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第九層 その5 〜モンスタートレイン〜

「ちょっ! デビルンたち張り切りすぎっ!」

「いくら何でも多すぎだろ……!」


 オークが怒涛の勢いで迫り来る。ダンジョンの通路いっぱいにひしめきあって。

 軍勢と言っても良いほどの圧倒的な数の暴力に私たちは押しつぶされそうになっていた。


 そんなむさ苦しいオークの大群を引き連れている小さな影はデビルン――私が召喚した従魔である。

 主人の命令に従うことで喜びを感じる彼()は、鼻息荒く迫り来るオークたちを背景にしながらも、嬉しそうに悪魔尻尾をブンブンと力一杯に振り回していた。


 彼らに与えられていた命令とは、このダンジョン内のオークを遥香たちが待つところまで集めること。MMORPGでは通称トレインと呼ばれるタブー行為である。


「こんなに沢山倒しきれないよ!」

「泣き言いってる暇なんてない! まだまだ来るぞ!」

《涼風遥香がレベルア――》

「もう嫌ぁぁあああーーーーー!!!」


 レベルアップに伴う世界の声をかき消すように遥香の叫びがダンジョン内にこだました。


 ◇


 アイカがこの狩の方法を提案した頃までさかのぼる。


「なるほど、俺たちはここでデビルンたちが敵を連れてくるのを待っていれば良いんだな?」

〈そういう事です! 効率的にレベルを上げられるでしょう?〉


 アイカが提案している方法とは、MMORPGで言うところのモンスタートレインである。


 電車トレインという名前の通り、複数のモンスターを集めて連れ回す行為で、大量のモンスターを処理する手段を持たないプレイヤーが巻き込まれれば間違いなく被害を受けるため多くのゲームでは禁止行為とされている。遥香がハマっていたドラゴンズリングでもシステム面からの対策が施されていた。

 しかし、この世界ではゲームと違って、もちろん禁止などされていなければシステム的対策も当然無い。

 だからこそ成立する手段なのではあるが――。



 ちなみにアイカによると、この層には私たち以外に誰もいないことも確認済みとのことである。

 他人の安全にも配慮するところは流石ではあるが、私たちにも配慮してほしいものである。


(いやアイカのことだから、いざって時の備えはあるんだろうけど、このやり方ってやっぱりキツいよね……)


 私が大量のオークが襲いかかってくる姿を想像していると、アイカが上目遣いで見つめてくる。


〈マスターいかがでしょう?〉


 目は口ほどに物を言うを体現したかのように『誉めてください』と言わんばかりの表情で見つめてくるアイカから目を逸らすが、その先には潤んだ瞳で熱い視線を送ってくるデビルンたちがいた。

 とてもダメとは言えない雰囲気である。


「うん。とても良い作戦だと思うよ……!」


 苦笑いの上から、営業として長年培ったスマイルを被せて頷いてみせると、アイカたちが一斉に喜びの声をあげた。


(まあいっか、何とかなるでしょ)


 ◇


 ――と思っていた頃が私にもありました。


「もう無理ぃーーー!」


 遥香が泣き言を言っている間も、彼女の言葉「みんな無理せずがんばってね」――本人は無意識のうちに何気なく口にしただけなのだが、言われた側の従魔デビルンたちはフリだと思っている――張り切っている従魔デビルンたちはダンジョンの奥深くまでオークを集めて飛び回っている。遥香には彼らとの不思議な()()()があり、大まかな現在位置が分かっていた。その数は20匹以上であり、次から次へと入れ替わり立ち替わり数十体のオークを引き連れてくるのである。


 オークを倒しつつ従魔の動きに注意をはらっていると、一匹が張り切りすぎてかなり遠いところまで行ってしまっているのが感じられた。


「ありゃー、モカちゃん張り切っちゃってるなあ。帰ってこられると良いけど。

 ああでも、帰ってきたら絶対50体は追加だよなあ……」

〈マスター頑張ってください! もうそろそろレベルが上がるはずです!〉


 かれこれ1時間はオークを倒し続けているため、このレベル上げを始めてからレベルが4以上あがっていた。しかし、正直なところレベルはもう良いからとにかく休みたいという気持が強かった。


「もう腕が痛いよ……。そろそろ休憩した――

 ――?」


 愚痴を口にしようとした時、唐突に1匹の従魔デビルンとの繋がりが途切れた。

 モカと名付けられた従魔デビルンの反応が消えたのである。


「――あれ?」

〈マスター?〉

「おい、急に手を止めるなよ。次がくるぞ?」

〈どうなされたのですか?〉

「モカちゃんがやられちゃったっぽい」


 自分の大切な従魔が倒されても遥香は動揺はしていなかった。倒されたモカの心が自分の元に戻ってきており、早く再召喚してほしいと訴えかけてきていたからである。


〈――そんな!!!〉


 むしろ、衝撃を受けているのはアイカの方だった。


〈マスターの大切な従魔をこ、殺すなんて許せません!! 復讐です!報復です!今すぐに血祭りにあげましょう!!〉


 そう言い残すと弾かれたように飛び出そうとするアイカの首根っこを掴んで制止する。


「ちょっと待ってアイカ! 大丈夫、再召喚できるから!」

〈へ? そうなのですか?〉

「うん、ちょっと待ってね。いま呼び出すね」


 最初に行った召喚と同じように右手を前に突き出して、魔力を練り上げ、呼びかける。


 ――サモン・レッサー・デビル


 呼び出しに応じた小さな影が魔法陣からピョンと飛び出した。そして勢いそのままに胸に飛び込んでくる。


「わっ! よかった。怪我はない?」


 再会を喜ぶように、それでいて申し訳なさそうにしているモカを私は優しく撫でた。


〈えーっと、マスター。申し上げにくいのですが、この個体は本当にマスターが命名なさったモカなのですか? 私には見分けが付かなくて……〉

「モカだよ。ほらここ、茶色っぽくなってるでしょ?」


 そう言って抱き寄せたモカの尻尾の先をアイカに見せる。


〈確かに茶色いです! 流石マスターです!〉


 何が流石なのか分からないがアイカは納得した様子で頷いている。

 そんなアイカを横目で見つつ私はモカにやられた時の状況を訪ねる。


「モカ、何があったの?」


 聞かれたモカはぬいぐるみのようなふわふわした手足を精一杯動かして身振り手振りで状況を主人に伝える。私はそんな微笑ましい動作から意味を読み取っていく。


「大きくて? うんうん、冠をかぶってて……なるほど。オークの王様かな? そいつにやられちゃったのかあ。うんうん頑張ったね偉い!」


 モカのボディーランゲージによる説明によると、群れるオークを見つけて大部屋に入ったところで巨大なオークに一撃で倒されてしまったらしい。


〈マスター、その巨大なオークは階層主ではないでしょうか?〉

「うん、多分ね」

〈階層主……ということは取り巻きが……無限湧きかも……〉


 アイカが何やら次のレベル上げの作戦っぽいものを呟くが――


「お前らいい加減にしろっ! もう倒しきれないっ!!」


 ――リオが断末魔にも似た声で叫ぶ。


「あ!」

〈あ!〉



 決壊。



 私たちがリオの方を見た瞬間、押し留めきれなくなったオークたちが、怒涛の勢いで私たちの元へ殺到した。


 ライバル(モカ)が大好きなご主人様の胸元に抱かれていることにヤキモチを焼いた他の従魔が、全身全霊をかけて集めてきたオークの数はゆうに百を超えていた。

 ただでさえ、リオと遥香の二人でギリギリ倒しきれるかどうかという数だったのが、遥香が抜け更には数も増したオークの大群相手に、リオ一人で太刀打ちできるはずがなかったのである。



 その後、遥香とアイカでリオをオークの群れから慌てて救出し、従魔デビルンたちを連れて逃げ出したのであった。

 子供の頃にやっていた古いMMO RPGでトレイン行為を行った際のオチと同じことに、妙な懐かしさを感じ苦笑しながらも全力で駆けてオークたちの追跡を振り切った。


 その後、リオがしばらく機嫌を損ねて口を聞いてくれなくなったことは言うまでも無い。

次回『第九層 その6 〜新たな力〜』


**************************


読んでくださってありがとうございます!


今年最後の投稿でございます。

今年も一年応援して頂きありがとうございました!


皆様の来年の旅に幸多からんことを!

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