幕間 冒険者の噂
ブックマーク新規追加ありがとうございます!
お礼に幕間を書かせて頂きました!(お礼になっていると良いのですが……!)
本作も長くなってまいりましたので、復習のために
ダンジョン攻略について一般的な冒険者視点で語って頂くとしましょう。
※遥香たちは出てきませんので読み飛ばして頂いても構いません!
ここはダンジョン都市ルテア。
にぎやかな酒場の店内で、冒険者風の男たちが酒坏を交わしていた。
「なあ聞いたか? また新層が開放されたんだってよ」
「ああ。今度は第8層だってな」
「すげえな。こないだまで5層までしか開放されてなかったってえのによ」
「最近できた金色の獅子ってパーティーが次々に階層主を倒してるって噂だ」
「そいつらがでっけえタコの足をぶった切ったとこ見たって奴も居たな。それを見て怖くなってすぐに逃げ出したってえ話だが」
「なんだ漁り屋かよ。やっぱあいつらはチキン野郎だな」
「ちげえねえ!」
「がっはっは!」
男たちの笑い声が店内に響き渡る。
漁り屋とは、強力なパーティーの後ろをついて回ってドロップなどの拾い残しをあつめる者のことである。
「それにしてもこんな短期間で第8層まで攻略されちまうとはなあ。金色の獅子って奴らは相当強えんだろうなあ」
「すみません。開放ってなんですか? あ、これおかわりのエールです」
給仕を手伝っている少年が冒険者に尋ねる。
「なんだ坊主そんなことも知らねえのか?」
中年の冒険者はそう言いつつも、まるで自慢するように説明を始める。
「ダンジョンってえのは、危ねえ所なんだ。強いモンスターがわんさかいる」
「危険な罠だっていっぱいあるしな。宝があっても飛びつくなって言葉知ってっか?あれは、ダンジョン由来の言葉らしいぞ」
「ああそうだったな。まあ、そんな罠やらモンスターやらのせいで、毎年たくさんの冒険者がダンジョンに潜ったきり戻ってこねえんだ」
「それに、ダンジョンは階層が深くなるごとに、敵も罠も凶悪になっていくんだ。これくらいの話は坊主も聞いたことがあんだろう?」
少年はコクコクと頷く。
「そんで、特におっかねえのは、階層主ってえモンスターだ。あいつらは他のモンスターと違って頭が良いんだ」
「頭が良い?」
頭の良いモンスターというものがイマイチ想像できない少年が首をかしげる。
「ああ、頭が良いってえのは計算ができるとか字が書けるとかそういうんじゃねえ。なんつーか奴らは……」
「……狡猾なんじゃよ」
隣の席で一人で飲んでいた痩せぎすの虚ろな目をした老人がうわ言のように語り始める。
「あいつらはのお、俺たちが何のためにダンジョンに入るか、どういう攻撃をしてくるか、どこに逃げるのか……全部分かっとるんじゃ。じゃから、地上へ戻るための階段近くで待ち伏せたり、配下の魔物を引き連れて集団で襲い掛かったりしてくるんじゃよ。あいつらは、怪物じゃ……」
老人はそこまで言うと、途切れたようにうつむく。
「ああ、爺さんまた寝ちまったよ」
「こりゃあしばらく起きねえな」
「この前は俺が送っていったんだ。今日はお前が送っていけよ」
男たちが老人を家まで送るのは誰かと言い争いを始めた。
「えーっと、つまり開放ってなんだったんですか?」
少年の質問に、男たちは手を叩いて馬鹿笑いする。
そう。
これだけ長々と話しておいて、少年が訪ねた開放というものの説明を誰一人としてしていなかったのである。
男たちのうちの一人が冒険者らしい硬い手で、少年の頭を大雑把に撫でる。
「すまねえな坊主。開放ってえのはな、つまりその階層主っておっかねえモンスターが退治された後に、俺たち探索組も入れるようになったってことだ」
厳密に言えば開放とは一般開放のことである。
最深層の手前に見張りがいる訳ではないが、基本的に攻略を目的とした命知らずなパーティー以外は立ち入らない。だが、階層主討伐の報告がされた場合は、ギルドが専門の調査員を派遣し、階層主が本当に討伐されているかの確認と出現するモンスターの特徴、存在する罠の情報などを調査し、ある程度の安全性の確保を行う。そうして初めて、探索を目的とする冒険者に開放されるのである。
「そうなんだ。おじちゃんたちは階層主と戦ったことあるの?」
男たちは少年の質問に、驚いた表情で顔を見合わせる。
そして、すぐに破顔し笑い出す。
「がわははははは! そいつは勘弁してくれよ坊主」
「ああ階層主の相手なんかしちゃあ命がいくつあっても足りやしねえさ」
「そこで寝てる爺さんじゃねえが、ありゃあバケモンだ」
「でもおじいさんも戦ったことあるんでしょ?」
「ああ、いっつもそう言ってるがどこまで本当か分かんねえ」
「おれは若い頃に、他の奴らが戦っているのを見たことだけはあるが、ありゃあ人間が勝てるもんじゃねえ」
「おめえ生きて帰れて良かったよなあ?」
「ちげえねえ! あんときゃーもうダメかと思ったもんだぜ。ほら坊主、見ろよこの傷。流れ弾だけでこれだぜ」
中年の冒険者が服をたくし上げて脇腹を見せると、そこには痛々しい古傷があった。
「生還祝いにもう一杯いっとくかあ?」
「何年前の話だ!」
「んじゃ止めとくか?」
「いいや! 飲むぜ!」
「がっはっはっは! そうこなきゃあ始まんねえ!」
男たちは何度目か分からない生還祝いのために、残っているエールを、豪快に喉を鳴らして飲み干し木製のジョッキを空にした。
「じゃあ、どんな人が倒してるの?」
「そりゃあ、超一流のやつら──Aランク冒険者さ」
冒険者たちは、空になったジョッキを少年に差し出し、冷えたエールを注文した。
※この世界では獣人族も亜人もひっくるめて人間と呼びます。
本編も本日中に更新しますので、もう少々お待ち下さい!




