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幕間 賄賂の行方

今回は次章へと繋がる幕間です!

楽しんで頂けたら嬉しいです!

 ダンジョン都市ルテアの西に位置する王都アヴァンプル。

 そこに本拠地を構えるルドマーネ商会は他国にも拠点を持つほどの大商会である。

 現在商会長を務めているのは、ギルレトム──壮年の狐獣人の男である。


 ギルレトムはオスティン伯爵から届いた手紙の内容に目を疑った。

 商会が主催する年に一度のオークションに、〝聖剣〟を出品したいと言ってきたからである。しかもその聖剣の出処が平民からの賄賂と言う点が、ギルレトムの眉間により深い皺を作らせていた。

 伯爵の息子であるフレーダーが城門での取り調べの際に、平民から色々と巻き上げているという話は、商人という仕事柄ギルレトムの耳にも当然入ってきていた。しかし、都市に入るために聖剣を賄賂として差し出すとは到底信じられない話だった。平民に対してどんな横暴なことをしているのか──あまり深追いすると危険だろう。後ろ暗いところがあることは明らかだったが、貴族が出品したいと言ってきている以上、一介の商人に過ぎない身としては断れるはずもない。

 ギルレトムは深い溜め息をつくと部下を呼び、オスティン伯爵への返事の手紙を書き始めた。




 ギルレトムはオークションに出品する品々を受け取るために、オスティン伯爵の住む屋敷に赴いていた。

 部下に百近くある品の鑑定をさせている間、顔に愛想笑いを貼り付けて伯爵の相手をしていたが、ようやく鑑定作業が終わったと部下から報告を受ける。しかし、その中に聖剣は無かったと耳打ちされる。

 訝しむ内心を押し殺し、伯爵に尋ねる。


「それで伯爵閣下、例の品は?」

「こちらに持ってくるように伝えてある。目の届くところで鑑定して貰いたいのでな。少し待て」


 伯爵が答えると、まもなくして部屋の扉がノックされる。伯爵が返事を返すと、執事が数人の護衛の兵士を連れて部屋へと入ってくる。

 執事は恭しい態度で深々とお辞儀をすると、真新しい豪華な革張りのケースを丁寧に机の上に置いた。


「開けてみたまえ」


 伯爵に促され、ギルレトムがケースの縁に手をかけゆっくりと蓋を開ける。

 中に保管された剣の鞘が目に入り、ギルレトムは思わず声を漏らす。


「む──」


 だが、その後に続く言葉は口に出来ない。否、口にすべきではないと考えた。

 なぜなら、


 ──貧相な作りの鞘だ。


 そう思ったからである。ギルレトムはほんの一瞬だけ眉を顰める。

 僅かな表情の変化だったが、国王や貴族連中相手に日々腹の探り合いを繰り返している伯爵はそれを見逃さなかった。


 しかし、伯爵は全く不快に感じてはいなかった。むしろ自分自信と同じ反応に親近感すら覚えていた。


 ギルレトムは軽く咳払いをして内心を取り繕う。


「早速拝見させて頂きます」


 そう言うと、伯爵は鷹揚に頷く。

 商人は部屋の隅に控えていた専門の鑑定士に目配せする。この道30年の鑑定士が清潔な手袋を手にはめてから、剣をゆっくりと持ち上げる。


「見たこともない彫刻ですな」


 鑑定士はモノクルを片手に、鞘に緻密に彫り込まれた彫刻を丹念に調べている。鑑定士も聖剣という話は事前に聞いていたが、それでも普段どおり丁寧に鞘から鑑定していく姿に伯爵は好感を持っていた。

 外側の確認を終えた鑑定士は右手に柄を、左手に鞘を持ちその重さを確かめながらゆっくりと引き抜くと、顔をのぞかせた刀身が眩い光を放っていた。


「これは……ッ!」


 ギルレトムがあまりにも神々しい輝きに思わず声を漏らす。

 その光を目にした瞬間、彼は間違いなく聖剣の輝きであると確信した。

 鑑定士も「まさか……」と小さく呟く。

 ギルレトムは手の止まってしまっている鑑定士を促す。


「鑑定してみろ」

「はい……!」


 鑑定士が剣に手をかざし、鑑定スキルを発動させる。


 ──武具鑑定


「……」


 部屋に沈黙が訪れる。

 鑑定結果を口にしない鑑定士を怪訝に思ったギルレトムが口を開く。


「おい、どうした?」

「それが……特に効果が出てきません……」

「そんなはずはない、もう一度試してみろ」


 その後、鑑定士が何度も鑑定スキルを発動させたが結果は同じだった。

 鑑定士が首を横にふる。


「なぜだ。この輝きの正体すら分からないのか?」

「申し訳ありません。私の力では……」


 鑑定スキルとは神から与えられた能力〝ギフト〟であり、その力はいわば神の目にも等しい。

 武具や薬品、魔法などカテゴリー上の制限はあるものの、一度鑑定を発動させてしまえばあらゆるアイテムの効果や特性を看破することができる。

 その鑑定が通用しない剣など──。


 そこまで考えたところで伯爵が口を開く。


「──やはり鑑定妨害か」

「妨害ですと……!?」

「鑑定妨害……これではまるで……」


 鑑定妨害。

 それは神の目でも見通せない何か、がこの剣には秘められていることを指す。

 その機能が備わっている剣となると──


「──聖剣ライオネルテイン」


 16年前に失われたという黄金に輝く聖剣ライオネルテイン。

 その聖剣が今になってなぜ出てきたのか。そして、なぜ平民が持っていたのか。いくつかの疑問と共に、面倒事に足を突っ込んでしまったという考えがギルレトムの脳内をぐるぐると回っていた。


「まさか本物の聖剣を目にする日が来ようとはな……」

「これは国王陛下にも報告せねばなりますまい」


 ◇


 ダンジョン都市ルテアのとある宿屋にて、身軽な格好で口も調子も軽い男が、好き勝手に長々と話していた。


「ってな噂があったんでさあ! って旦那、聞いてやすか?」


 朝食を食べながら聞いている金髪の青年はうんざりした表情をしていた。


「お前の話は長すぎる。結局なにが言いたい?」

「どうも、その聖剣を持ち込んだってえのが、最近聞く攻略パーティーの女らしいんすよ」

「ほう……」


 青年は熟考するように少しの間、目を瞑る。


「……名は?」

「妖精の剣っす」

「違う。女の方だ」

「なんつったかなあ……」


 男はそう言いながら頭をポリポリと書きつつ、酒場で聞いたおぼろげな記憶を思い出そうとするが、しばらくしても答えが出てこない。

 やがて退屈そうに窓から外を眺めていた女──黒いマントの下に露出度の高い弓使い風の衣装を身に着けた妖艶な美女──が小さく呟く。


「……ハル」


 ハルと言う名前を聞いて、男は手を叩く。


「そう! そいつだ。ハルだ!」

「居所も分かっているのだろう?」

「ええ、分かっているわ」

「行くぞ」

読んでくださってありがとうございます。


次回から新章へと突入します!

たこ焼きパーティーなどいくつかイベントがあるのですが、

物語を先に進めることを優先していきます!

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