シェリオの新武器
第七層を攻略した次の日。
私たち三人は素材を売りにヴォレアド武具店へと来ていた。
ちなみに、昨日の帰り際に受付カウンターによってキャベツを納品してある。通常クエストも受けろとギルドマスターから言われているし、こういう事は姿勢が大切なのだ。
さて、例によって武具店に入るなり、リオが大声で店主ヴォレアドを呼ぶ。
「おっちゃん! 居るか?」
私たちも挨拶をしながらリオに続く。
「おじゃましまーす」
〈しまーす〉
相変わらず返事がない。
鼠人族が店番をしているから良いのかも知れないけど、工房に店主がこもっている時の店舗はなかなか不用心だと思う。いまは何故かその鼠人族すら見当たらない。
「おい! 居ないのか?」
リオがカウンターから身を乗り出して、声を張り上げる。
ようやく店主が気づいたらしく、犀人族らしい低く太い声が店の奥から返ってくる。
「リオか?」
「ああ」
「ちょうど良かった! 奥に入ってきてくれ!」
ヴォレアドはリオに用があるらしいので、店の奥の工房へと向かう。私は店舗の方で武器でも眺めて待っていようかと思ったが、リオが私とアイカを手招きして呼んでいたので後ろから着いていくことにする。
店の奥は、武器や防具を作るための工房になっていた。
鍛冶用の炉から出る熱で工房全体がサウナのような暑さになっている。しかし、不快さは全く感じない。それどころか心地良い熱気だ。
なぜなら、武器(主に刀)が大好きな私にとって魅力的過ぎる空間だったからである。金属を高温に熱するための炉や、それを剣に加工するための金床と槌など、私の興味の対象が所狭しと置かれている。
正に夢の空間。
私が「おおー!」とか「ほぉー!」とか言いながら忙しなく工房の中を見ていると、リオが冷めた眼差しを向けてくる。
「なあ。こいつ、つまみ出したほうが良いか?」
「がっはっは! 誰かと思ったら鍛冶に詳しい嬢ちゃんじゃねえか。リオも言うようになったもんだ! 見る分には構わねえさ……ただし、ぜってえ触んなよ?」
犀人族の大柄で無骨な見た目と違って気の良い店主だが、最後の一言だけはドスが効いていた。
「はい……気をつけます!」
「それで、おっちゃん。もしかしてこれが例の武器か?」
「ああ。お前が持ってきたミスリル鉱石で作ったんだ」
リオの目線の先、作業台の上には金属製の篭手のような物と、六本の刃が置かれている。
それを見た瞬間、私はピンときた。
……これ絶対アイカが設計したやつだ。
アイカがこっそり夜に羊皮紙になにか書いていたことと、リオにこっそり渡していたことを思い出す。ヴォレアドも居るしヘタな事は言わないけど、アイカが設計したものをこの店で作ってもらったに違いない。
「もうできたのか。早いな」
リオが関心しながら篭手を手に取り、ヴォレアドと会話を続ける。
「中々おもしれえもんだったからついな。まあでも、さっきようやく形になったところで、微調整はこれからなんだがな」
「そうか。だが昨日頼んだばかりだぞ?」
……頼んだって、やっぱり。
「そりゃあ、この設計図が良かったからな! 加工が多いように見えるが、これとこれは形が揃えてあっからまとめて作業できんだよ。あとはこっちも複雑そうに見えるが一つ一つは単純でそれを組み合わせればいいだけなんだ。よく考えられているだろ?」
ヴォレアドが若干興奮した様子で設計図を褒めると、リオもうなずきを返す。
「そうだ。先生はすごいだろう!?」
「ああ、先生によろしく伝えてくれ!」
ヴォレアドとリオが、先生という人物を褒めて意気投合しているけど十中八九アイカのことだろう。リオの尻尾がアイカの事を話すときと同じ速度でブンブン振られているのがその証拠だ。
……その先生って、いま二人の目の前に居るんだけどね。
先生ことアイカは、二人の目の前で得意げにふっふっふー!と胸を張ってふんぞり返っている。もちろん、透明化しているのでヴォレアドには見えていないし、声も聞こえない。
まあアイカが嬉しそうなのは何より。
「さて、それじゃ試しに付けてみるか?」
「ああ」
ヴォレアドがバラされていた部品を手早く組み上げ、店の裏庭へと向かう。
その途中で、すぴーとかわいい寝息が聞こえる。見ると、すやすやと眠る鼠人族のチュメール一家の姿がチラリと見えた。どうやら、ミスリルの加工で魔力を使い果たして、いまは疲れ果てて寝ているらしい。
店番が誰も居なかったことにも納得。
めくれている布団をこっそり直してから、リオの後を追って裏庭へと向かう。
◇
裏庭に来ると、そこには巻藁で作られたカカシと的が設置されていた。
「これを腕にはめてみろ」
「こうか?」
リオが篭手に腕を通し、ヴォレアドが固定用のベルトを調整する。元々リオ専用に設計されている武器なので調整はすぐに完了する。
「よし。それでこの金具を引くと……」
チャキーンッ!
リオが手にはめている篭手から、三本の刃が勢いよく飛び出す。手の甲のあたりからまっすぐに突き出すその刃は、ミスリル鉱特有の青白い輝きを放っている。
「おお! 爪だ!」
それはドラゴンズリング──私がハマっていたオンラインゲーム──に出てくる格闘家用の両手武器〝戦爪〟とそっくりだった。ゲーム内では非常に人気が高く、ハリウッド映画に出てくる超人狼男の動きとそっくりなモーションのスキルと〝戦爪〟を組み合わせて、自作映画まで作っている暇じ──職人も居たくらいである。
刃が先端に取り付けられた篭手のような形状で、装備すると手の甲から短剣くらいの長さの爪が三本生えたようになる。ゲームではその爪で素早い刺突や斬撃を繰り出していたが、刃を収納する機構はなかった。もしかしたら、アイカが実用性を考慮して組み込んだのかもしれない。
私がゲームで何度も見てきた戦爪を思い出していると、ヴォレアドが驚いた表情で迫ってくる。
「嬢ちゃん知ってたのか? もしかして先生ってぇのは嬢ちゃんなのか!?」
見覚えがあった戦爪に思わず反応してしまった私に、ヴォレアドが食い気味に尋ねてくる。ちょっと怖い。ここはしっかり否定しておかないと。
「あ、いや私は違いますよ!」
……先生は私じゃなくてアイカです!
と続けたいところだけど、それは心の中だけに留めておく。
私とヴォレアドを尻目に、リオは自分専用の新武器に夢中な様子。このあたりは男の子らしい反応である。
「これは……思っていたよりもかなり良い感じだ。しっくり来るぞ」
なんて言いながらリオは何度か素振りをし、ベルトの締め具合や刃の出し入れの機構の部分など細かな調整をしている。そんなリオの傍らで、アイカは何処からか虫眼鏡を取り出し、爪の刀身に彫り込まれている模様を入念に確認している。アイカのことなので、あの模様にも何か仕掛けがあるのだろう。
それにしてもリオの立ち姿は中々に様になっている。獣人族特有の野生の直感なのか、それともリオ自身のセンスなのか分からないが、低い姿勢で両手に戦爪を構える姿は堂に入ったものに感じる。
……リオのくせにかっこいいじゃん。
私にとっては年下すぎるけど、ローラあたりが見たらキュンときちゃうかも知れない。
〈リオさん、確認終わりました。試しにあのカカシを切ってみてください〉
「おっちゃん、あれ切ってみてもいいか?」
「ああ、元々そのつもりだ」
ヴォレアドの返事に軽く頷いたリオは、姿勢をぐっと下げてから一気に踏み込む。
そして、カカシを敵に見立てて肉薄し、踏み込みの勢いを乗せた刺突を左右で二連撃。巻藁に六本の爪が深々と刺さる。
すぐに引き抜いて、肉薄した状態で何度も刺突の連撃を加える。
最後に腕を交差させ、両手の戦爪で巻藁を挟み込み、腕を外に広げる事によって斬撃を繰り出す。
それは単純に刃物で斬りつけるというより、二つの刃で対象を切り離す鋏の動きに近かった。巻藁はちょうど三つの鋏で同時に切られたようになり、バラバラと藁を散らしながら地面へと転がる。
思った以上に殺傷力が高そうな武器だった。
アイカに良いところを見せたかったのか、自分専用の新武器が嬉しかったのか、はたまた獣人族の本能なのかは分からないが、調子に乗ったリオはカカシをめった刺しにしていた。そのリオにスパスパと切られた六つの巻藁の残骸が地面に散らばっている。
……完全にオーバーキルだよ!
内心でそんなツッコミを入れる私に対して、ヴォレアドとリオ、それからアイカは「今のは良い動きだった!」「これは気持ちいいな!」〈リオさん良い感じです!〉と歓声を上げている。これでまだアイカが仕込んでいる仕掛けがあるんだから──
──もしかして、すっごく危ない武器を作っちゃったんじゃなかろうか。
こうしてリオは、新しい武器を手に入れた!
次回『第八層 その1 ~攻略~』
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読んでくださってありがとうございます!
レベルアップした遥香とアイカに続き、リオは装備面で強化されました!
次回は第八層です!
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