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第八層 その4 ~ウインド・オーラ~

 ──ウインド・オーラ


 リオが戦爪の真の力を解き放つ。


 直後、戦爪は使い手の意思に答えるように、輝きを放ち始めた。篭手部分にはめ込まれた翡翠色の宝石から光と魔力がほとばしる。その宝石の台座から伸びる回路も同じ色の輝きを放ち、戦爪を爪たらしめる刃に膨大な魔力を送っている。そのエネルギーを受け取る刀身はまるで、具現化した風を纏うようにエメラルドグリーンの輝きを放っていた。


「おお……!」


 そうして戦爪が力を開放した余波で突風が巻き起こる。突然の風に思わず腕で目を庇うが、その直前に見えたのは、戦爪を構えてまるで風のコートを羽織ったようなリオの姿だった。

 彼の編んだ後ろ髪の銀が、戦爪からの翡翠色の光を受け、風に激しく靡いている。


 突風が収まったあとの空間は驚くほど静かで、キラーオクトパスも何事が起こったのか状況を把握すべく動きを止めてじっとリオを注視している。

 その横長の瞳孔が見つめる先のリオが両の手に装備する戦爪を構え直し──


「行くぞ。化け物」


 リオが駆ける。その勢いはまさに瞬足。

 元々足の早いリオだが、そこにアイカの補助魔法による加速が加えられ、更には開放状態の戦爪の副産物でもある風魔法の効果により、常人の眼では捉えられないほどの早さを得ていた。

 まるで残像を残して消えてしまったような速さで、キラーオクトパスの胴体めがけて駆ける。リオはその早さでもってキラーオクトパスの連撃を掻い潜り、本体へ肉薄しようと迫る。


 しかし、キラーオクトパスも黙ってやられる訳にはいかないと言わんばかりに、即座に行動を切り替え、自身に迫る脅威を排除しようと触腕に握りしめた巨大な武器を振るう。

 行く手を遮るような、大剣の横薙ぎ。

 そして、逃げ道を塞ぐような鎌の斬撃。

 さらに上から叩き潰さんとする鎚矛の振り下ろし。


 それら3つの悪意が同時にリオへと迫る。いかに速度があろうと、行く手を遮ってしまえば、退路を断ってしまえば、そして潰してしまえば脅威とはなり得ない。そんな意図で放たれたそれは当然リオの〝悪意感知〟により察知されており──


「──はっ!」


 一閃。

 リオが左右の戦爪による斬撃を放つ。


 本来ならリオの細身の身体をあっさりと肉塊へと変えるはずだったそれらの武器は、風の刃を纏った戦爪の前に、まるで溶けかけのバターのようにいとも容易く断ち切られる。明らかに戦爪の刀身よりも分厚いそれが両断されていることから、戦爪の弱点であるリーチの短さが風の刃によって補われている事は明らかだった。壁に突き刺さる武器の滑らかな切り口が、具現化するほど高密度の風属性の魔力を束ねた刃による圧倒的な切れ味の前には、物質的な硬度が意味をなさない事を物語っていた。

 刹那の後、振り抜かれた勢いそのままに飛んでいた武器の切り落とされた先端側が、重厚な金属音を轟かせてダンジョンの壁面へと衝突する。


「……すごっ」

〈これは想定以上です……!〉


 まるで怪獣映画でも見ているような現実離れした光景に遥香は思わず息を呑む。

 戦爪を設計した本人であるアイカも驚きを隠せない様子。

 そんな私たちの視線の先で、リオは跳躍しキラーオクトパスの足から胴体へ向かって駆け上がっていた。


「は──ッ!」


 リオは戦爪をキラーオクトパスの身体に突き立て、傷口から放出される赤い光による軌跡を残しながら、駆ける。更に駆け上がった勢いのまま、キラーオクトパスの胴体を飛び越え空中で身を翻す。そして今度は重力ものせた斬撃でもって巨大なタコの胴体を縦一直線に切り下ろす。最後にキラーオクトパスの頭に十文字の斬撃を繰り出してフィニッシュポーズを決める。

 高性能過ぎる武器とそれを使いこなす戦闘センスを持つリオを前に、為す術なく倒された階層主〝キラーオクトパス〟は血光となって弾けるように消えていく。


「すご……」


 唖然と言葉を失う遥香の目線の先で、戦爪の宝石が燃え尽きたように光を失う。それはチートと言っても良いほどに驚異的な切れ味を誇るものだったが、持続時間はかなり短いようだ。

 これなら確かにここぞと言う時にしか使わないというアイカの選択にも頷ける。

 そんな事を考えながら私が見つめる先では、リオが慣れた手付きで戦爪の刃部分を篭手の中へと収納する。


 霧散する階層主の赤い光をバックに、試合に勝った後の選手のような表情でこちらへ向けて歩いてくるリオの姿を見て遥香は思わず、


「一人で倒しちゃった──ッ!」


 と、驚愕の声を上げるのだった。


 そんな彼女たち一行はその後、キラーオクトパスのドロップアイテム──使い方が分からない魔道具や、巨大すぎてそもそも使い道が無さそうな巨斧、その他食材など──を拾い帰路へとついたのであった。


 ◇


 私たちは、もはや定番となりつつある流れで冒険者ギルドに立ち寄ってキャベツを納品する。

 黙って攻略を続けているが、そろそろギルドマスターに呼び出されそうな予感がするが、とりあえず今日のところはまだバレていない様子。

 ギルドを出た後は、月夜のペガサス亭にて三人で夕飯を食べた。


 そしてリオと別れて自分の部屋に帰る。


「リオもこっちに泊まればいいのにね」

〈私からも言ってみたのですが、ダメでした。彼は悪意感知をオフにできないようなので、人が多いところは苦手なようです〉

「アイカが言ってもダメだったんだ。それじゃ難しいかもね。この前酔っ払ってこの部屋に泊まったときは大丈夫だったのにね」


 そんな会話をしながらも着替えが終わり、アイカが入れてくれたお茶が注がれたティーカップを片手に窓辺に腰を下ろす。


「今日の夕飯も美味しかったね」

〈はい! たこ焼き器が無いのは盲点でしたが、吸盤はぷりぷりで最高でした! ああ、思い出すとよだれが……じゅるり〉

「たこ焼き器ってヴォレアドさんなら作れるかな?」

〈かも知れませんね。また設計図を書いておきます〉

「そういえば、今回はレベルアップしなかったね。やっぱり結構経験値が必要なのかな?」

〈うーん、そうかも知れませんが、もうしばらくデータをとってみないとなんとも言えませんね。単純に数値化できるものでもなさそうですし〉


 会話が途切れたところでティーカップを傾け、開けた窓から夜空を見上げる。

 夜の街の音に耳を傾けながら、夜空を眺めていると──


〈マスター、月が綺麗ですね〉

「うん、綺麗だね。2つあるけど──」


 私は、夜空に瞬く星々に囲まれて青白く輝く2つの月を見上げる。

 本当に綺麗な夜空だ。


「って、まさか〝そういう〟意味じゃないよね?」

「あはは、違いますよ。純粋に月が美しいと思いまして……

 ……でも、マスターのことはいつだってお慕いしておりますからね?」


 夜空を背景にキラキラ輝く鱗粉のドレスを纏った妖精姿のアイカが、くるりと回ってこちらに笑いかけてくる。その頬には少しだけ朱が差しており、ほのかな恥じらいを伴った表情がなんとも絵になる光景だった。私はこっそりと心の中でシャッターをきり、アイカ専用アルバムに残しておくことにした。

 うちの娘はやっぱり最高に可愛いね。


「ありがと」


 私は照れくささを誤魔化すように短くそう答えて、窓から軽く身を乗り出し月明かりが照らす町並みを眺める。見下ろす先は、宿屋や飲食店が立ち並ぶダンジョン都市ルテアの北通りである。

 友と酒を片手に歩く者、恋人と寄り添い歩く者、のんびりと歩みを進める老人、足早にどこかへと急ぐ若者など、様々な人の営みが月明かりに暖かく照らされている。夜に治安が悪化するということも無く、平和な活気が街には溢れている。道端では、今日一日分の汚れやゴミをせっせと食べているスライムの姿も見える。こうしたスライムたちの努力により街は清潔に保たれているようだ。


「平和だね」


 眺める先で平和な日常を送る人々の姿が、平和な日本でサラリーマン生活を送っていた頃の自分の姿に重なって見えた。


 最近、自分でも、この世界での生活に馴染み始めていると感じている。だが、ふとした時にそれで良いのかと考えてしまうことがある。

 ──帰るべきなのだろうか。

 ──この世界にいるべきなのだろうか。

 ──もし女神のミッションをクリアできたなら、


「本当に帰れるのかな」


 それは不意に意識の隙間を抜けてこぼれ落ちた、ただの独り言だったが、アイカにとっては思い詰めた主の悲痛な声に聞こえたようだ。つまり勘違いである。

 吐息のように発せられたそれは、そよ風にかき消されそうなほどの小声だったが、アイカがそれを聞き逃すことはなかったのである。

 アイカは背中の羽根を軽く羽ばたかせて、遥香の肩にそっと腰掛け寄り添う。


 ──ごめんなさい。


 心の中でそう思いつつもアイカは口には出さなかった。もし、そう言ってしまったら笑顔の仮面で本音を隠してしまうと考えたから。アイカは優しい主の無理した笑みは見たくないのである。


 だからこそ、主の優しい手によって生み出されたAIであるアイカは誓う。


 ──いつか絶対マスターを元の世界に帰してみせますからねっ!!!



 ふと熱い視線を感じて、自分の肩の上を見ると、何やらぐっと拳を握って難しい顔をしているアイカの姿があった。

 何やら決意を固めている様子だが、そんな姿もかわいい。

 私はやや乱暴にけれど愛情をたっぷり込めてアイカの頭を撫でた。


〈やめて下さい、マスター。頭がぐらんぐらんするですー!〉


 そう言いつつもアイカは本気で抵抗する訳でもなく、されるがままになっていた。


 私はアイカを撫でくり回しながら思案する。

 まあ、こっちの世界に来たおかげてこうやってアイカに触れられるようになった訳だし、アイカも感情を手に入れられたんだよね。

 それだけでも、異世界に来た甲斐があるというもの。いつか日本へ帰れるときがきたら、できればこの子をこのままの姿で、感情を残したままで一緒に帰りたいな。


 ──よし、いつかアイカと一緒に帰ろう。


 無意識に遥香がこぼした独り言により、偶然にも二人の気持ちは同じ方向へと向いていたのであった。


「明日からも頑張るぞ──ッ!」

〈ハイです! マスター!〉


 果たして二人の異世界旅は、これからどこへ向かうのか──

 ──願わくば二人の旅に、幸多からんことを。



**************************



 第四章 首都エルドミトス 冒険者入門編  ─ 終 ─


 次章  首都エルドミトス 迷宮攻略編

次回『賄賂のゆくえ』


**************************


読んでくださってありがとうございます!


ついに第四章完結です! 

ここまで応援して頂きありがとうございます!!

皆様に燃料を補給して頂いたおかげでここまで来られました!!!

前回で20万字も超えて、色々節目って感じで感無量です……!涙

っと、長くなってしまいそうなので続きは活動報告にて。



さてさて、次回から幕間を何話か投稿した後に、新章に突入したいと思います!

どうか今後もお付き合いいただければ幸いです!

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