獣人村
「あれ? ましゅ丸は行かないの?」
キュイキュキューッ!
〈マスター、ここから先は彼らの領域だから入らないと言っています〉
「縄張りってやつかな」
私はそう言って、うんうんとうなずいた。
「確かに、知らないモンスターが庭に居たらびっくりするよね」
〈マスター、それは流石にびっくりでは済まないと思います。怖すぎますよ!〉
アイカがそう言って口元を抑えて、クスクスと笑った。
「さあ、行ってみよう! アイカ!」
〈はいです!〉
「ましゅ丸、またね!」
〈ここまで、ありがとうございました〉
キュイーッ!
私とアイカは、最後に「大きくなるのよ~」「そちらもお元気で~」と言いながら大きく手を振って、ましゅ丸と別れた。
◇
ましゅ丸と森で別れた後、森を出ると豊かな緑に覆われた丘陵地帯が広がっていた。遠くにのどかな雰囲気の村が見える。
私とアイカはその村へと向かった。
「アイカ、あの村に住んでるのって獣人なんだっけ?」
〈はい、ましゅ丸の話では、猫系の獣人が暮らしているそうです〉
私はドラゴンズリングにNPC(ノンプレイヤーキャラクター)として登場していた可愛い猫耳少女の姿を思い出す。
「ちょっと楽しみかも!」
私たちがそんな会話をしつつ村に近づいていくと、農作業をしていた村人がわらわら集まり始めたのが遠目に見えた。
「おい! あれってまさか妖精じゃないか!?」
「それに白い獣が見えた気がするぞ! 聖獣様か……?」
村人たちのその会話は私には直接は聞こえないが、アイカが臨場感たっぷりに声を当てて教えてくれた。
「いや、聖獣様が人に姿を見せるなんて、爺さんから聞いたおとぎ話くらいだぞ」
「そうだな、もし姿を見せたとしても村の近くに来るなんてありえないさ。なにかの見間違いだろう。ははは」
「はっはっはー! お前酒の飲みすぎでアッパラパーになっちまったんじゃねぇか?」
「ちげぇねえ! ガワハハハ!」
アイカの声劇も一段落したところで、ひとつ質問してみる。
「聖獣ってもしかしてましゅ丸かな?」
〈村人の会話から察するにおそらくは〉
村の人からましゅ丸の話聞けるかなぁ。
◇
村に到着。
その時には村人が10人以上集まってきていた。
(耳としっぽがある!)
想像した通り、ゲームやアニメで見たことのある獣人そのものの姿だった。
顔まで毛に覆われているものは少なく、耳と尻尾意外はほとんど人間のそれだった。
人だかりの中では、特に子供の姿が多く見られる。私たちに興味があるようで尻尾をブンブン振っていて目を輝かせている。ちびっ子かわいいなぁ。
(まずはあいさつだよね。コミュニケーションの第一歩)
私は「売れる営業トーク 基礎編」という本の一番最初に書いてあった事を思い出していた。
鏡の前で何度も練習した営業スマイルを作り、爽やかかつ元気よく挨拶をする。
「こんにち……」
「おい! 本当に妖精じゃないか!」
「私、妖精さんはじめてみた!」
「よくぞ守ってくれた!」
私のあいさつは、押し寄せた村人によって遮られ、この後しばらくもみくちゃにされる。
「うわっ! アイカ!助けて動けない!」
〈きゃー! そこは掴まないでくださいいい!〉
「私にもご利益を! ちょっとでいいから触らせて!」
「俺が先だ! 来月子供が生まれるんだぞ!」
どうやら、妖精族に触ると幸運が訪れると信じられているらしい。それも迷信とかではなく、村人たちの目は割と本気だった。
きっかり10分後。
「ふぉっふぉっふぉ。皆の者、そう旅人を困らせてはならんぞよい」
そう言って割って入ってきた老獣人によって、私たちはようやく開放された。
(異世界怖いよ!)
〈ここは怖い村でしたぁあああ!〉
そう言ったアイカは髪がボサボサで少しやつれて見えた。
次回、魔王種。
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読んでくださってありがとうございます!
なんと、本作初となるご感想を頂きました!
ありがとうございました! とても励みになりました!
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昨夜、第一話のボイスロイド朗読動画をアップしてみたので
興味のある方は是非聞いてみてください!
https://youtu.be/RwdhrMEmpUE