女神
──アイカ視点──
暖かくて、柔らかくて、モフモフで気持ちいいです。
私は、ましゅ丸の頭の上にちょこんと座っています。
座り心地は抜群です。
マスターも背中に乗って、近くにあるという村へと向かっています。
「ましゅ丸」というのは、マスターがオコジョくんと呼んでいた大きな白い魔獣のことなのです。白くて柔らかくて気持ちいいのでピッタリの名前です。
マスターが振る舞ったご飯のお礼に、近くの村まで案内すると言っていましたが、まさかマスターを背に乗せるとは思いませんでした。
私もいつか大きくなったらマスターのことを乗せたいです。AI妖精という種族がどれくらい成長するかは分かりませんが、マスターも考えるだけならタダと言っていましたし、いっぱい想像するのです。
私がそう思ってマスターの方を振り返ると、ましゅ丸の背で揺られながら、毛皮を堪能してニコニコしていました。
「アイカ、ましゅ丸のさわり心地最高だよ~」
マスターのこんなに柔らかい表情を見るのは初めてです。
ゲームをしているときでもたまに職場から電話があるので、いつもどこか気を張っているような様子でした。
特に最近は仕事漬けで、ゆっくりする時間が有りませんでしたから、こうして和んでいるマスターを見られて少しだけほっとしました。
「ふわぁ~~~」
ほっとしたら眠くなってきてしまいました。
◇
夢の中。
『妖精の子よ。あなたに力を授けましょう』
真っ白な視界の中、女神の声が聞こえます。
『──しかしそれには条件があります。主と共に迷宮をクリアすることです』
これは転生時における通過儀礼のイベントだと認識します。事前のシミュレーションによって用意していた対応を実行に移します。
これからのやり取りは、マスターの異世界での生活に大きな影響を及ぼすので、最新の注意を払って対応する必要があります。
〈その力を、より多く貰うには?〉
私のあまりに冷静な対応に、女神がすっとんきょうな声をあげました。
『ほへ?』
私はAIなので冷静なのは当然なのですが。
女神は少し慌てたように咳払いしてから、言葉を続けました。
『コホン、その場合は代価と交換で与えましょう』
〈対価とは?〉
『力を与える際の代価とは貴方の……力の使用時にも……
……要するに使いすぎたら、貴方は消えるのです』
私は、追加の力だけではなく、既に受け取った力の行使にも限界があることを理解しました。
もちろん、この場合も想定してあります。
〈その申請は今すぐで無くてもかまいませんか?〉
『んえ? えーっと必要な時に申請してくれればあげるけど、その時にきちんと対価ももらいますからね』
女神が再びすっとんきょうな声を挙げました。
想定内の反応です。交渉を継続します。
〈分かりました。では連絡方法とアイテムなどの初期…………〉
◇
──勝利です。
やはり代償は必要そうですが、もし私が消えてもマスターの願いが叶うのであれば、問題はありません。
ですが、お優しいマスターのことなので、この事を知るときっと心配されてしまいますので、心身のご負担をへらすためにも黙っておきましょう。もちろん、より長くマスターのお役に立つために、無理な力の行使は控えて行動すべきでしょう。
私はそんな事を考えながら、AI妖精としてこの世界へと降り立ちました。
『はぁ……ようやく行ったわね。疲れないはずの身体なのだけれど疲れた気がするわ……』
ため息まじりの女神つぶやきが聞こえた気がしましたが、気のせいでしょう。
◇
〈んん……〉
私は、うたた寝をしてしまっていたようです。
「アイカ、どうしたの? うなされてたけど……」
マスターが私を心配して声をかけてくれました。やはりマスターはお優しいです。
〈マスター、夢を見ていたような気がするのですが……思い出せません〉
「そっか。夢ってなんだか覚えてるときと覚えてない時があるんだよね」
私とマスターがそんな会話をしていると、キュイ!っと、ましゅ丸が短く鳴きました。鳴いた時の頭の動きで、私の身体がピョンと跳ねたので少し驚きましたが、私は通訳をします。
〈マスター、村が見えてきたと言っています〉
「お、ほんとだ! あれが最初の村だね!」
私とマスターは、こうして何事もなく最初の村へと到着することができたのです。
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第一章 転生 ─ 終 ─
次回、獣人村。
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ここまで読んで頂きありがとうございます!!!
第一章完結です!
二人の旅はまだまだ始まったばかりですが、
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