モフモフとモグモグ
「久々の料理だなぁー!」
最近ずっと仕事ばっかりだったから、いつぶりの料理だろう。しかも、誰かのために作るのなんて年単位で無かったかもしれない。
(友達と会う時もだいたいカフェとかだもんなぁ)
私は、久々の料理に腕がなる思いだった。
「アイカ、料理道具ってある?」
〈あります!〉
「材料も?」
〈ありますよ。完成品もありますが、いかがしますか?〉
完成品あるんかーい!
って思ったけど、もう料理をする気分になってしまっていたので作ることにした。
◇
「よし完成!」
パエリア、グラタン、サラダ、ふわふわパン、デザートに焼きチョコバナナの5品を作った。
ここは異世界だが、異世界要素はゼロである。
でも、これでも大学の時は自炊していたし、腕には結構自信があるんだよね。
(友達が来た時はよく料理作ってたなー)
それに、アイカが出してくれた魔法の調理台は、Uの字型の調理台で動線が考えられており、とても使いやすかった。
必要な調理器具もコンロもオーブンも、全て揃っていた。食器も完備でもちろんお箸もある。
原理も不明の謎技術だが、水道や冷蔵庫までついていて、ほとんどの料理は作ることができそうだった。
ゲーム内での名称は、魔法の調理台(極)。
説明文には、世界の魔法技術の粋を集めて作られた調理台と書いてあったのを思い出す。
「やっぱり料理って楽しいなあ。つい作りすぎちゃった」
最初はパエリアだけを作るつもりだったが、仕込みが終わって加熱してる間、手持ち無沙汰になってオーブンを使ってみたくなってしまったあたりから、私の料理人スイッチが入ってしまっていた。
〈マスター、私が責任もって全部食べるので安心してください!〉
「いやいや、アイカ一人じゃ無理でしょ! 大丈夫、私も手伝うから!」
とは言ったものの、5品それぞれが5人前くらいある。
やっぱり作りすぎちゃったな。
とりあえず暖かいうちに食べ初めてよう!
「いただきます」
〈いただきます〉
私はサラダから、アイカはパエリアから食べ始めた。
アイカがどうしてもお箸を使ってみたいと言うので、私とおそろいのマイお箸、ついでにスプーンやフォークも作っておいた。さっそくそれらを使って食事を始める。
〈まふはー! はへりあ、おいひいへふ!!!〉
「ん! グラタンもおいしい!」
アイカにとっては初めての食事、私にとっては久々のちゃんとした食事だった。
「アイカ、こっちも食べてみてよ! 美味しいよー」
〈マスター私、幸せです〉
アイカは心の底から嬉しそうな声でそう言って笑った。
◇
ワオーーーーーーン!
「ん? アイカ、なんか集まってきてない?」
〈っは、はい!! 申し訳有りませんマスター! 食べるのに夢中で気づけず……〉
「全然いいって、私も気づかなかったし。それよりどうしよう……」
──かわいい。
遠吠えをしたのは、中型犬くらいの狼だった。潤んだ瞳で料理と私たちを交互に見ている。
他にも猫やレッサーパンダみたいなのや、もっと大きい熊っぽいのもいた。
料理の香りにつられてきたのか、周囲にはいつの間にか、たくさんの森の生き物が集まってきていたのだ。
ガウワウ!
「あ、こっちにも居る!」
〈囲まれてます! マスターの身に危険が!? た、戦いますか!?〉
「ダメダメダメ! あんなに可愛い子たちに乱暴なことするの禁止!」
動物たちに敵意はない。
みんな私たちが食べていた食事に目が釘付けだった。
キュイイイーッ!
突然、ひときわ大きな体躯の白いモフモフが彼らの後ろから現れた。
ゆっくりと近寄ってくるそれには見覚えがあった。
「もしかして、あの時のオコジョくん?」
キィ!
オコジョくんは首を軽く縦に振り肯定を示した。
もしかして私の言葉がわかるのかな。
「これ食べる?」
私は、ふわふわパンを一切れとって、そのこの前に差し出した。
パクッ!
私の手が離れた瞬間、目にも止まらぬ速さで食べ始め、美味しそうに咀嚼していた。
身体の大きさに見合わない早業だった。
キュイ!キュウキュキュイー!
オコジョくんが、何か言っているようだが私にはオコジョ語は分からない。
どうしようかと私は少し思案する。その間も、オコジョくんは何かを必死に訴えているようだ。
「もっと食べたい?」
キュキュッ!
オコジョくんは首を横に振る。
「違うのか、んー、皆に食べさせたいとか?」
キュイキュイキュイ!
オコジョくんは何度もうなずいた。
なるほど、仲間想いなんだね。
「よし! みんな食べていいよ!」
キューーーイッ!
ワオーン!
ニャオーン!
森の動物たちとオコジョくんの喜びの声が森に響いた。
◇
きっかり1時間後。
「あんたらどんだけ食うのよ……」
私は延々と料理を作り続けていた。
最初は手が込んだ料理を作っていたが、動物たちの胃袋は底なしなんじゃないかと思いはじめた頃から、質から量へと切り替えた。
「アイカ、これ蜂蜜と一緒に熊さんのとこに持っていって。その次はこっちのくるみパンをリスちゃんたちのとこね」
〈りょーかいです!〉
アイカは「マスターは優しいのです!」と自慢げな表情をしながら活き活きと配膳をしていた。
それから更に1時間後。
ようやく彼らの食欲は満たされ、ゆったりとした時が流れていた。
「幸せ……」
私はそう言いながらゆっくりとお茶を飲んでいた。
2時間に渡る餌付けの効果は抜群で、私はモフモフにまみれていた。
膝には猫とレッサーパンダをあわせたような小型の動物が乗っており、右には熊がいて、左腕にはリスが3匹くっついている。ちょっとだけ重いけど気にしない。
アイカは私の頭の上に落ち着いたらしい。私の頭に生える角にもたれかかっている。
そして私が背中を預けているのは、オコジョくんである。
そう。私はいまモフモフ天国にいるのだ。
(こんなに心穏やかになったのはいつぶりだろうか)
私は以前行った猫カフェを思い出す。
あのときも良かったが、モフモフ度で言ったら断然いまの方が勝利だろう。
なにせ前後左右がモフモフなのだ。
「このままここに住んじゃおうかな」
〈え! マスターダメです! ミッションがあるんですから!〉
「ぶー! だってどっち行ったら良いのか分からないじゃん。近くの村すらどこにあるか知らないし」
私のそんな言葉に、頭を地面に寝かせていたオコジョくんが顔をあげた。
キュイキュッキューッ!
だから、何言ってるか分からないんだって。
〈マスターあちらの方角に真っすぐ行った所に村があるそうです。しかもご飯のお礼に案内すると言ってきています〉
「って分かるんかーい!!!」
こうしてアイカの通訳により、オコジョくんと共に近くの村まで向かうことになったのだった。
次回、女神。
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拙作をお読み頂きありがとうございました!
もし、もっとアイテムボックスのことを聞いてみたいというご要望あれば教えてください。
ちょっと端折りすぎな気がしておりまして。
(こんなやり取りが可能なのもWeb小説の醍醐味ですね。ご意見があればご遠慮無くおっしゃってください!)
そして評価&ブクマありがとうございます!!!
なんと!ついに100PT突破しました!
こんなに多くの評価とブクマを頂けるなんて、遥香じゃありませんが、嬉しすぎて小躍りでもしてしまいそうです(笑)
今回はそんな、お礼の気持ちも込めて、ちょっと多めの2800字です!
もし評価がまだで、つけてもいいよって方がいらっしゃったら
ぜひ小説評価を☆☆☆☆☆で聞かせてください! 執筆の励みになります!