魔王種
本日2話目の投稿です!
村人にもみくちゃにされた後。
最終的に村人たちの中で、私は「希少な妖精族をここまで守ってきた旅人」という認識になったようだった。もちろん、アイカは触るとご利益のある妖精という認識のままである。
「ふぉっふぉっふぉ。先程はすまんかったのぉ」
村長である老獣人がそう言った。
その老獣人の姿は他の村人とは異なり全身が毛に覆われており、二足歩行ではあるが人よりも獣に近いと感じた。
トラ模様の体毛からも年老いた虎獣人だと理解できる。特に眉毛は長く伸び、目は糸のように細い。
名をラウネルという。
私は彼の謝罪に、いえいえと日本人らしい答えを返す。
「私は大丈夫だよ」
〈むぅ。私は色んな所を掴まれて大変だったんですよ〉
一方のアイカはプンプンと起こっている様子だった。
まぁあれだけ、もみくちゃにされたら怒るのも分かるけど。
「まぁまぁアイカ、みんな悪気はなかったんだし」
そういって村人の方を見ると皆そろって耳がたれ、しょんぼりとしていた。
あれは、どう見ても落ち込んでるね。
〈マスターがそういうのであれば、今回は許します〉
アイカがそう言った途端、村人の耳がピーンと立ち、尻尾をブンブンと元気よく振り回しはじめた。
元気になったみたいで良かったけど、すごく分かりやすい人たちだね。喜怒哀楽が全部耳と尻尾に出ちゃってるよ。
そんなことを、のんきに考えていたのだが──。
「ところでお主、その角は……
……まさか魔王種じゃあるまいな?」
ギクッ!
やばいやばいやばい!
どうしよう!
いま魔王種って言ったよね!? バレた!? バレちゃった!?
角があるってだけで魔王って分かっちゃうの!?
こんなことなら角隠してくるんだった!
なんか流れで村までトントン拍子で来ちゃったけどもっと警戒しておけば良かったよぉおおお!
私の脳内は一瞬にして大混乱に陥っていた。
「いや、これはその……」
私は、必死に頭を回転させて、言い訳をしようとしたがうまい言い訳が出てこない。
核心を突かれているだけに、非常に否定しにくいのだ。
周囲の村人の間にも動揺の声が広がる。声を潜めて話し始めた。
私は何かヒントが転がっていないかと、村人の会話に耳を傾ける。
「まさか、ありえない」
「この辺りに魔王種なんているはずないだろ!」
ホッ
周囲からの否定の言葉に私は胸をなでおろす。
(なーんだ。まさか無いよねって思って聞いてる系ね。)
──しかし、村人の言葉は続く。
「あいつらに関わると、ろくなことが無いんだ」
「そうだ。あんなクズども滅んじまえ」
あまりの物言いに私が驚いていると、肩の上にいたアイカがピクリと反応した。
〈ま、魔王種をクズと!!!!!〉
小声ではあったが、ハッキリと怒りのこもった声音でアイカはそう言った。アイカの方を見ると、ゴゴゴゴと聞こえてきそうなほど怒りに満ちた形相だった。
アイカの可愛いはずの顔が、すごいことになっちゃってるよ!
「アイカ堪えて!」
私は慌ててアイカを制止したが──既に遅かった。
「いま、魔王種といったのかのぉ?」
(あああ! 聞こえちゃってたよぉおおお!)
私はアイカをなだめつつ、その場で考えた言い訳をペラペラと口にする。
「は、はい! えーっとじつは、この妖精は魔王種……に助けられたことがあるみたいで……」
今度はマシな言い訳をひねり出せたと思う。
よし、このまま話を逸らす作戦でいこう。
ウヤムヤにするんだ!
「ほぉほぉ。あの傍若無人な魔王種が妖精を助けたとな」
「そうなんです。変わった魔王種が居たみたいで助けられたそうです!」
私と村長の会話を聞いた村人が再びざわつき始める。
「魔王種が誰かを助けるなんて……」
「いや、魔王種がそんな事するはずがない!」
「しかし、妖精は嘘をつかないと言うし……」
村長が再びゆっくりと口を開いた。
私は緊張しながら手に汗握る思いでその言葉を待った。
「妖精殿、それは真なのじゃな?」
アイカはその問に、フン!と鼻を鳴らしてから答える。
アイカ……頼んだよ……!
〈もちろんです! 私は魔王種の一人に何度も助けられました! とても尊敬しているのです!〉
その魔王種って私のことなんだけどぉおおお!
そう思いながらも私はバレないように、必死に表情を取り繕った。
(落ち着け私!)
「ふむ、妖精は長命というし、そんなこともあるのじゃな。信じよう」
村長は感慨深そうにゆっくりと頷いた。
私はそれを聞いて、ホッと胸をなでおろす。
よかった……!
話を逸らせて忘れさせる作戦、大成功!
なんとか、ごまかせたよ~。
「ところで、お主の種族はなんだったかの?」
あああああ! ダメだったぁ~!
ごまかせてなかったよぉおおおお!
次回、アーシェ。
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