第九層 その6 〜新たな力〜
カツカツと黒板に文字を書く小気味良い音がダンジョン内に響いていた。
アイカが私たちがゲットした能力を書き出しているのである。
数多くの学生を眠りに誘ってきた黒板とチョークがぶつかる音で、遥香が眠くなり始めるよりも早くアイカの板書が終わった。
「っと、こんな感じです」
アイカがどこからか取り出した指し棒で示す先には、私とアイカそれからリオの能力が綺麗な文字で箇条書きにされている。
その内容は以下の通りだ。
遥香:肉体強化Lv7、魔を従える者Lv5、従魔召喚Lv5
シェリオ:悪意感知Lv7、瞬足Lv5、魔狼の加護Lv1☆
アイカ:解析Lv10
「おお! なんかすごいレベル上がってる……!」
正直なところオークを倒すのに必死になりすぎて、世界の声さんのメッセージを全然聴いていなかったんだよね。いつの間にこんなに成長してたんだろ……。
なんて思っていると星マークが付いている能力名に自然と目が行く。
私がそれについての疑問を口にするよりも早く、アイカが得意げな表情で簡潔に解説を始めた。
〈星が付いている項目が新規取得の能力です〉
星マークが付いている能力はレベルアップではなく全く新しく取得したものらしい。
「魔狼の加護? どんな能力なんだろ?」
その疑問に答えたのはリオだった。
「知らんが――」
知らんのかい!と心の中でツッコミを入れつつも黙って続く言葉を待つ。
「――魔狼って村に伝わる古い昔話に出てくるんだよな」
「へえ、どんな話なの?」
「神様は二柱の天使をこの世界に作りました。その天使たちは六大神聖獣を呼び出し共に今の世界を作り上げました。って感じの話だ」
「もしかして魔狼って……」
「ああ、その六大神聖獣ってのの中に魔狼がいるんだ」
「なるほど」
〈そういうことですか……なるほど……〉
遥香はアイカと一緒になって頷く。
ちなみに実際には昔話ではなく、子守唄なのだがリオは恥ずかしいので昔話と紹介したのであった。
「誰でも知っている話だと思っていたんだが、お前ら本当に何も知らないんだな」
その言い方にどこか引っ掛かるものを感じつつも知らない理由を口にする。
「すごく遠いところから来たからね」
嘘は付いてないよね。
「イセカイだっけか?」
「あー、うん。っていうか覚えていたんだ」
遥香はそう答えつつも、あまり考えないようにしていた、いつ帰れるか分からない遠い故郷を思い出し、一瞬だけ遠い目をする。
その表情にリオも思うところがあったのか深くは追求せずに軽く流す。
「さて、能力の名前だけ分かっててもどうせ意味ないんだ。さっさと次に行こうぜ」
「うん。検証してみないと分かんないもんね」
ここで普段なら真っ先に〈検証です!〉〈レベル上げです!〉と言い出しそうなアイカが意味ありげに含み笑いする。
〈実は、すでに先ほどの戦闘の中で検証しているのです!〉
さすがアイカであった。
どうやって検証したのかは言っていなかったが、オークを倒すときや逃げるときの動きから判断したのだろう。
レベル上げの効率化だけではなく、その検証の時間すら効率化されていたのだ。
「さすが妖精様だ……!」
リオが興奮を隠しつつ静かに頷いているが、尻尾は素直に風を起こす勢いで振り回されていた。私はその様子に生暖かい視線をチラリと向けつつ、アイカに尋ねる。
「どんな能力か分かったの?」
〈非常に優れた遠距離攻撃耐性と自然治癒力の大幅な向上です〉
遥香は相槌を打ちつつ先の説明を促す。
〈遠距離攻撃耐性については風の魔力で威力を減衰させつつ、攻撃を逸らす能力のようです。今後、弱い魔力の攻撃はリオさんには当たらなくなるでしょう〉
それって逸れた攻撃が私に当たったりするんじゃ……と考えるが、これは会社のコミュニケーション研修でやった話の腰折ってやつだと気付き自分を制する。
〈自然治癒力向上は水の魔力で傷を癒す能力と思われます。大抵の傷、もしかしたら致命傷でも自然治癒するかもしれません〉
リオが自分の掌を眺めつつ言う。
「自分では、あまり実感がないな」
〈そう、そこなんです! それが、これらの能力の最も優れている点です。これらの能力はRPGでいうところのパッシブスキルで、リオさんの意志によらず発動します。しかも、リオさん自身の魔力を消費せず、自分の周囲――自然界の魔力を消費して発動しているのです〉
「……それはすごいな」
口ではそう言いつつも、リオの尻尾の勢いが急になくなった。アイカの説明が理解できなかったのかも知れない。
リオの反応は特に気にせずに、アイカは私に向かって説明を続ける。
〈今後の検証次第では他にも判明するかも知れませんし、レベル上昇によってさらに強力な能力になると思われます。先ほどのリオさんの語った昔話から推測すると魔狼も実在するのかも知れませんね〉
「魔狼かあ」
何はともあれ、近接タイプのリオにとってはとても相性の良い能力だった。
他の能力についても楽しみである。
◇
「さて新しい能力は分かったけど、やっぱり実戦で確認してみないとね! ってことで、階層主を倒しに行こうよ!」
遥香は場所も分かっている事だしとモカに目配せしつつ他の獣魔も促す。
〈はい。向かいましょう――〉
アイカも同意したかのような口振りで続くが、主の安全のためにレベルを上げられるだけ上げておきたい彼女としては、階層主を倒してしまう前にどうしてもやりたいことがあった。故にこう続ける。
〈――ですが階層主はすぐには倒しません。取り巻き相手にレベル上げです!〉
「そんな……!」
「え!! まだ上げるの!?」
リオがトラウマ――オークの大群に押し潰されそうになったこと――を思い出し反射的に泣きそうな表情になり、遥香が筋肉痛が始まりかけている右腕を思わず抑える。
そんな二人の悲痛な叫びがダンジョンにこだました。
無情にも苦行は続くのである。
全てはアイカの御主人様のため。
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読んでいただきありがとうございました。
長らくおまたせしました!
詳しくは活動報告にて。




