僕にも空気が読めなかった頃がある。その時をコンプレックスに感じなくていいので、同級生より話しやすいくらいだった。


 すぐに僕と静音ちゃんは、初対面とは思えないくらいに打ち解けていく。


 表情が硬かった静音ちゃんも、笑顔を見せるようになった。細い栗色の瞳が柔らかく細められ、頬にえくぼができる。インドア派なのか白い肌にはシミもニキビも見当たらず、笑顔になると結構かわいい。


 よく見ると彫りが深い顔立ちも好印象だ。

 ふと茜色の太陽が綿菓子のように浮かぶ夏の雲に隠れ、日が沈んだかと錯覚するほどに辺りが灰色の世界になる。


 同時に彼女の表情も陰って、口調が重くなり、栗色のまなじりに涙がにじんだ。


 喉をしゃくりあげて、むせび泣く。


 僕は静音ちゃんとこの短時間で打ち解けた理由を、何となく理解した。

 同類なんだ、僕と彼女は。


 彼女も僕と同じように大きなトラウマがある。そういうタイプはふとした拍子に、普通の人にはなんでもない刺激に。


 過去の記憶がフラッシュバックして、心がぐちゃぐちゃになるのだ。


「すいません、嫌なこと思い出しちゃいまして……」


  そのまま静音ちゃんは、堰を切ったように話し始めた。


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