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推しは尊し!


「ラディウス様、おはようございます。今日はいい天気ですわね」

「ちっ!お前は朝からなんだ!」

「午前中の授業が急になくなりましたので、図書館に行こうと思っておりますの」

「奇遇だな、アンドリュー殿下から資料を取ってくるように言われたのだ。俺も一緒に行こう」


 ああ、図書館に行こうとして迷っていらしたのね。




「ラディウス様。休憩時間にこのようなところへどうされたのですか?」

「お前には関係ない!」

「私は実家から茶葉が届きましたので、お友達のご令嬢に差し上げようと、取りに寮に戻ってきたので、今からカフェテリアの方に戻ろうかと思っておりますの」

「一緒に行ってやろう」


 ああ、近くのレストランの方に殿下がお待ちなのですね。


 という感じで何故か迷子のラディウス様に遭遇したのです。殿下もラディウス様の方向音痴をご存知なら、頼み事をしなければ宜しいのに。


 そして、ピンクの髪の少女を見かけるようになりました。私は更に警戒をして、暗闇にはいかない。なるべく誰かと一緒にいるを心がけました。

 そうすれば、事件は始まらないと。しかし、残念な事に第一の犠牲者が出てしまいました。赤いルビーのような鮮やかな瞳をもった男爵令嬢です


『恋い焦がれる蒼き空は悲しみの雨を流す。天高く昇る太陽に己は近づくことはできぬと』


 その文言に倣って、赤い瞳の生徒が犠牲になったのです。まぁ、そう主人公が勘違いをしただけで、ゲームでの真実は狂った者の犯行でしたけれど。

 この文言の七不思議は、回廊に設置してる天使の像が涙を流すというものでしたね。所詮七不思議です。実際に見てみれば、屋根しかない回廊で風雨に晒され、涙の跡に見えるだけでした。


 この、第一の事件で学園は騒然となるのですが、その後直ぐに夏季休暇に入りましたので、夏季休暇の間は学園を閉鎖するという事になりました。

 はぁ、その間推しのラディウス様のお姿が見れないなんて残念です。しかし、私の自由な時間はあと半年程です。やりたいことをやろうと決めていました。ええ、王都でのカフェのバイトです。


 貴族の専用のお店となると、そこの従業員は下位の貴族であることも珍しくありません。

 ええ、メイド服を来て給仕をする。その客は貴族ばかり、鑑賞するにはもってこいのポジションです。


 夏季休暇の2ヶ月間、お金をもらいながら私の趣味を堪能できる。なんて素晴らしいのでしょう。


「いらっしゃいませ」


 私の目にキラキラした金髪が映り込みます。その腕にはピンクの髪の少女のくっついていました。え?貴女、1月前に編入してきませんでした?

 殿下に近づくの早すぎません?それに、殿下のお腹は真っ黒でしてよ?


「おや?君は?」


 私はただの従業員なので気にしないでくださいませ殿下。


「外のテラス席と個室がありますがどちらにご案内いたしましょうか?」


 王族ともなると色々気を使わないといけません。


「奥の個室で頼むよ」

「かしこまりました」


 そう言って頭を下げながら、殿下の後ろにいるラディウス様の様子を伺いみます。今日もとても目つきが悪く睨んでくださり、ありがとうございます!


 私は殿下たちを奥の部屋に案内して、注文を聞いて戻ってきました。メイド服を着た従業員の女の子たちが殿下を見てキャキャと言っています。人は見た目ではないですよ。殿下は観賞用がいいところですよ。

 注文の品を持って行くのに女の子たちが何故か言い争いになっていました。他のお客様もいますのに、店長に怒られますよと思いながら、カフェに来ている貴族の方々を眺めます。いい景色ですね。


「アウローラ君、これを持って行ってくれたまえ」


 店長から私が先程注文を受け取った品物をカートごと渡されてしまいました。あら?先程なにか誰が持っていくか言い合いをしていませんでしたか?


「それから、第2王子が帰られるまで個室の隅で控えておくように」


 ああ、他に注文があれば、うけたまわるようにということですね。


「わかりました」


 私はカートを押して個室の一つの扉をノックします。返事がありましたので中に入りますと、4人のキラキラした方々と一人の少女がいました。絵面的には逆ハーレムですね。


 金髪キラキラ殿下のお隣のラディウス様が入ってきた私を睨みつけてきました。今日もお元気そうで何よりです。

 そして、赤髪のツンツンヘアーの方はわんこキャラの···失礼、シュトラール伯爵の次男の方ですね。そのお隣の銀髪の麗人は、殿下の従兄弟にあたるルナファルナー公爵令息ですね。


 その方々に注文の品を出して、部屋の端でひかえているので御用があれば声をかけてほしいと言って、空気のように存在感を消して壁際に立ちます。


 話の内容はどうやら、目を失った男爵令嬢の事件の話のようです。ああ、男爵令嬢は目をくり抜かれましたが生きてはいますよ。しかし、相当精神が病んでいるようで、手がつけられないほど暴れているそうです。なので、犯人が誰か聞き出せないと噂で耳にしております。


「君はどう思うかな?」


 何故か殿下が私の方を向いて尋ねてきました。今の私は壁ですが?


「ご注文があれば承ります」


 私はそう言ってにこりと笑います。あの、何故私はピンクの髪の主人公から睨まれているのでしょうか?貴女、殿下にそのようにくっついては、はしたないと周りから思われましてよ?


「私が君に聞いているのだよ。ウェスペル子爵令嬢」

「私はここの従業員として、この場におりますので、個人的意見は差し控えさせていただきます」


 その言葉に殿下はクスリと笑います。私はただの給仕です。あなた達と同じ席に付くことはありません。


「貴女、生意気ね。アンドリュー様に失礼でしょ!!」


 私の目には貴女の方が失礼に見えますよ?それに他の御三方は何も言ってこないでしょう?私は自分の立場というモノをわきまえていますよ。


「ああ、そうだ。そこの壁際にある椅子を持ってきてラディウスの隣に座るといいよ」


 ぐふっ!ラ···ラディウス様の隣!!!それは私の心臓が保ちません。


「これは私が君に対して注文した。良いね」


 これは指図すると捉えろということですか。私は渋々ラディウス様の隣···では心臓が持ちませんので、離れたところに椅子をおきます。


「おい、それでは話に混じれないだろう。殿下の命令だ」


 と、ラディウス様が椅子をガガガッと引き寄せました。え?本当にこんな近くに座ってもよろしいのでしょうか?困惑気味にメイド服が皺にならないように座ります。仕事中に座っていることが店長にバレれば、このパラダイスから追い出され兼ねません。


「それで君はどう思う?」


 再び、殿下に問われました。


「学園の七不思議が関係するですか?私はそういう物に興味ありませんので、ただの猟奇的な事件だと思っています。学園中に死角が無いように、監視用の魔道具をこの夏季休暇中に設置するものと思っておりましたが、違ったようですのね」

「監視用の魔道具?」

「あら?学園は未来の貴族社会を担う者たちが通うところでしょ?そこで生徒が襲われるという事件が起きましたのに、何も対策を打たないことはありませんわよね?」


 ええ、ゲームでは何も対策を打たず死者が出ることになるのです。


「貴女、何も分かってないのね。男爵令嬢は涙を流す天使の像の前で倒れていたのよ!」

「ええ、そのように聞き及んでおります。確か校舎内に忘れ物をしたと言って、夕暮れに襲われたのですわね。もしかしたら、暗闇でその像が人に見えたのかもしれませんわね」

「ああ、助けを求めようとした?それはあり得るかもしれないね」

「そんなアンドリュー様」


 しかし、先程からラディウス様の手が止まっていますわね。ブラックコーヒーのカップの取手に指をかけたままで。

 はぁ、おかしいとは思っていたのです。殿下が皆の注文の品を口にしたとき、てっきりブラックコーヒーは殿下が飲むものだと思っていたのですが、まさか甘党のラディウス様の前に置くように言われるなんて。そして、嫌がらせのように砂糖とミルクは殿下とピンクの髪の少女との間に置いてあるままなのです。


 私はエプロンのポケットから小瓶に入った砂糖菓子を取り出します。砂糖を星やハートや花の形に固めて色づけしたものですの。ここの砂糖菓子は可愛らしいので、本当は帰ってから独り占めをしながら食べようと思っていたのですが、ラディウス様に差し上げます。


「このお店の砂糖菓子なのですが、ラディウス様、如何ですか?珈琲に浮かべると可愛らしいですのよ?」


 そう言って小瓶から出した砂糖菓子をぽいぽいっと珈琲の中に入れます。


「おい、そんなものを入れるな!」


 今日はもう少しお声を聞かせていただけないかと思っていたのですが、なんだか戸惑った様なお顔も可愛らしいです。




 その後学園に監視用の魔道具が設置され、二人目の犠牲者が襲われているところを現行犯逮捕されました。

 その二人目の犠牲者が何故か私の目の前におります。長かった銀髪を短く切られ、美男子率が急上昇したルナファルナー公爵令息です。


「貴女が提案してくれた、監視用の魔道具のおかげで助かりました」


 いえ、元々の犯人の狙いは貴方の銀髪でしたので、犯人としては目的を遂げていましたよ。とは口には出さず。


「私は何も···全ては魔道具の件を学園側に進言した殿下のお陰です」

「いいえ、貴女がアンドリュー殿下に答えてくれたからこそです。お礼に私が出来る事なら手をかしてあげられますよ?あなた達の事でも」


 あなた達のこと?何のコトでしょう?私は微笑みだけを浮かべてその場をあとにします。

 しかし、あの保健医が捕まりましたか、私は学園の中をうろついていても絶対に保健室には近づきませんでした。何故なら、犯人が保健医だったからです。

 彼は女性にこっ酷く振られたかなにかで、理想の女性を作り出そうとしていたのです。いわゆる、変態ですね。まぁ、事件の真相なんてそんなものです。私もこれで色変えの魔術を使わなくてすみそうですね。

 学園の地下に大迷宮があろうが、礼拝堂の神父が吸血鬼だろうが、図書館の司書が初代の王様の幽霊だろうが、知らなければいいことなのです。まぁ、図書館通いのお陰で初代王とは仲良くなり、先祖の話を色々聞くことができましたが。



 そんな私も学園を卒業する日を迎えることとなりました。しかし、私は卒業式には出ることが叶いません。なぜなら···


「···明日は楽しみですわ」

「どんなドレスにしましたの?」

「卒業パーティーのお相手はお決めになって?」


 そんな令嬢たちの話を横目に私は寮にある荷物を運び出していました。


「ウェスペル様は····どうなされたのですか?まだ寮を出ていくには早いですわよ?」

「ええ、急遽結婚相手のところに行かないといけなくなりまして」

「まぁ!それは、おめでたいことですわ!」

「どちらの方に!やはりあの方と?」


 あの方がどなたかはわかりませんが?


「お祖父様のお知り合いの後妻にですわ」

「······え?」

「なんでも持参金はいらないから、身一つで来ればいいと言っていただけましたし、ウェスペル子爵家の借金も帳消しにしてくれるという素晴らしいお話を持ってきてくれたのです」

「あの?それはなんと言ってよろしいのか」


 なぜか困った顔をしている令嬢たちにお別れの言葉を言って私はラディウス様にも最後のお別れを言いに向かいます。


 私の結婚の話は学園に入る前から決まっていたことです。ですから、両親は必死で学園で、結婚相手を見つけるように言ってきたのです。私も始めはそうしようと思っておりましたのよ?でも、最推しであるラディウス様がこの学園にいるとわかってしまえば、陰ながら推しを堪能するしかないでしょう!!ということで、この一年に全てをかけてまいりました。推しの為に!!!


 あ、ラディウス様を発見しました。相変わらず、金髪キラキラ腹黒殿下と御一緒ですね。彼らは次は最終学年に上がるため、今回の卒業パーティーを仕切るため準備に忙しそうです。

 申し訳ありませんが少しだけ私にお時間をくださいませ。


「ラディウス様。少しお時間を私にいただけませんか?」

「この忙しさが見てわからないのか!!お前は!」


 今日も罵ってくださってありがとうございます。


「ラディウス、少しぐらいいいじゃない?」


 腹黒殿下ありがとうございます。


「では、さっさと言え」

「はい、実は明日の卒業パーティーなのですが···」

「お前は何か勘違いしているのか?お前は俺にパートナーを務めろと言っているのか!」


 え?いいえ?私は今日中に学園から去るのでお別れの言葉を言いにきたのです。


「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」


 黒い髪に鋭い青い瞳を私に向け、言い放たれた言葉に思わず私は膝から崩れ落ち、両手で顔を覆い隠しました。


 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。


 我が人生に一片の悔い無し。これから、この思い出を糧に生きていけます。


 顔のニヤけているのが直りそうにありませんので、うつむいたまま言葉を紡ぎます。


「ラディウス様、私の様な者と良くしてくださいまして、ありがとうございました。さようなら」


 そう言って私はラディウス様に背を向け、顔を見られないよう逃げるように去っていきました。推し尊し!!!





【ラディウス Side】


 あ、また酷い言葉を言ってしまった。そうでは無くて、パーティーの運営側に今回はいるためパートナーを務められないと言葉にするつもりだったはずなのに。


「ラディウス。謝ってくるのなら今のうちだよ?」


 アンドリュー様はそうおっしゃるが、今は明日に迫ったパーティー準備の総チェックをしているところだ。時間が惜しい。


「明日も会えるのですから、明日謝ります」

「ラディウス。後悔するよ?」

「今、手を抜く方が後悔します」


 そう言って作業の続きを始めたが、アンドリュー様はニヤニヤと笑うのみだ。この方がこの笑みを浮かべているときはろくな事がないが、今じゃなくてもいい。

 しかし、あの時直ぐに追いかけなかった事が本当に後悔するとは思いもよらなかった。




【アウローラ Side】


 行けども行けども変わらない雪景色。馬車に揺られ5日。流石に飽きましたわ。持ってきた本も読んでしまいましたし、景色も見飽きました。


 ああ、私には推しが足りない!!今まで毎日のように推しのストーカー····いえ、陰からさり気なく見ていましたのに!!迷子になったラディウス様を見てはハラハラして、我慢ができずに声を掛け、腹黒殿下に無理難題を押し付けられ、困っているラディウス様に萌えながら、声を掛けていたこの1年間があまりにも充実しておりましたので、このポッカリと空いた胸の空洞に慣れるのは時間がかかりそうですわ。


 しかし、何故ファングランのおじさまは私に卒業パーティーには出ずに嫁に来るようにおっしゃったのかしら?

 昔からよくわからない方でしたが、今回の事は一番良くわかりません。まぁ、家にお金を入れてくださるというならば、私はおじさまに従うだけですが?


 あら?外が騒がしいですわね?野党でしょうか?こんなボロボロの馬車を襲ってもお金が無いことぐらいわかるでしょうに。

 ドアノブをガチャガチャしないでほしいですわ。そんな乱暴に扱うと壊れてしまいます。

 取り敢えず、短剣を出しておけばよろしいのでしたわね。でも、護身術なんて使えませんわ。

 そうね、おじさまのところに行ったときには護身術を教えていただこうかしら?おじさまは今はご隠居されていますが、辺境伯でいらしたもの。

 ええっと短剣は確か、胸の前で構えて突進するでしたかしら?


 そう考えている内にドアノブが壊されてしまいました。勢いよく入ってきた侵入者に何故か抱きつかれています。これはいったい何が起こったのでしょう?


「何故、何も言わず去っていった!」


 ふぉ!!まさにこれは推しの声!!!


 それに私はお別れの言葉を言いにいきましたわよ?


「あの?ラディウス様なぜここに?」

「なぜって、勝手に居なくなるからだろ!」

「しかし、最後に挨拶に行きましたが、そのときにラディウス様は忙しそうで、叱られてしまいましたし」

「いいからこっちに来い」


 そう言ってラディウス様に抱えられて馬車から連れ出されてしまいました。人攫いです!いえ、このまま何処かに連れて行かれるのは困ります!


「ラディウス様。お待ち下さい。私はファングラン様のお屋敷に行かないといけないのです」


 でないと家にお金を入れてもらえないのです。


「大丈夫だ」


 何がです!


「前もって話は付けていたのだ」


 何の話ですか?

 頭の上にはてなが飛んでいる私はラディウス様に抱えられたまま馬に乗せられてしまいました。


「なのに、お前は卒業パーティーの前にいなくなるしまつだ」

「私、意味がわからないのですが、卒業パーティーの5日前にファングラン様からお手紙をいただきまして、卒業パーティー前日に学園を出発してファングラン辺境領まで身一つで来なさいとありましたのよ?」

「チッ!あの偏屈爺」


 偏屈じじい?ファングラン様のことでしょうか?


「飛ばずぞ」


 そう言ってラディウス様は馬を操り、馬車で通ってきた道を馬で走り出しました。

 意味がわからないまま連れてこられたところは、ブルアスール公爵領にある一軒の大きなお屋敷でした。ウェスペル子爵家の家がいくつ入るのでしょうという大きさのお屋敷でした。


 そして、一つの部屋に通されましたが、私の困惑は収まるどころか、混乱してきました。

 ソファに座るように促され、その隣に推しが!!


「俺は非常に口が悪い」


 はい、存じています。


「人に色々誤解を招くこともある」


 はい、その人でも殺していそうな目つきの悪さもあると思います。


「時々、何処にいるかわからなくなることもある」


 時々?しょっちゅう迷子になって困っているお姿をお見かけしましたが?


「こんな俺だが、アウローラ。俺の妻になって欲しい」


 ······


「え?私は私の身の程はわきまえておりますよ?愛人ということですか?」


 そう言うとラディウス様は頭を抱えて項垂れてしまわれました。そこにクスクスと笑い声が響いて来ます。この声は腹黒殿下ですか。金髪が部屋の扉から顔を見せます。


「ラディウス。だから、直ぐに謝りに行った方がいいといったよね。正に身から出た錆ということかな?」

「なぜ、ここにいるのですか?アンドリュー様」

「ラディウスのことだから、詰めが甘いだろうと思って心配になって来てあげたのだよ?」


 いえ、腹黒殿下のことですから、ラディウス様が困っている姿が見たかっただけでは?


「『恋い焦がれる蒼き空は悲しみの雨を流す。天高く昇る太陽に己は近づくことはできぬと』ラディウス。君はどうするのかな?」


 それだけ言って、殿下は扉を閉めて去って行きました。しかし、さっきの言葉はゲームの謎掛けに出てきた言葉ですわね。普通なら太陽はこの世界では女性に例えられることが多いので高嶺の花の女性に思いを告げられない恋の文言になるのですが?


「アウローラ」


 ラディウス様は私の手を取って呼びかけました。推しからの握手!!もう、この手は洗えない!!


「アウローラ、俺にはアウローラしかいない。一目惚れだった。だから····だから、俺と結婚して欲しい」


 ひ、一目惚れ!推しが私にひ····一目惚れ!!それにけけけけ結婚!!!!


「アウローラ。返事は?」

「は···はい、よろこんで?」


 なんだか、頭がパニック過ぎて何がなんだか。おおおお推しからの告白。これはありですか?

 いえ、考えようによっては、これからも推しを陰から見守れるということ!


 それはなんて素晴らしいのでしょう!


 私は一生ラディウス様を推しとして、見守っていていいですか?それもお隣で!!



【アンドリュー Side】


「いやー。やっと収まるところに収まったね」

「アンドリュー様は随分楽しんでいらしてましたが?」


 銀髪の美青年が兄弟のように似た金髪の美しい青年に呆れたように言葉をかける。


「だってね。彼女と初めて会ったときのラディウスって言ったら、クスクス」

「なんですか?」


 別室でお茶をたしなみながら、二人はここには居ないブルアスール公爵令息の事を話している。


「彼女は誰に話しかけられたか分かっていないように私の事を一体誰だという感じで見ていたにも関わらず、ラディウスが私に嫉妬心を抱くなんてね」

「ブルアスールの血ですかね?」


 ブルアスールの血。ルナファルナー公爵令息はその血が特別であるかのように言った。


「そうかも知れないし、そうじゃないかも知れないけれど、ウェスペル侯爵の緋色に恋い焦がれたブルアスール伯爵令嬢の悲恋と言えば聞こえがいいが、結局のところ国を揺るがす大惨事になってしまった歴史を繰り返さなくて良かったと思うよ」


 どうやら、問題がある血筋のようだ。あの文言は恐らく歴史を繰り返さない為に刻まれた文言なのだろう。


「ブルアスールは恐ろしい血筋ですからね。私もあのカフェでアンドリュー様の言っていた、ラディウスの挙動の可笑しさを目にしてしまってから、あの二人がどうなって行くのか不安でしたが、良かったですね」


 ルナファルナー公爵令息も気になってはいたようだが、それにしては、笑うのをこらえているような含み笑いの声で話している。


「クスクス、本当に隣にいるラディウスが鬱陶しかったよ。ソワソワしだして、壁際をチラチラ見て、貧乏揺すりまでし出していい加減に叩き出そうかと思ったね」

「しかし、彼女は自分の職務をまっとうする構えを解かないのは素晴らしかったですね」

「ああ、隣にいた平民上がりとは大違いだった」


 アンドリュー殿下の側に居た少女はいつの間にか彼の側から居なくなっていたのだった。


 ふと、ルナファルナー公爵子息は窓の外を見る。冬の空は灰色であることが多いが、今は真っ白で外の風景は何もわからなくなっていた。


「アンドリュー殿下、なんだか外が吹雪いておりませんか?」

「ああ、実は私も先程から気になっていたのだよ。様子を見に行った方がよいのか?」


 アンドリューは心配そうな顔をしながら、窓の方をみながら、別のところにいる者たちのことを気にしていたのだった。





この作品を見つけて読んでいただきましてありがとうございます。


ありきたりなモブが主人公の話です(>_<)

相変わらず、隠し要素がいっぱいで終わりましたが、短編は難しいものです。


よくあるありきたりな話ですが、もしよろしければ、この下にある☆☆☆☆☆評価をポチポチポチと押して評価をしていただければと思います。

よろしく、お願いいたします。


ご意見、ご感想等がありましたら、下の感想欄をポチっと押して書いていただければと思います。


読んでいただきまして、本当にありがとうございました!!




お礼にとある令嬢の話を···『恋い焦がれる蒼き空は悲しみの雨を流す。天高く昇る太陽に己は近づくことはできぬと』太陽に恋をした空の想いを少し。


 あの太陽のような緋色の瞳に、ひと目で恋に落ちてしまいました。しかし、あの方は妻子のある身。わたくしの事など子供のようにしか、思っておられないのでしょう。


 あの方はわたくしにとって、太陽そのもの。そこにいらっしゃるだけで、わたくしの心の全てを明るく照らしてくださいます。

 ああ、でも····あの方の微笑みはわたくしではなく、隣に立つ妻という女性のもの。

 羨ましい。羨ましい。羨ましい。

 なぜ、あの場所にいるのが、わたくしでは駄目だったのでしょうか?わたくしがあの方より15歳も年下だからでしょうか?

わたくしが呪われたブルアスールの者だからでしょうか?


 また、空からわたくしの乾ききった涙の代わりに雨が降ってきてしまいました。


 この雨はわたくしの涙。


 きっと、この国が水の底に沈むまで止むことはないでしょう。

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