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第八層 その2 ~魔王種の能力~

 第八層を進んでいると、リオの『悪意感知』が敵の気配を捉える。


「この先、敵がいるぞ。この先の左だ」

〈むむ。お宝の匂いもプンプンしますね〉


 リオのは本当だろうけど、アイカは適当に雰囲気で言っているだけだろう。

 まあ、私としては美味しい食材をドロップするなら大歓迎なんだけど。キングバッファローのステーキを思い出し、ジュルリとよだれがたれそうになる。


 おっといけない、アイカじゃないんだから良い年してよだれをこぼすなんてダメダメ。

 私が口元を抑えているとリオが警戒の声を上げる。


「気づかれた。来るぞ! こいつも俺が相手をする」


 警戒と言いつつもリオはまた戦爪の試し切りをしたいらしく、嬉々とした様子で私たちの前に出る。


 そんなリオの敵意を感じたのか、曲がり角の先から白い何かがゆっくりと顔を覗かせる。

 それは細長くウネウネしていて白く半透明な、触手だった。それらの触手を束ねた先にはゼラチン質の本体がある。


「クラゲ?」


 それは巨大クラゲだった。私たちの身長よりも大きな体躯を持つそれは、触手を鞭のようにしならせ素早い一撃を、一番前にいたリオに叩きつけてくる。リオは持ち前の反射神経で、横に飛んで難なく回避。


「お前もこの戦爪の錆にしてやろう」


 誰が教えたのか、リオが攻撃を避けながらどこかの噛ませ犬っぽいセリフを吐いている。調子に乗った今の状態でそれを言うと、完全にフラグにしか聞こえない。

 そして、回収してほしくないフラグほど早く回収されるのが世の常である。


 クラゲの触手による素早い鞭のような連撃を、獣人特有の直感と悪意感知で瞬時に見切り、躊躇なく身を翻して全ての攻撃を躱しきるリオは流石だった。

 しかし──避けた先に待ち構えていたのは、白い〝囮の〟触手ではなく〝本命の〟透明な触手だった。目を凝らせば光の加減で見えなくも無いが、透き通ったそれを初手で見破るのは不可能だろう。

 リオはその透明な触手により文字通り足元をすくわれたのである。


「痛っ! なんだ!?」


 触手が絡みついた足に鋭い痛みが走り、リオは思わず声を上げる。彼は動転しつつも咄嗟にその触手を戦爪で切り落とし足から引き剥がすが、未だ痛みが残るその足は思うように動かなくなっていた。

 クラゲの触手には毒があったからである。


 クラゲが切られた触手を慌てて引っ込めている間に、私たちはリオの元へと駆け寄る。


「大丈夫?」

「右足がビリビリする」

〈リオさん、見せてください〉


 攻撃を受けた箇所にはしびれと痛みが残っている様子。

 アイカが患部をスキルにより『解析』する。


〈麻痺性の毒です。状態異常攻撃をしてくる敵は初めてですね、この敵はしびれクラゲと呼びましょう〉


 アイカは、このままではリオは戦えないと冷静に判断し、すぐに治療を行うことにした。


〈マスター、申し訳ありませんがリオさんを治療している間、援護をお願いしてよろしいでしょうか?〉

「おっけー! まかせて!」


 アイカがリオの足に手を添えて状態異常を治癒する魔法をかける。


 ──キュアー・パラライズ・ポイズン


 魔法を発動させると、アイカの両手にほのかな光が生まれる。その両手をリオの足に当てると、光は徐々に広がりリオの足を包み込む。心地よい暖かさを伴う光がリオの足全体に行き渡ると、クラゲの毒の中和が始まる。


 アイカに治療されているリオの様子を見ながら思案する。

 白い触手の攻撃は手数は多いけどリオが油断しちゃうくらいには余裕そうだ。でも、透明な触手の毒攻撃にだけは気をつけたほうが良いね。なにより痛そうだし、絶対当たりたくない。

 そんな事を頭の中で考えつつ、女神装備の力を開放。


 無数にある触手の乱舞を、女神装備の力で軽くなった身を翻して躱し、避けきれないものはミスリルの剣でいなしていく。

 やはり透き通っている触手にだけ注意を払っておけば問題ない。

 気になることがあるとすれば、切り落とした先からは新しい触手がゆっくりと生えようとしていたことくらい。


「なんか再生しているっぽいけど、攻撃自体は全然大したことないじゃん」


 動きの早いリオが攻撃を受ける姿を見て、いつも以上に警戒していたけど、来ると分かっていれば攻撃を捌き切ることは容易だった。

 そう──来ると分かっていれば。


「ハル! 避けろ!」


 地面に座ってアイカの治療を受けていたリオが叫ぶ。


「え?」

〈マスター!!!〉


 クラゲは唐突に触手を〝飛ばして〟きたのである。

 再生するのを良いことに自らの手足である触手が切り離される。投擲武器ボーラの要領でくるくると回転しながら飛んでくるそれは、白い触手の乱舞の間をすり抜け、風切り音を上げながらこちらに向かってくる。


「きゃっ!」


 私は完全に意表を突かれた形となり、その動揺が私の動きを鈍らせる。

 だが、遥香も伊達にここまでの階層でトリッキーなモンスターたちと戦ってきてはいない。


 即座に動揺から立ち直り、女神装備の力を更に開放し身体能力を超人のそれへと引き上げ──


「────ハッ!」


 加速させた斬撃により、飛来する透明な触手を白い触手もろともに切り払う。真っ二つにされたそれは、他の切り落とされた触手と動揺に赤い光となって霧散する。


 ふう……。


 これで一安心と内心で吐息をこぼしつつ、女神装備の力を抑える。長時間の開放状態は後々ひどい筋肉痛に見舞われる為、避けなければならないのである。

 そうして遥香がほっと胸をなでおろそうとした瞬間──


〈マスター! まだです!〉


 アイカの叫び声の直後、透明な触手が眼前に迫っていた。しびれクラゲが飛ばしてきた触手は一本では無かったのである。

 油断した所に飛んできたそれを、遥香は横に飛んで咄嗟に回避しようとするが、


「やばっ!」


 左足に違和感を感じ、見ると透明な触手が私の太ももに絡みついていた。


 遥香は注射される直前のような心境で、やがてくるはずの毒による痛みに身構える。そして──

 ──いっっっっったーーーーーくない?


「あれ?」


 全然ビリビリこない。

 全然痛くもない。

 なんで?


 疑問に思っている間にもクラゲの猛攻は継続。呆けている私の身体に触手による鞭攻撃が何度も命中するが、これも何故か痛くない。というかダメージも全く無い。


 しかし、触手による鞭で何度も叩かれている姿は、旗から見るととーっても痛そうだ。特に遥香を誰よりも大切に想うアイカフィルターを通すと、まるでバトル漫画の連続パンチのように、それはもうボッコボコにされているようにしか見えない。


〈マ、マスター! リオさんマスターがっ!〉

「くそっ! お前なんで避けないんだ!?」


 叫ぶアイカの治療するためにリオの足に添えている手が、わなわなと震わせる。

 そんなアイカに治療されている最中で動けないリオも、悔しがるように声を上げる。

 いつも遥香には無愛想なシェリオだが、内心では彼女のことを認めているが故の叫びだった。あの程度の攻撃なら彼女は絶対に避けられるはずである。


〈まさか全身が麻痺で!? いま助けますっ!!!〉


 そうしてアイカがリオの治療を途中で放り出して、己の主人を助けに行こうとする直前──


「大丈夫。全然痛くないし……」


 ビシンッ!バチンッ!と攻撃が当たる度になる音と共に遥香の平然とした声が二人の耳に届く。

 〝ある変化〟を遂げた遥香にとって、その打撃は彼女を傷つけられる程のものではなかったのである。

 故に、本人の主観では──


 ──こんにゃく製のチャンバラで、むにょんむにょんされているみたい。


 私が痛くないと言っているにも関わらず、心配性のアイカが何度も確認してくる。


〈マ、マスター、痛くないのですか?〉

「うん」

〈……本当に?〉

「大丈夫」

〈……本当の本当ですか?〉

「本当の本当に大丈夫」

〈……本当の本当の本当ですか?〉

「本当の本当の本当だよ。大丈夫だって」


 ちょっとしつこい。

 私は腕を前に突き出して「ほら平気でしょ?」と、あえて攻撃を受けてみせるとアイカが引きつった笑顔を返してくる。


〈あはは……それなら良かったです……〉


 アイカは私にも聞こえるくらい大きな溜め息を吐いてから気持ちを切り替え、


〈まったくもう、リオさんってば大げさなんですから〉


 リオが大げさに痛がっただけと結論づけた。哀れリオ。

 そして、可愛そうなリオの治療を終えて、私の太ももに絡みついたままの触手を剥がそうと近寄ってくる。

 その触手に触れた瞬間──


〈痛たたたたたたたたたっ!!!〉


 アイカの手に電撃を受けたような鋭い痛みが走る。それは、すっごく痛かったらしくアイカ驚いてひっくり返る。

 更に、そこへ触手による追撃。


〈きゃっ!〉


 アイカのピンポン玉のように軽い身体はいとも簡単にふっ飛ばされる。


「妖精様!」


 アイカの魔法で治療を終えたリオが慌てて駆け寄ったところで、ちょうど飛んできたアイカをキャッチ。


 ナイスキャッチ、リオ!

 私が心のなかでリオに称賛を送っていると、アイカはリオの手のひらの中でぐるぐると目を回している。しかし、毒による右手の痛みで即座に復帰。

 リオの手のひらから降りて、右手の治癒を開始する。


〈痛たた……ひどい目にあいました……〉


 肩を落としながらズキズキと痛む右手に癒しの光を灯す。そして、治療をしながら私に尋ねてくる。


〈マスターは、なぜ平気なのですか?〉

「うーん、なんでだろう……?」


 アイカの問いかけを受けて、思考を巡らせる。

 クラゲが私には手加減してくれているのか、リオだけではなくアイカも大げさなだけか。それから……他にも考えられる可能性はいくつかある。

 そのうちの一つが──


「肉体強化Lv1の効果……?」

能力ギフト『肉体強化』……〉


 アイカもその可能性に至ったらしく私と同じタイミングで声を上げる。


 二人が同時に口にした『肉体強化Lv1』。

 それはレベルアップによって手に入れた能力ギフトである。能力の説明は無かったが、能力名から予想すると攻撃に対する耐性が上がっていてもおかしくはない。

 というか思い当たる理由は本当にそれくらいだった。どこかの格闘家に弟子入りして地獄の試練を乗り越えた訳でもないし、痛みを吹き飛ばすようなにがーい薬によるドーピングをした訳でもないし。

 根拠の薄い消去法で結論づけただけなので、語尾が疑問形になったのは許してほしい。


〈肉体強化……確かに、以前より大幅にタフになられているようですので、能力ギフトによるものと考えても良いかも知れませんね。とりあえず話の続きは、このクラゲを処分してからにしましょう〉


 アイカは一度話を打ち切り、遥香の斜め後方に位置取りしてから両手を掲げ、魔力を練り上げる。そして氷による槍を空中に複数生成し──


 ──カスタムマジック──マルチプル・アイシクル・ランス


 天井からのアクアブルーの光を受けて、水晶のような輝きを放つ氷槍が煌めきをその場に置き去りにして、未だ遥香を攻撃し続けているクラゲに殺到する。

 アイカが仕返しの意思を込めて放ったそれにより、クラゲはめった刺しにされて討伐。明らかにオーバーキルな氷槍の乱舞だった。

 クラゲの触手がそんなに痛かったのか、それとも私をタコ殴りにしたのが許せなかったのか、はたまた私に格好悪いところを見せてしまったことへの腹いせか。


 私がそんな思考にふけりながら、クラゲが消滅した後の壁に刺さったいくつもの氷槍を眺めつつ、太腿に違和感をもたらす触手を取り除いていると、アイカが念話を送ってくる。


〈マスター聞こえますか?〉


 突然の脳内音声に驚きつつも声には出さずに、念話で返事を返す。


「うん、どうしたの?」

〈私なりに考察してみたのですが……マスターのお身体が頑強になったのはレベルアップにより、魔王種本来のお力が開放されたからだと考えられます〉

「やっぱり。私もそう思う」

〈失礼ながら、マスターのお身体をスキルにより〝解析〟させて頂きましたところ、『魔王種。頭部に角を持ち卓越した身体能力と莫大な魔力を持つ種族』と出てきました。この卓越した身体能力と肉体強化には解釈いかんによっては共通する部分があります。おそらくは、レベルが上がってマスター本来のお力を取り戻されれば、優れた身体能力と莫大な魔力を手に入れられるものと考えます〉

「なるほど……って膨大な魔力!? 私、魔法使えないけど?」

〈ふふふ、膨大な魔力です。つまりマスターは──〉

「成長したら魔法が使えるようになるかも知れないってこと!?」

〈そういうことです。おめでとうございます!〉

「おお! それじゃ頑張ってレベル上げなきゃね!」

〈ですね! 私も全力でサポートします!〉


 まさか、この歳になって自分の成長が楽しみになるとは思わなかった。

 私とアイカがそうして念話で盛り上がっていると、リオが訝しむような視線を向けてくる。


「二人で見つめ合ってどうしたんだ?」

〈いえ、なんでもっ!〉


 慌てて手をふってごまかす私たち。


「ハルはニヤニヤしてて気持ち悪かったぞ」

「え! ひどっ!」


 リオが私のガラスハートをさらっと引っ掻いた後「まあ、ハルがニヤニヤしながらぼーっとしてるのはいつものことか」とつぶやいて納得。どこか釈然としないけど、とりあえずはごまかせたので良しとする。


「まあ、次からクラゲの相手は私がするよ。ちょっと試したいこともあるし……!」


 こうして私は、新しい能力の効果も確かめつつ、ダンジョンの奥へと進んでいくのであった。

次回『第七層 その3 ~キラーオクトパス~』


**************************


読んでくださってありがとうございます!


ようやく魔王種の能力の一端をお見せすることができました!

これからの成長に期待です!



いつも応援して頂きありがとうございます!

皆様からの応援が、執筆の励みになっております!

面白いと思って頂けた方は、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想をお願いします!

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