山で遭難した話
この度は拙作を閲覧して頂き、ありがとうございます。
この作品は生まれて初めて書いたものであり、表現の不足や拙い文章が散見されると思います。
それでも良ければ是非読んで頂けると幸いです。
ーーーおいおい、まじかよ。何もこんな山道で故障しなくても…。
ウンともスンとも言わないエンジンに悪態をついた。
まだ車内は暖房が効いてはいるが外気温は一桁だ。
すでに日は落ち、夜の帳が木々の間を支配している。
辺りを見ても何も好転しないことはもう分かり切っていた。どうしてこうなった?
もともとは趣味のキャンプから帰る途中、道を間違えてしまった事だ。初めてくる地域だったし、外付けのカーナビは少し前から調子が悪かった。のんびりしすぎて出発が遅れ、思ったより早く日が落ちてきて焦ってもいた。色々とつたなすぎる。
スマホを取り出すが、そこには圏外の2文字。充電も心許なくあまり長くは使っていられない。助けも呼べない。詰んだ。
「いや、待てよ?」
山頂のキャンプ場から下ってきてここにたどり着いたはずだ。山陰だから電波が届かない可能性がある。だから…。
「登ればワンチャン…通じるか?」
ライトは車に積んである。辺りは暗いが来た道を引き返せば問題ない。開けた場所に出られれば電波も繋がるかもしれない。
今は藁にもすがりたい気持ちだ。それしか考えられなかった…。
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荷物からライトを取り出し、車を降りる。冷たく湿った空気が私を包み込んだ。
…少しモヤがかかってきたようだ。行動するなら早めの方が良いだろう。
今に思えばもっと冷静に、それこそ短絡的な考えに陥らなければ...。そう思ったのは山を登り始めてしばらく経った時の事だった。
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「ああ、くそっどうなってんだよ」
やばい。いくら登っても携帯は圏外の2文字。そもそも霧が完全に視界を遮っているせいで、山間から抜けるどころか自分が、今、どこにいるのかもわからない。
斜面を登っているか降っているのか、それすらも検討が付かない。
"遭難"
この言葉が脳裏によぎった瞬間。
恐怖と不安、そして焦りに似た感覚が霧と共に私を包む。
(やばい、やばいやばいやばい!!)
木立の間を縫うようにして進む。
霧は立ち込め、闇は深く、今はどこにいるのさえ分からない。
その事実にただ恐れ、足を動かしていた。
「ぐわっ!...ぐうぅ!」
山を動き回った疲れからか、石か何かに躓き足を挫いてしまった。
(痛い、痛い!痛い、痛い、いたいイタイイタイ!)
もう冷静ではいられなかった。
何かを叫び、木々に体をぶつけながら転がるように放浪した。
私の記憶はそこでとぎれた。
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気付いたら病院だった。
心配そうに覗き込む母を尻目に何があったかをほぼ上の空で聞いていた。
どうやら山の中にポツンとあった一軒家に転がり込み、朝方にそこの家に住んでいた老夫婦に発見されたそうだ。
発見時は全身に擦過傷と打撲跡を作り、白目を向いて倒れていたらしい。
老夫婦はこの山でごく稀に予報にない異常なほど濃い霧が立ち込める事、なぜかその時だけ携帯やラジオ等の電波が通じなくなる事を昔から知っていた。
「この霧はワシらの子供の時から"迷いの霧"とよばれておった。あのキャンプ場ができたのは最近のことだからのう。」
そう母に語ったそうだ。
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それから私は、キャンプ道具の一切を処分した。もう、道具を見るだけで震えと冷や汗が止まらない。それほどの"恐怖"が刻まれたのだった。
あれから少し立ち。
世の中がキャンプブームに沸き始めた頃。
部下たちが楽しそうにキャンプの計画を立てている中で私は言う。
「いいか、山でキャンプするなら霧には気をつけろよ。」
-了-
読了、お疲れ様でした。