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第六層の悪魔 その3 ~決着~

 身長3メートル超まで巨大化した階層主"キングポルチーニ"と私たちは対峙していた。


 あと一歩で倒せるというところまで追い詰めたのだが、階層主"キングポルチーニ"は自分の配下を捕食して傷を回復し自己強化までしてしまった。その手にはどこからか現れた2本のグレートソードを持っている。

 足はアイカの魔法の氷で固められてはいるものの、階層主"キングポルチーニ"の体格の変化によりヒビが入っていた。


「アイカ、まずいんじゃない!? 拘束が解けそうだよ!?」

〈いえ、あの程度なら問題ありません。修復可能です〉


 アイカはそう言いつつ足元の氷に手を触れる。すると、氷に入っていたヒビが少しずつ塞がりはじめた。

 それを見た階層主"キングポルチーニ"は氷から足を引き抜こうとしたけど、アイカが氷を修復するほうが早かった。


「よし、これで一安心だね」


 そう思って胸を撫で下ろした所だったのだが……


〈マスター、何かしてきます!〉


 階層主"キングポルチーニ"は邪悪に嗤い、2本のグレートソードを足元の氷へと突き立て──


「ビャルガァァァアアアアア!!!」


 ──思わず耳を押さえたくなるような咆哮をあげる。


 それと同時にアイカが維持していたはずの氷が砕かれる。突き立てた大剣を強引に押し込み、力だけでアイカの魔法を打ち破ったのである。

 当然、拘束されていた階層主"キングポルチーニ"の配下──ソルジャーたちにも再び自由が戻る。


「うそっ!?」

「っく、先にこいつらを始末しておけば」


 奥歯を噛みしめるように睨むリオに対し、階層主"キングポルチーニ"は嘲笑する。

 そして、開放されたソルジャーが一斉に行動を開始した。


 残る敵は階層主"キングポルチーニ"とソードマンストゥール2体、アーチャーストゥール3体、ウィッチストゥール4体。


〈マスター、リオさん、きます!!!〉


 こうして、階層主"キングポルチーニ"との戦いの第2ラウンドが始まったのである。


 ◇


 強化された階層主"キングポルチーニ"は両腕に持った剣で重撃の乱舞を繰り出す。その攻撃を避けること自体はそれほど難しくないが、斬撃が掠った壁には深々と傷跡が残っていることから威力の高さを伺える。

 あんなの掠っただけで大変なことになっちゃうよ!

 しかも、何か恨みでもあるのか私のことばっかり集中して狙ってくるし。


 私たちは一度距離をとって、息を整える。


「ねえ! なんかめっちゃ私のこと狙ってくるんだけど!? 一体何なの!?」

「自慢の障壁を壊されたことを恨んでいるんじゃないか?」

「あー、そういう恨みかあ。しつこい人って嫌いなんだけど」

「じゃあ、このまま一度撤退するか?」

「そんなのダメだよ!」

〈はい。マスターの言う通りです。お宝ドロップをみすみす……あ、ごにょごにょ……〉


 アイカが階層主からドロップするはずのお宝がどうのと言っているが尻すぼみになっていてよく聞き取れない。


〈コホン! 

 マスターの仰る通り、ここで撤退しても消耗戦になるだけです。仮に逃げた場合、安全地帯へと向かう道は階層主に先回りされて押さえられているでしょう。今回も待ち伏せされていたのですから〉


 あれ? 私は面倒くさいからって意味でダメと答えたつもりだったんだけど、アイカが「さすが思慮深いです!」と聞き慣れない言葉でよいしょしてくるよ。

 でも確かにアイカの言う通り、階層主は私たち冒険者が階段を使わないと上階に上がれないということを理解していて、そこを待ち伏せしていた感じはする。今いる位置関係も階層主のほうが階段側に居るから、私たちにとっては不利だった。アイカの分析だと、階層主は配下を吸収して今よりもっと強くなるかもしれないらしい。そうなれば階層主を倒すのに時間がかかってなかなか地上に戻れずに消耗戦になるかもしれない。その場合、食料や補給品もアイテムボックスに大量にあるけど、いつかは無くなる。

 っていうか私としてはそんな補給品とかは、割とどうでもいいんだけどずっと、こんな暗い穴の中に何日もいるなんて耐えられない! 


「やっぱりこいつを倒して外に出るしか無いよ!」

「じゃあ作戦はあるのか?」


 ギクッ!


 リオが、考えを読んでいるんじゃないかって思ってしまうほど的確な質問をしてくる。


 そんなのある訳ないじゃん!


 っと思ったけど一つあった。

 それは到底作戦とは思えないようなもの。


「──全力を出すだけだよ!!!」


 それを聞いたリオはため息をつく。


「強引だな……」


 しかし、そう言った口元は笑っていた。

 獣人族本来の闘争本能がリオにそうさせているのである。


〈ふふふ、私はどこまでもマスターについていきます!〉


 こうして、強化された階層主"キングポルチーニ"に勝つために、私たちも全力を出そうと決めたのであった。




 私たちが距離をとったので、階層主"キングポルチーニ"も配下であるソルジャーを集め何やら怪しげな儀式を始めていた。こちらもアイカが補助魔法を手早く掛け直す。


 ただし──

 ──こちらは先程とは違って本気である。

 先にかけるのは防御系。


 ──プロテクション

 ──アロー・シールド

 ──クリスタル・タリスマン

 ・

 ・

 ・


 アイカが連続で複数の防御魔法を発動させると、私たちを守るべく透明な薄いバリアが生じ、身代わりとなる複数の水晶の欠片が周囲に浮かぶ。

 そうして防御魔法をかけ終えた後、アイカは注意事項を手短に話す。


〈これからかける強化魔法は非常に強力ですが、身体への負荷が大きいので短時間で決める必要があります。

 私が魔法をかけたら一気に決めてくださいね!〉

「ああ」

「まかせて」


 と返事をしてはみたけど、私はアイカの強化魔法をかけてもらう訳ではなく、女神装備の力を発動させるつもりである。ただ、アイカのジェスチャと目線の動きからすると、たぶんこの女神装備の効果も使いすぎると強化魔法と同じように身体に影響が出てくるかも知れないってことだと思う。

 そう判断して、一応私もリオと一緒に頷いておくと、アイカも頷きを返してくれた。


〈では、いきますよっ!!!〉


 ──カスタムマジック──フィジカル・アクセラレーション・マキシマム

 ──カスタムマジック──メンタル・アクセラレーション・マキシマム


 私も女神装備の能力を段階的に開放していく。


 ──思考加速

 ──身体加速

 ──身体強化

 ──耐久力強化

 ──知覚強化


「よし! 行くよ!」

「ああ!」

「アイカはソルジャーをもう一度足止めして!」

〈おまかせください!!!〉


 加速された世界。

 そう比喩するのが一番しっくりくる程に、私たちの体感時間は思考加速によって大きく引き伸ばされている。

 これから、迷宮ダンジョンの天井に水滴が溜まり、地面に落ちるまでの僅かな時間で、事態は決着を迎えることとなる。


 ◇


 アイカの強化魔法の付与が完了すると同時、私とリオは風よりも早く駆け出していた。敵も怪しげな儀式が完了したようで、私たちを正面から待ち構えている。


 私は走りながら思う。

 さっきまでとは比べ物にならないくらい身体が軽い! 足もびっくりするくらい早い!

 思考加速の影響もあり、迷宮ダンジョンの天井から落ちる水滴もスローモーションに見えた。


 突っ込んでいく私たちに遅れること無く、アイカが敵を足止めする。


 ──カスタムマジック──マルチプル・ソーンバインド


 アイカが魔法を発動させると、ソルジャーたちの足元から腕くらいの太さの茨が出現し、身体に巻き付いた。それは足元からだけではなく、壁や天井からも伸び腕や首を締め上げる。

 しかし、敵もただ捕まる訳もない。ソルジャーも強化されていたようで、力任せに茨を引き剥がしたり剣で断ち切ったりして対処していた。

 でも、それで隙ができれば十分だった。



 リオが圧倒的な速さでその横を駆け抜け、すれ違いざまにソルジャーを切り裂き、次々に赤い光へと変えている。一方私は、階層主"キングポルチーニ"と肉薄していた。


 キンッ!


 階層主"キングポルチーニ"は私の斬撃を──剣で受け止めた。

 驚くべきことに、アイカが風魔法を付与している私の剣でも切れなかった。見ると、その2本のグレートソードは薄っすらと光を帯びている。

 さっき何かしたのかも……。


 そうして私が自分の倍以上もある階層主"キングポルチーニ"と鍔迫り合いをしていると、こちらへ向けて攻撃を繰り出そうと詠唱をしているウィッチストゥールに気づいた。女神装備の知覚強化のおかげで、敵が何かをぶつぶつ詠唱しているのが聞こえたのである。

 でも、ソルジャーたちのそんな攻撃をアイカが許すわけがない。


〈マスターの邪魔はさせません! 貴方の相手は私です!〉


 そう言ったアイカが、ウィッチストゥールめがけて魔法を放つ。


 ──カスタムマジック──マルチプル・アイシクル・ランス


 瞬間、アイカの周囲に生成された何本もの氷の槍が、敵のウィッチストゥールめがけて真っ直ぐに飛翔する。そして、前回は弾かれてしまったが、今やその攻撃を阻む障壁は存在しない。真っ直ぐに飛翔した氷の槍は全てウィッチストゥールに命中し、その体を赤い光へと変える。

 ウィッチストゥールは可愛そうになるほどあっけなく一瞬のうちに全滅した。


 その間に、リオも他のソルジャーを全て倒していた。残りは階層主"キングポルチーニ"だけである。


「さすがアイカとリオ! 私も負けてらんない!!」


 私は抑えていた女神装備の”全て”の力を解放する。


 ──超加速

 ──超強化


 瞬間、世界全てがスローモーションになったような錯覚を覚えた。しかし、世界が遅くなったのではなく私が加速しているのである。

 階層主"キングポルチーニ"の動きも強化前よりは早くなっていたけど、この状態の私の攻撃を受け止められるはずもない。私はアイカが風魔法を付与し極限まで攻撃に特化させたミスリルソードを袈裟懸けに振り下ろした。


 階層主"キングポルチーニ"もとっさに剣で受け止めようとするが、間に合わずに右腕を失い胸部に深々と傷を受け、剣を落として倒れ伏す。

 私は勝利を確信して、超加速を切り、通常の加速状態へと戻した。アイカから使うのはちょっとだけって言われてるし。


「まさか階層主を一刀で切り伏せるとはな。お前、そんなに強かったんだな」

「あはは、アイカのおかげだよ」

〈マスター、まだです! まだ終わってません!〉


 アイカが叫ぶと同時、切り落とされた階層主"キングポルチーニ"の右腕が風船のように膨らみ──


 パンッ!


 ──破裂した。

 その破裂により、まるで小麦粉を撒き散らしたようにもうもうと煙が立ち上り、私たちの視界を塞ぐ。


「わっ!!」

「ゴホッ、一体何が?」

〈くっ!〉


 ──エア・ブラスト


 アイカがとっさに突風を発生させて煙を吹き飛ばしたけど、そこに階層主"キングポルチーニ"の姿は無かった。


「あいつ! 逃げやがったぞ!」


 リオがそう叫んで追いかけようとするが、再び発生した煙があっという間に視界を遮る。


〈むむっ! 小癪なー!〉


 アイカはムッとした顔になるが、頭の中では至って冷静に次の手を考えていた。


〈霧を消せないなら、マスターたちの視覚を回復させれば良いのです!〉


 ──カスタムマジック──インファレッド・ビジョン


 アイカが魔法を唱えた瞬間、私たちの視界が急にクリアになり、霧の中が見通せるようになった。すると、階層主の間抜けな姿が飛び込んでくる。階層主自身も煙の影響で周りが見えないらしく、闇雲に走って壁にぶつかっている所だった。その階層主は変身が溶けたように元の太った姿へと変わっていた。


「見つけた!」


 リオがそう言って追いかけると、階層主"キングポルチーニ"はたるんだ贅肉を揺らしながらがむしゃらに走り始めた。

 その速さはびっくりするほど遅かった。


「逃がすかぁあああ!!!」

「うぉりゃーーー!」


 そんな速さで加速状態のリオと私から逃げきれるはずもなく、あっけなく追いつく。階層主"キングポルチーニ"は再び壁にぶつかって転び、這いつくばって逃げようとしている所だった。


「ピィャィィィイイイイイーーー!!!」


 ──私たちは、この戦いに決着を着けた。


 流石に階層主と言うだけあって、体力が多かったけどここまで来たらほとんど作業のようなものだった。

 その際に、階段の近くにこちらを覗き見る人影があったのだが、私がそれに気づくことはなかった。


「ってあれ? 

 リオ、目が赤く光ってるよ?」

「ん、お前もだぞ?」

〈ごめんなさいマスター。この透視魔法は波長の調整が難しくて……。いま解除しますので〉


 そうしていると階層主"キングポルチーニ"が赤い光になって消えていく。それとともに視界を塞いでいた煙も霧散する。


 ──その後には山のようなドロップアイテムが積み上がっていた。


「ほえ?」


 それを見て驚きすぎて素っ頓狂な声をあげたのは私だったけど、本当に驚いていたのはリオの方だった。


「は、はぁぁあああ!?」


 手に持っていた短剣を地面に落とし、目を見開いて口をあんぐり開けているリオ。

 その目線の先には、キラキラ光る宝石や鉱石、見るからに立派な武具、マジックアイテムっぽいものが、山のように積み上がっている。

 そしてアイカはというと、さっきの戦闘時より速いんじゃないかと思えるような動きでアイテムの山に飛びついて、目をお金マークにしていた。


〈マママ、マスター!! すごいです! 宝の山です!

 く、串焼き何個分でしょうか!?〉


 特に大きなミスリル鉱石と、ウィッチストゥールの杖が今回の目玉だと思う。他にも魔石とか食材とか大量にあるけど。


 こうして初めての階層主討伐は大量のドロップアイテムゲットという形で幕を下ろしたのだった。


 ◇


 ドロップアイテムを拾っていると、なんともちょうどよいタイミングで魔法のランタンの魔石が切れる。


「あ、魔石も切れたね」

「ここまで来た時間を考えると、今から引き返せば閉門の鐘の頃には戻れそうだな。

 ここらで一度帰ってギルドに報告しないか? 正直言って疲れた。お前の戦い方は強引すぎる」

「慣れてないんだからしょうがないじゃん! 私だって戦闘ばっかりで疲れちゃったよ!」

〈マスター私もヘトヘトです……〉

「よし、帰ろう」



 地上のギルドへと戻る途中、第五層へ上がってすぐの安全地帯で、グオンさん──ギルドにはじめてきたときにあった虎獣人の大男──のパーティーに会った。

 そのときに、グオンの仲間の狐獣人が「あ……悪魔だ……」とか言って怯えていたんだけど、怖いモンスターでもいたのかな?

 私たちも気をつけなきゃね。帰るまでが遠足って学校の先生も言ってたし。


 ここで言う"悪魔"が私たちの事を指している事はもちろん、それが後に噂となって広がる事などこの時の私には知る由もないことである。

次回『決心』


**************************


読んでくださってありがとうございます!


第六層の悪魔 完!

長くなってしまいましたが、お付き合い頂きありがとうございました!


もし、面白いと思って頂けていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!

この物語を最後まで書ききるための燃料になります!

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