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貴婦人を描いた一枚の肖像画がある。
正面を向く女性の、上半身を描いた絵だ。白絹のベールを頭にかぶり、青いドレスを纏っている。ベールによって顔の右半分が隠されているが、彼女の手にある扇がベールをめくり、左半分をのぞかせる。
人物画を得意とした、ある老画家の手による作品だ。
透き通るような膚に、琥珀色の髪と瞳。頬はわずかに紅潮し、赤い唇には初々しい微笑みが浮かぶ。ベールの下で少し首を傾げながら、ためらいがちな視線をこちらに寄越している。美しいが愛らしくもある、そんな表情だ。どこか恥ずかしげに、鑑賞者へと微笑みかけている。
ベールによる顔の隠し加減が絶妙で、見えない部分がミステリアスな魅力となって人の心を惹きつけた。つまらないただの肖像画とは一線を画しており、構図を凝らした画家の勝利と言えた。
印象的な構図に、この上なく魅力的なモデルの表情。
誰しもこの絵の前では目を引き寄せられ、足を止めてしまう。
モデルとなった女性だが、実際の彼女の容貌も確かに麗しかった。それは彼女の他の肖像画が証明する。
しかし――この肖像画はこう呼ばれる。いや、この肖像画に限らず、歴史は彼女をこう名付けた。
『悲劇の王妃』。
または『不幸せなリディアーヌ』、あるいは『首なし王妃』。
描かれているリディアーヌ王妃は、ガリア国史上、最初で最後に首を刎ねられた王妃である。