ダンジョンの最奥にあるもの
私事で申し訳ないのですが、父が骨折してしまいまして
実家のあれこれを手伝う事になり、中々時間が取れませんでしたorz
ということで、おまたせしました!
4500文字更新です!
──アイカ視点──
私が目覚めると太陽は空高くまで昇ってしまっていました。どうやら昼近くまで寝てしまったようです。
〈ふわあ~〉
私は眠い目をこすりつつ、隣で寝ていたはずのマスターの姿を探します。
ですが、その姿は見当たりません。
〈マスター? 出かけているのでしょうか?〉
とつぶやいたところで、私の寝ていたクッションの脇にマスターのメモを見つけました。「サンドイッチを買いに行くね」と綺麗な文字が並んでいました。
マスターはたまにこうして一人で出かける事があるのです。なんでも女子には「たまには一人になりたい時があるんだよ」とのこと。
〈いつ頃出かけたのでしょうか?〉
私はそんな疑問を抱えつつも、探しに行って行き違いになってもまずいので少しの間待つことにしました。
今にして思えば、もっと早くに探しに行くべきでした。
◇
結局、マスターはどれだけ待っても帰ってきませんでした。
私はリオさんの部屋へと行き、マスターが帰ってこない旨を伝えました。
〈リオさん、急いでマスターを探しに行きますよ!〉
「あ、ああ。分かった」
私の勢いに少々押され気味のリオさんでしたが、すぐに承諾してくれました。
万一マスターが先に戻ってきたときのことを考えて宿の一階のカウンターに伝言を残し、リオさんと二人で宿を出ました。
〈リオさんは、パン屋さんの後で冒険者ギルドにも行ってみて下さい。もしかしたら情報があるかも知れません。私は上から探します〉
「ああ」
私は上空から魔法を使ってマスターのことを探しました。
ですが、マスターの姿はパン屋はおろか、街のどこにも見当たりませんでした。念の為広域魔法で都市の周辺も探しましたが、やはり見つかりません。
そうなると可能性として残っているマスターの居場所は、私の魔法の範囲外か、それとも──
──まさかダンジョンに!?
私の脳裏に嫌な予感がよぎります。
私は急いでリオさんに念話をつなぎました。
〈リオさん、聞こえますか?〉
「この声は……妖精様……ですか?」
リオさんは驚いた様子でしたが、きちんと念話は発動したようです。本当はリオさんに念話のことを知られるのはもう少し後が良かったのですが、背に腹は変えられません。
〈はい、私はアイカです。私の魔法で離れていても意思の疎通ができるようにしました。声に出さずに頭の中で念じるように答えて下さい〉
「こ、これで良いのか?」
〈はい、聞こえています。遥香様は見つかりましたか?〉
「いや、まだだ」
〈そうですか。こちらも見つけられませんでした。情報は何かつかめましたか?〉
「それが、どうやら他のパーティーとダンジョンに入っちまったみたいで……」
〈やはりそうですか……! 詳しく聞かせて下さい〉
私は、リオさんからの情報を念話で聞きつつ都市の上空から急降下し、文字通り飛ぶような速さで冒険者ギルドへと向かいました。
この時間でも人はそれなりにいるでしょうから、もちろん透明化も発動しておきます。
リオさんの話によると、私たちの先輩にあたる攻略パーティーのメンバーと一緒にダンジョンに向かったと聞きました。それを耳にした時、手足をしばられて強引に連れて行かれるマスターの姿を想像してしまい、私は焦燥感にかられました。ですが、よく聞くとマスターは同意の上でついていっている様子だったとのことでした。しかし、私はそれを聞いても全く安心できませんでした。
──なにか弱みを握られて無理やり従わされているのかも知れません。あるいは特殊な魔法やマジックアイテムを使ったのでしょうか。
私の頭の中では悪い想像ばかりがグルグルと巡っていました。
私は冒険者ギルド前の噴水広場でリオさんと合流し、一旦状況を整理します。
マスターはパン屋で買い物はしたようですが、最終的には攻略パーティーと共にダンジョンに向かったみたいです。おそらくパン屋を出たあとで何かがあったのでしょう。
その何かのせいでマスターは攻略パーティーと一緒に行動せざるを得ないのだと考えられます。
攻略パーティーの名前は〝金色の獅子〟だそうです。
矛先を向ける相手がはっきりしたことで、私の内側で煮えたぎる形容し難いどろっとした感情は爆発寸前でした。
〈き、金色の獅子! 絶対許さないです……! 今すぐマスターを助けに向かいましょう!〉
「妖精様! 落ち着いて下さい!」
〈これが落ち着いていられますか! きっとマスターは今頃、そいつらに辱めを受けているに違いありません……! ああ、どうしましょう!!〉
私の想像は悪い方向へと膨らむ一方でした。
「相手は〝金色の獅子〟、貴族の後ろ盾もあるパーティーで、揉め事は極力避けろとギルドから言われてるくらいなんです。それに、広大なダンジョンを闇雲に探すのはいくら妖精様でも無茶です」
リオさんが私を思いとどまらせようと、あれこれ言ってきますが私はそれを背中で聞きながらギルド内のダンジョン入り口まで突き進みます。
〈貴族なんてどうでも良いですし、無茶でもなんでもマスターを助けるのです!〉
憤慨する私を見て、リオさんは困惑している様子でしたが、リオさんの言うことも一理あることは認めざるを得ません。私の探査魔法はダンジョンだとその効果がかなり制限されてしまいます。
でも……そんなことは私だって分かっているんです!
それでもマスターのことが心配で気がおかしくなりそうなのですッ!
この世界にマスターを連れてきてしまったのは私なんですから──
〈──私がなんとかしないといけないのです!〉
「妖精様、探しに行くならせめて他の冒険者を雇ってからじゃないと……」
そうして今にもダンジョンへ飛び出していきそうな私の前に、リオさんが立ちはだかり必死な様子でなだめていました。
その時です。
「あ、アイ……リオ、来てくれたんだ」
たった一言。
それは聞き慣れた声、谷の湧き水のように澄んだ声、そして私の大好きな声でした。
その声は思わず私の名前を呼びそうになっていました。
それが嬉しくて、尊くて、私は思わず声を放った人物に飛びつきました。
〈マスターーーッ!!!〉
マスターの装備は所々破け、絹のように滑らかなお身体には無数の傷がありました。
◇
──遥香視点──
ダンジョンから出た時、私の姿は一言でいうとボロボロだった。
というより〝自分からボロボロにした〟が正解である。
あのあと私は、彼らのパーティーの他のメンバーと合流しダンジョン攻略へと向かった。
そこで役立たずであることを示すべく、あの手この手でボロボロになったのである。
ダンジョンから出たところで、思わぬ人物というか妖精──アイカが出迎えてくれたことに驚き、また安堵し思わず声が漏れる。
「あ……」
続いて「アイカ、来てくれたんだ」と言いそうになって、アイカの名前を出しそうになったところでギリギリ踏みとどまる。
「……リオ、来てくれたんだ」
私が呟くと、アイカが飛びついてくる。周囲と本人の様子からもアイカは透明化していることが分かる。
「無事だったか」
リオも胸をなでおろすように、小さくつぶやいた。
彼も心配してくれていたみたい。汗でしっとりと濡れた前髪から想像すると、きっとあちこち走り回ってくれたに違いない。リオって意外と良いやつなんだよね。
そうして私たちが感動の再開ムードになっているところで、金色の獅子のリーダーであるアルベルが苛立たしげに組んだ腕の指先で鎧をカチカチと叩いている。
そして吐き捨てるように言う。
「ふん、こんなやつに期待するんじゃなかった。お前はもう要らん」
そして、それだけ言ってギルドを出ていこうとする。
瞬間、背筋に冷たいものが走る。周辺の気温が一気に下がったような錯覚を覚えた。
いや錯覚では無かった。
私に抱きついていたはずのアイカがいつの間にか金色の獅子のパーティーメンバーの前に躍り出て、凍てつく魔力を放出していた。
アイカは別人かと思うほど低く冷たい声で言い放つ。念話だったせいか、脳内に直接響くその声は身体の芯まで冷え切ってしまうのでは無いかと思うほどの、凍えるような冷徹さがあった。
〈──こいつら、殺します〉
言った瞬間、アイカが身体から溢れる憎悪をそのまま魔力に変えたような、ドス黒いオーラを纏っているように見えた。
私は慌ててアイカを静止する。
「ちょっ! ダメだよ面倒くさいから!」
私が念話でアイカを必死に説得しているうちに、金色の獅子の面々はギルドを後にした。
彼らが出ていった方向を未だに睨みつけているアイカの意識を、少しでも違う方向に向けるべく無理やり話題を変える。
「そうそう、ダンジョンの最奥に何が有るか知ってる?」
「強い敵か?」
リオも私の考えに気づいたようで、アイカの気をそらそうと協力してくれる。
「そうそう、それもいるらしいんだけど……って、え? 今のリオ?」
「ああ、俺だ」
「いつのまにリオも念話に入ってきてたの!? アイカが回線つないでたってこと?」
〈あ、えーっと、はい。繋いだままになっていました。マスターの許可も得ずに申し訳ありません〉
と、思惑とは違う方向ではあるが、話が逸れたことで、ひとまずアイカが殺人妖精になってしまうことは防ぐことができた。
私たちは、一度宿へと戻って、すっかり遅くなってしまった朝食を取ることにした。
◇
サンドイッチやその他のパンを食べつつ、私たちは今日の出来事について話していた。
美味しいごはんを食べているうちにアイカの溜飲も随分と下がった様子。パン屋さんに行く途中で買ったアクセサリーをプレゼントしたのも溜飲を下げるのに一役買ったようだ。
〈それで、マスター、何があったのですか?〉
「じつは……」
私は宿を出た後のことを順を追って説明した。
パンを買った後に、アルベルたちに誘われてダンジョンへと向かったこと、その後、私が役に立たないことを示すべく頑張ってボロボロになったこと。
私が「アイカに鉢合わせちゃうのもまずいし」と言ったあたりで、アイカが〈私なんかのために……!〉と泣き出しそうになっていたので、なるべく内容を圧縮して手短に話した。
そして彼らが話していたダンジョン最奥の情報について──。
「ダンジョンの一番奥にはね──」
私がそこで言葉を切り、少しだけ溜めを入れると、リオがしびれを切らしたように先を急かしてくる。
「何が有るんだ?」
「それはね、〝神のカケラ〟だよ」
自慢げな表情で語る私に二人は疑問符を浮かべる。
「神……?」
〈神のカケラですか?〉
「神のカケラっていうのは、神様の力が内包されたすっごくパワーのある宝石なんだって」
「神様の力?」
「うーん簡単に言うと、超高濃度の魔石みたいな物らしいよ。この国の上流階級は、それを欲しているみたい」
〈マスター、さすがです! まさか奴らからそれほどの情報を入手してくるなんて……! それにその宝石があればマスターはもっとお強く慣れるかも知れません!〉
アイカの尊敬の目線を受けながら私は得意になる。
「そういうことだから、私たちも最奥を目指そうね! もちろんリオもね」
「俺は別にそのカケラとやらは欲しくないんだが……」
〈妖精命令です! リオさんも手伝って下さい。握手一回と引き換えです〉
「んーまあ、妖精様がそこまで言うなら手伝ってやっても……」
「それじゃ早速行こう! ギリギリ優秀成績には慣れてんのよ!」
──神のカケラってなんだろう! そもそもダンジョンってなんだろう! すごく気になる……! 早く知りたい!
そんなこんなで、遥香たちはダンジョンへと挑む、新たな目的を得たのであった。
次回『バハムート装備』
(追記)幕間 『冒険者の噂』を挟みます!
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読んでくださってありがとうございます!
今まで納期指定無しの女神ミッションで、お気楽攻略を続けていた遥香ですが
ようやくスイッチが入った模様です!
攻略加速!
執筆も加速!
がんばります!
引き続きお付き合いいただければ幸いです!




