第八層 その3 ~キラーオクトパス~
私たちはクラゲを倒したあと、『肉体強化Lv1』の効果を検証しつつダンジョンを進んでいた。
そうして分かったことがいくつかある。
1つ目は、打撃に対しての耐性が大幅に向上している事だ。
これはクラゲ戦で分かっていた事でもあるが、改めて剣の鞘で腕を軽く叩いてみたところ、全然痛くはなかった。
アイカ曰く、
〈ふぅーむ、肌の細胞に変化がみられます。こうして触るとフニフニなのですが、強い衝撃を与えると瞬時に固くなるようですね。不思議です。ダイラタンシーの応用でしょうか……?〉
「ダイラ……って何? こわっ! カサカサ肌になっていたりしないよね!?」
主に美容面のことが気になる遥香に対して、アイカが安心させるような微笑を浮かべて言葉を紡ぐ。
〈それは大丈夫です。お肌の水分量も十分ですし、むしろクラゲに連続で叩かれたためか、マッサージ後のように血流が良くなっているようです〉
「なにそのクラゲエステ的なの……」
と、そんな話が逸れたやり取りを経つつも、『肉体強化Lv1』の効果は打撃耐性と結論。
すると当然試したくなるのが、他の耐性である。
アイカ先生監修のもと、安全に十分配慮して検証をしてみた。
その結果、斬撃や刺突に対しては今までと同じように傷つくし、血も出ることが分かった。針でチクッとしたり地味に痛かった。痛覚が無効化していたりするかもと思っていたけどそんなことは無かったみたい。確かに痛いのは嫌だけど、痛みを無くしたら怪我してるかも分からないし、何より人外一直線って感じで怖い。
それから、毒などの状態異常系の耐性を見るためにパッチテストも行って、軽い毒やしびれなどに耐性があることが分かった。〈目立たないようにお尻でやりましょう〉とアイカが言ってきた時にはぎょっとした。
リオも居るんだしお尻とか無理。
最終的にどこで試したのかって? それは乙女の秘密です。
そのパッチテストの結果を見たアイカ先生が独り言つ。
〈やはりこうなりましたか。まあこれまでのマスターを見ていれば分かることですが。そうですか。やはり私の分析は正しかったのですね〉
それに対して私が「アイカ、どんだけ私のこと見てるのよ」と思わず彼女の方をちらりと振り返ると、輝く鱗粉を放ちながら飛ぶ妖精──アイカがキラキラした満面の笑みを向けてきたのだが、それはもう過ぎた話である。
そんなこんなで、『肉体強化Lv1』の効果は打撃耐性と状態異常耐性のみで他の攻撃に対しては、今までと同じであることが分かった。
ちなみに実験にご協力頂いたしびれクラゲさんのドロップはゼリーでした。
あとでカフェ──イルファンの庭にでも持っていってあげよう。きっと冷たくて甘いスイーツに加工してくれるはず。
と下心満載な思考にふけりつつダンジョンを進んでいると──
──ふいに軟体動物の足のようなモンスターが現れる。その触腕の先には巨大な斧を握っている。
「って、足だけ?」
肝心の本体が見当たらない。足の太さからすると本体はかなり巨大なはずだけど、もしかしたら足だけで完結している不思議モンスターなのかも知れない。
リオもそれを見て訝しむように目を細める。
「なんだこいつ?」
〈タコの足でしょうか?〉
アイカの言う通り、見た目は巨大なタコの足だった。そして、こちらから近づいても攻撃してくる気配はない。
とりあえず、ダンジョンの通路の幅いっぱいまで広がっているそれを、どかさないと先には進めないので刺激してみることにした。リオがゆっくりと近づき、どこからか拾ってきた棒で突いてみると、それは眼にも留まらない早さで奥へと引っ込んでいった。
「逃げた!」
「追うぞ!」
リオが叫ぶと同時に駆け出し、私たちもその後に続く。そして、追いかけた先で眼にしたのは──
──全ての足に武器を持った巨大なタコだった。
〈キラーオクトパス! おそらく階層主です! たこ焼きです!〉
「でかいぞ!」
「うわ、でかっ! きもっ!」
アイカが即座に命名し、倒したあとの食べ方まで決めてしまった階層主〝キラーオクトパス〟。アイカにならって各々感想を口にする。
その見上げるほど大きな身体は体育館くらいあるこの大部屋ですら、狭く感じるほどに巨大だった。巨体から伸びる5本の触腕にはそれぞれ、斧・剣・槍・鎌・鎚矛が握られている。いずれもその巨体に相応しい大型のものだ。単に大剣などと言うより巨剣と呼びたくなるほどに大きく、私の身長の2倍くらいの長さだ。
そうしてキラーオクトパスを観察していると、ひとつの疑問が浮かんだ。
「タコなら8本のはずじゃない?」
私がそれを口にしようとする前にその答えが目につく。それは──先端が切り落とされている3本の足だった。私たちが来る前に、この階層主が他のパーティーと戦っている姿が脳裏をよぎる。
「もしかして他の攻略パーティーが……」
「来るぞっ!!」
私が思い至った可能性は言葉にする途中で、リオの吠えるような一言でかき消される。
雑魚相手のときとは全く違う声質に、私も反射的に剣を構える。
直後、巨大な触腕に握られた大斧が振り下ろされる。
もちろん、その大振りなモーションを私たちが見切れないはずがなく、各々が飛ぶように回避。
轟音と衝撃。
「うあっ!」
キラーオクトパスが放ったそれは、ダンジョンが揺れたと錯覚するほどの強烈な一撃だった。
私が先程までいた地点を見ると地面がえぐられており、振り下ろされた斧の威力の高さが伺える。そうして大きく陥没した地面だったが、ダンジョンの性質上その地面の傷跡は即座に修復されはじめていた。
だが、今はそれらをのんびりと観察している場合ではない。
「次の攻撃が来るぞ!」
リオの大斧の一撃から間髪入れずに大剣が横薙に振るわれ、さらには槍による突きがその後に続く。そうした五つの武器による連続攻撃の激しさに息付く暇もない。
「これじゃ攻撃しようにも近づけないよ」
そんな私の言葉に、アイカが挑戦的な笑みを浮かべ、
〈リオさん、アレの出番です! 解放してください!〉
「わかった……ッ!」
短く、けれど力強く頷いたリオが戦爪を構え──
──ウインド・オーラ
戦爪の真の力が開放された。
次回『第七層 その3 ~ウインド・オーラ~』
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読んでくださってありがとうございます!
リオが使いたくてウズウズしていた戦爪の本気!
やっと出てきました!
今回で60話目です!
ここまで応援してくださり、本当にありがとうございます!
作者としてはもう色々感無量です……!
頑張って最後まで書ききるぞーッ!!!
そのためにも、是非もう少しだけ下にスクロールして頂き
小説評価☆☆☆☆☆や感想で、作者に燃料を補給して頂けると嬉しいです……!




