決心
私たちはダンジョンから出てギルドの素材買取カウンターでアイテムの売却をしていた。
ここでは価格を抑える代わりに、面倒な仕分けや値段交渉などを省いて買い取ってもらえる。面倒くさがりな私としてはとても助かるシステムである。
そう思いつつ、大きなリュックから次々とアイテムを取り出し、カウンターに並べていく。
なぜリュックなのか?
それは、私の魔法袋──ということにしているアイテムボックス──を使うと目立つからというリオの意見によって、大型のリュックに素材を詰め込んで持ってきていたからである。むしろ、リュックが大きすぎて目立っちゃったんだけど、それは後の祭りである。
こういう時は、どうやったって結局目立っちゃうんだよ。
ちなみに、これでも全部のアイテムを売っている訳では無い。魔石と一部の高級食材はアイカの、ミスリル鉱石はリオの、ウィッチストゥールの杖など魔法系のアイテムは私の、とそれぞれの希望でこれらのアイテムは手元に残している。もちろんこの魔法系のアイテムはシルフィーン魔道具店に持っていくつもりである。
結局残った食材や革、武器なんかをカウンターに並べていくことになるのだが、それだけでもかなりの量になるのでこれだけ大きなリュックを抱えている訳である。
こんなにたくさん売るものがあるんだから驚いちゃうよね。
「はあ……キャベツ47個、キングバッファローのモモ肉が17個、角が4つと、それからダイオウリクイカの……随分と多いねえ……」
「おい、まだあるぞ。短剣と長剣が一本だ……」
「それとこれは……キノコですか?」
買取カウンターのおばちゃんとおじちゃん、それから見習いの女の子がうんざりしながら査定をしている。この人達は各職人ギルドから派遣されてこの冒険者ギルドに常駐しているんだって。
そうして買取査定をしてもらっていると、私たち──というよりリオ──の姿に気づいて少女がトテトテ歩いてきた。ギルドの制服に、頭頂部には狐耳、スカートから飛び出す艶やかな毛並みの尻尾を持つ狐獣人の女の子だった。アイカが言うにはこの娘はローラという名前でリオとはあまり仲が良くないらしい。
「リ、リオさんもしかしてこれハルさんと一緒に!?
ってあれ、このキノコって……」
「ふん……」
驚いて目を見開いているローラの言葉に鼻息を一つ返すリオ。
「見れば分かるだろ」みたいな顔してないで、答えてあげなよ。可愛そうじゃん。と内心で思いつつも口には出さない。
なんでそんなに冷たくするのか分からずに、気まずい空気を感じて私が代わりに答える。
「えーっと私はハルといいます。今日はシェリオさんに手伝ってもらって、ダンジョン攻略に行ってきたんです」
「え────攻略ですか!?!?」
あ!!! しまった!
"攻略"って言っちゃった!
「やばっ!」と思ってリオを見ると、「あちゃー」という顔をしてこめかみを押さえている。
そんな私たちの会話に聞き耳を立てていたのか、ギルド内に静寂が波紋のように広がる。
ああ、この空気苦手なやつだ。
周囲がヒソヒソと話す声が聞こえてくる。
女神装備の知覚強化はもう切っているんだけど、こういう聞きたくない事ってなんでだか聞こえてきちゃうんだよね。
「いま攻略と言わなかったか?」
「バカ言ってんじゃねえよ」
「昨日はまともに剣も振れなかったモヤシ女が攻略なんて無理に決まってんだろ」
〈むっ! あの人たち、マスターをバカに……!〉
先程まで達成感と心地よい疲労感で眠そうにウトウトしていたアイカがみるみる不機嫌になる。
(ちょ、アイカ押さえて!)
私は念話でアイカを静止する。冒険者に飛びかかりそうになっていたけど、透明化していたおかげで誰にも気づかれなくて良かったよ。
とりあえずアイカを自分の肩に座らせて、落ち着かせる。しかし周囲の声は止まらず、その矛先はリオへと向いた。
「モヤシ女と一緒にいんのは捨て犬のリオじゃねえか。トラブルばっかり起こして誰ともパーティー組めねぇワンちゃんが可愛そうだから、私と一緒に攻略しましょうってか? ガッハッハ!」
バンッ!!!
リオがキレた。カウンターに大きなリュックを叩きつけるように置く。
びっくりした。
アイカなんて私の肩から転げ落ちて、プルプル震えながら私の背中に隠れちゃってるよ。
「ローラ、鑑定分預かっといてくれ」
「え……?」
低く響く声でそう言ったリオの尻尾は大きく膨らんでいて、毛も逆だっているように見える。
リオがすっごく怒ってる!
「ハル」
「は、はいっ!」
「お前の荷物も一緒に預けてさっさと行くぞ」
「あ、うん」
私は慌ててその場にリュックを置いて、そそくさとリオについていく。そのときに、ちらっと後を振り返るとローラが呆気にとられた顔で突っ立っていた。前を大股で歩くリオは、自分たちを笑った人たちを一睨みしてギルドの大扉から外へと出た。
〈マスター、リオさんすっごく怒ってました……!〉
(うん、怖かったね)
◇
ギルドを出て正面にある噴水広場でようやくリオに追いついた。
夕暮れの中、人はまばらで足早に家路を急ぐ者が多い。
そんな中、夕焼けをバックにリオが宣言する。
「あいつら絶対に見返す!」
そう言ったリオの目は闘志に燃えていた。
アイカも〈私は最初から決めていますよ〉と言いたげな顔で、リオに続く。
〈もちろんです! マスターの事を悪く言ったやつらの名前は覚えました!〉
リオとアイカにつられて私も言葉を続ける。
「わ、私もギャフンと言わせる!」
ゴーンゴーンゴーンゴーンゴーン
私たちが決心した直後、閉門の鐘がなった。
「閉門の鐘か、それじゃ俺はそろそろ……」
ぐうううぅ~~~!
アイカのお腹が盛大に鳴った。
〈あ、ごめんなさい。腹ペコで……〉
「構わない」
「あはは、まあご飯にしよっか!
今日はいっぱい食べるよ!!!」
〈やったー! ご飯ですー!〉
私の言葉に、アイカが嬉しそうに空中でぴょんぴょん飛び跳ねながら答えるが、続くリオの言葉で絶句する。
「──────お前、金ないだろ?」
〈え……?〉
「え?」
見つめ合う私とアイカ。
そして、恐る恐る腰のポーチに手を伸ばして小銭袋を握ると、硬貨が入っていない時の悲しい柔らかさが返ってくる。
やっぱり無いっ! 武器屋で使っちゃったんだよ! ある訳ないじゃん! っていうかむしろリオへの借金があるよ!
〈マスタァァアアア! あんまりですーーー!!!〉
「はあ、仕方ない。ついて行ってやるよ
……その、今日の稼ぎは俺のせいで受け取れなかったしな」
〈やったー!〉
「わーい! ふふふー、リオってば素直じゃないんだからー!」
「む、お前の分は払ってやらんぞ?」
「えええーーー! そんな事言わずに!!!」
〈マスター、安心してください。その時は私の分をスプーンいっぱい位わけてあげますから〉
「少なっ!!!」
そんな他愛ないやりとりをしながら、私たちは歩き出す。
もちろん向かうのは──
「月夜のペガサス亭にレッツゴー!」
こうして、はじめての攻略を成功させた私たち3人は夕食へと向かうのであった。
次回『過去とこれから』
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読んでくださってありがとうございます!
書くのに夢中になっていて気づかなかったのですが……
15万字突破しました!!!
ここまで続けられたのも皆様のおかげです! 本当にありがとうございます!
これからも頑張って書いていくので、応援よろしくお願いします!




