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第六層の悪魔 その2 ~捕食~

※残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。

↓控えめ版はこちら↓

https://ncode.syosetu.com/n9148gw/1/

 私たちはアーチャーストゥールを倒した後、第六層を歩きながらマッピングを続けていた。


 ここまでソルジャー──階層主"キングポルチーニ"に付き従う配下の中にもいるという魔物──弓使い"アーチャーストゥール"、剣使い"ソードマンストゥール"、魔法使い"ウィッチストゥール"と何度も戦った。流石に召使い"レディーストゥール"は居なかったけど。


 戦った中ではソードマンストゥールが一番強かった。がっしりとしたシメジっぽい見た目で、時代劇のような被り笠をかぶっているようにも見えて剣士というよりサムライのような見た目だった。流れるような動作で繰り出される両手剣の重い斬撃は、くらったら痛いじゃすまないと思う。

 逆に一番弱かったのはウィッチストゥール。女性のような細身の身体に、もっさりした舞茸のような頭をくっつけて、長杖を持たせたらあっという間にウィッチストゥールが出来上がる。こっちに気づくと、すぐに杖を掲げて怪しい呪文を唱えて攻撃しようとしてくるんだけど、残念なことにその詠唱中が隙だらけなのでちゃっちゃと倒しちゃえば終わりなんだよね。そういう意味で、ここまで一度も魔法を使えてすらいないから最弱ってことにした。


 そんな感じに私がこの階層のキノコ系の魔物の事を思案していると、アイカが羊皮紙に書いた地図を見ながらつぶやく。


〈うーん、もしかしたら先程の所を右だったかも知れません。最初に降りてきた階段に近づいているようです〉

「それはそれで好都合だ。安全地帯を基点にできるからな。しかし、妖精様のマッピングはすごいな」


 アイカの隣を歩くリオが横から地図を覗き込みつつフォローするように言う。


 アイカの魔法で空宙に浮いている地図を見ても動じなくなってきているあたり、リオも随分と私たちに馴染んでいた。

 それにしてもアイカが褒められると、なんだか私も嬉しくなってくる。


「えへへ」

「なんでお前が嬉しそうな顔してるんだよ」

「別にいいじゃん。ねえアイカ?」

〈はい、マスター!〉

「まあ何にしても、このまま階層主にあわないと良いんだがな……」

「あ!」

〈あ!〉


私とアイカは目を見合わせる。


〈言っちゃいましたね……〉

「そういうのフラグっていうんだよ」

「ふらぐ? 美味いのか?」

「食べ物じゃないよ!」


 まあ、ある意味ではおいしい役どころではあるんだけど。


 ◇


 そんな会話をしていると、遠くに安全地帯の目印である薄ぼんやりとした光が見えてきた。真っ暗なダンジョンの中で、この階段の近くだけは不思議と明るくなっているのである。


〈あ、やっぱり入り口に戻ってきちゃいました〉

「ありゃ」

「まあ、そういうこともあるさ。

 ちょうど良い、このまま休憩──」


 リオがそう言いかけたが、急に立ち止まる。

 そして、私たちにも手で合図する。この声を出さずに手だけでコミュニケーションを取るのにもずいぶん慣れてきた。

 この手は、「一度静止して警戒」の意味だね。

 アイカも身構えながら周囲をキョロキョロ見回している。そのアイカの暗視付与魔法のおかげで、こういうときも暗い所までよく見えて助かっているんだよね。


 なんだろ? またアーチャーストゥールかな?

 そう思った直後──リオが叫ぶ。


「伏せろっ!」


 リオの声に従って私は身を低くした。アイカなんてびっくりしすぎちゃって地面に顔を押し付けている。そこまでへばりつかなくても……。

 その直後、火球が頭上を通過した。


 え、ファイアボール!?


「次は矢だ! 横に飛べ!」


 今度は、私たちが火球をやり過ごしたところを狙いすましたように矢が飛んでくる。

 リオのおかげで回避が間に合ったけど、一瞬ヒヤッとした。


 私は攻撃が飛んできた方向へと目をやる。

 その先に居たのは、ウィッチストゥールとアーチャーストゥールだった。一糸乱れぬ統率の取れた動きで一斉射を放ってきたのであった。

 もしかして、指揮をとっているのって──


「階層主"キングポルチーニ"だ!!!」


 第六層の階層主であるキングポルチーニ。

 これまで数え切れないほどの冒険者を葬ってきたことから"第六層の悪魔"とも呼ばれている。


「あいつが……」


 安全地帯へ向かう途中の曲がり角付近にそいつは居た。太った体で頭には王冠をかぶっていて、右手には王笏を持ち、左手で顎に生えるヒゲをなでつけながら、余裕たっぷりの顔でこちらを睥睨している。

 撫でつけられている白く長いヒゲの先端にはよく見ると傘がついている。

 もしかして、あれってキノコでできているのかな? 王冠と王笏も、キノコっぽい形のような気がする。

 階層主"キングポルチーニ"は全身がキノコで構成されている奇妙な格好の魔物だった。


「なんか、すごくヘンテコなくせにめっちゃ偉そうなんだけど」


 変な格好をした小太りのくせに、態度はでかくて偉そうで、傍にいる召使いにも乱暴していて、見ているとなんだかムカついてくる。


「アイカ、本当に遠距離攻撃が効かないか試してみてよ」


 リオの情報を疑っている訳ではないけど、念の為の確認ね。もちろんあいつが気に食わないからって訳じゃないよ?


〈承知しました〉


 思考加速で高速化したやり取りを経て、アイカが遠距離魔法攻撃を放つ。


 ──アイシクルランス


 直後、空宙に生成された氷の槍が射出される。その3つの刃のうち、1つはソルジャーに、あとの2つは階層主"キングポルチーニ"の頭部めがけて飛翔する。


「このままいけば3本とも命中する」そう思った時──

──階層主"キングポルチーニ"が王笏を高らかに掲げた。

 すると、氷の槍はカキンッと音を立てて"何か"に弾かれる。


〈障壁……でしょうか……?〉

「っていうか、ソルジャーへの攻撃まで防ぐなんてずるくない?」

「だから言っただろう、遠距離攻撃は効かないんだ」


 むむむ、なんか納得いかないけど、それならやることは一つ。


「近距離攻撃で倒すしか無いよね!」


 私たちの出番じゃん!


 とは言ったものの敵からの第二射、第三射が次から次へと放たれてくるせいで、近づく隙がなかなか無い。


 敵から放たれる攻撃は先程と同様にウィッチストゥール四体による火球の一斉射だった。それを避けたところに今度は矢の一斉射が飛んでくる。この攻撃パターンの厄介な所は、注意を引くための派手な魔法攻撃でこちらに隙を作らせておいて、そこに目立たない黒塗りの矢で素早い攻撃をしかけてくる点である。


 普通のパーティーだったらこんなの避けられないと思う。もしかしたら、このコンボだけでやられちゃうかも知れないね。まあ、私たちには女神装備もアイカの付与魔法もあるし避けきれないってほどじゃないんだけど、これ以上近づくのはちょっと難しそう。


 そうして敵との間合いを詰めようと悪戦苦闘していると、あることに気づく。


「ってあれ?

 なんか弓使いの数が少なくない?」


 弓をつがえて私たちを狙っている弓使い"アーチャーストゥール"。

 情報によるとその数は4体のはずだった。しかし、


〈三体しかいませんね。一体はどこかに隠れているのでしょうか?〉

「もしかしたら、他のパーティーに倒されたのかも知れない。

 少し前に、攻略パーティーが第六層の階層主に挑んだという噂があった」


 私たちはそんなやり取りをしながらも火球と矢を避け続ける。ゆっくりではあるが敵との距離を詰めて、なんとか敵の詠唱呪文が聞こえるくらいのところまできた。

 すると、階層主"キングポルチーニ"が近くに控えていたソードマンストゥールに王笏をかざして何かを唱えるのが見えた。それまで、「自分たちの出番ではない」とばかりに仁王立ちをしていたソードマンストゥールが、即座に行動を開始する。

 剣を鞘から抜き放ち、驚くほどの速さでこちらへ突進してくる。


〈剣使いが二体接近してきます!!!〉


 遠距離攻撃を避けているところに、今度はソードマンストゥール二体による斬撃が追加される。


「うわっ! はやっ! こいつらさっきの野良より強いんじゃない!?」


 繰り出された斬撃は、階層主と遭遇する前に戦った個体よりも圧倒的に早く、両手剣とは思えない速度だった。

 もしかしたら、さっきキングポルチーニが何かしたのかも。


〈これでは敵の数を減らさないとどうにもなりませんね……!〉


 アイカはそう言いながら素早く下降し、地面に手をつける。


〈敵の足元を凍らせますので、もう少しだけ耐えてください!〉

「おっけー!」

「ああ!」


 ソルジャーの猛攻に対処しつつ私たちが返事を返すと、アイカは即座に魔法の構築を始める。


〈氷結拘束……対象外指定、範囲拡大、拘束力強化、耐久力強化、持続時間延長……術式展開……

 いきます!!!〉


 ──カスタムマジック──エンハンス・フローズン・バインド


 瞬間、アイカの手から放出された冷気がダンジョンの床、壁、天井全てに迸り、一瞬のうちに分厚い氷で覆った。それは、地に足を着けていた者全ての足を捉えたことを意味する。階層主も例外ではなく、足元に瞬時に発生した氷により膝までガッチリと捉えられている。

 アイカが対象を絞っているので、当然私たちは無事である。


「ナイスアイカ!」


 アイカの魔法に動揺したウィッチストゥールとアーチャーストゥールは、攻撃の手を止めていた。目の前のソードマンストゥールも突然凍った地面からなんとか足を引き抜こうと必死だったが、アイカの魔法からそう簡単に抜け出せるはずもない。


 チャンスだ!


「行くぞハル!」

「うん!」


 私はミスリルの剣を横薙ぎに一閃し、隙だらけのソードマンストゥールを両断する。リオも目の前の身動きの取れない敵を見逃すはずもなく、急所である喉元を的確に切り裂いて華麗に敵を葬る。敵も私たちの攻撃を避けようとはしているが、足を固定されていてはそれは無理だった。そうして数瞬のうちに二体のソードマンストゥールが赤い光へと変わった。


「よし! ソードマンストゥール二体は倒した! さっさと階層主を狙うぞ! あいつさえ倒せばソルジャーも消えるはずだ」

「うん!」


 私はリオと共に駆け出す。


 リオのやつ、意外とやる気じゃん!

 階層主と戦うことに乗り気ではなかったはずのリオも、まんざらでも無いのか意外と積極的だった。

 私たちは凍った地面の上を風のごとく駆け抜ける。アイカが魔法を調整しているおかげか、氷で滑ることはなく、走りやすくすらあった。


「アイカ、もう少しだけ足止めと防御お願いね!」

「妖精様お願いします!」

〈りょーかいです! 任せてください!〉


 私とリオは、階層主"キングポルチーニ"の元へと駆ける。

 飛来する攻撃は、アイカの魔法によるハニカム構造の透明なバリアで防がれる。もちろん最初からバリアをはることもできたのだが、敵の意表をつくための作戦である。

 その作戦により生じた僅かな隙をついて、私たちはソルジャーの間をすり抜け、階層主"キングポルチーニ"へと肉薄する。


 そして、リオが先に短剣による刺突を繰り出す。階層主"キングポルチーニ"の顔に吸い込まれるように放たれたそれは、的確に急所を貫く、はずだったが──


 キンッ!


 ──甲高い金属音と共にリオの攻撃が、階層主"キングポルチーニ"の作り出した障壁に阻まれる。


「くっ!」

「えっ! 遠距離専用じゃなかったの!?」


 階層主"キングポルチーニ"が作り出す障壁は遠距離攻撃に対してのみ効果を発揮する訳では無かった。


 リオはそれも予想していたのか素早く距離を取る。

 様々な事態を想定し、瞬時に行動に移すことのできるリオは、流石に場数を踏んでいるだけはあった。

 ここに来るまでに、「戦闘中は身体だけじゃなく頭も使え。呼吸で冷静な思考を作るんだ」と私に教えてくれていた。それのおかげで、一瞬驚きはしたものの私もすぐに冷静になることができていた。


「ハル、攻撃が弾かれるぞ! いったん下がれ!」

「いや、大丈夫」


 リオが叫ぶが、私は敵への攻撃を止めるつもりはない。


〈マスター! 無茶です!〉


 アイカも焦ったような声を上げるが、私はあえてそれを無視する。

 だって、この障壁の"攻略法"には覚えがあるから。


「この障壁ならいけるはずだよ」


 ハマっていたネットゲームであるドラゴンズリングに登場するボスモンスターが使っていた障壁。目の前の階層主"キングポルチーニ"が使う障壁も、性質はそれと酷似していた。その性質とは、遠距離も近距離も関係なく、物理攻撃と魔法攻撃の両方を防ぐ。しかし、アイカの拘束魔法のような攻撃以外のものは防げない。そして、効果が発動する瞬間には透明な障壁が一瞬光る。


「この障壁も同じ」


 だから私には確信がある。

 この障壁の攻略方法は、物理と魔法の同時攻撃。そして、それができる武器は私の手の中にある。

 これならいける。

 私は、アイカが風の攻撃魔法を付与してくれたミスリルソードの柄を強く握り──


「いっけぇぇえええ!!!」


 ──渾身の力を込めて剣を振り下ろした。


 パリンッ!


「嘘だろ……!」


 硬質な何かが割れるような甲高い音が響き、リオが驚愕の声を上げる。


 ──私の剣が障壁を"破壊"したのである。


 そして、私は力を緩めずに勢いのまま階層主"キングポルチーニ"へと切りつけ、大した抵抗を感じることもなく剣を振り抜く。それにより、階層主"キングポルチーニ"の肩から先が切り飛ばされ地面に転がり、瞬時に赤い光となって消えた。


「よし! 二人とも追撃を!」

「あ、ああ!」

〈はいっ!〉


 足を拘束されたまま、唖然としているソルジャーたちを尻目に、リオとアイカが階層主"キングポルチーニ"に追撃を加える。

 片腕を失いつつも、残った片腕で二人の追撃をいなし満身創痍となっているのにまだ倒れないのは流石であるが、体から漏れ出す血光は止まる気配がない。もはや時間の問題だろう。


 私たちは、一度距離をとり息を整える。


「はあはあ、しぶといがもう終わりだ」

〈マスター、お見事でした〉

「この剣ならいけるって思ったよ!」

〈さあ、止めを指してしまいましょう〉


 アイカの言葉に応えて、私が止めを刺そうとしたその時、


「まて……あれは何をしている!?」


 リオが私を静止し、驚愕に目を見開く。

 なんと階層主"キングポルチーニ"が仲間であるはずのレディーストゥールを"捕食"し始めた。私たちはあっけに取られてとっさに反応できずにただその光景を見つめる。


「え! うそ!?」

「まじかよ……」


 驚愕。

 というかドン引きである。


 階層主"キングポルチーニ"は頭から胸部にかけてがパックリと裂け、そこからは無数の牙が生えており、上半身が巨大な口と化していた。先程までのヘンテコで間の抜けた見た目からは想像もできないほどに、おぞましい姿である。そして先程まで傍に侍らせていた召使いを頭から喰らっている。映画とかでこういうのには慣れていたつもりだったけど正直言って気持ち悪い。

 階層主"キングポルチーニ"は、あっという間に全ての召使いを"捕食"した。


 次の瞬間──階層主"キングポルチーニ"の身体がボコリと隆起した。


「え?」

〈マスター! 警戒を!〉


 階層主"キングポルチーニ"は全身をボコボコと隆起させ急激な変化を遂げようとしていた。裂けた上半身の脇にぶら下がる目がギロリとこちらを見て、邪悪な笑みを浮かべている。

 身体の変化と同時に、失った腕がボコボコと盛り上がり再生する。


「もしかして部下を"捕食"して強くなってるの!?」

「ああ、信じられんが……」

〈再生と強化を行っているようです〉


 そして、階層主"キングポルチーニ"は先程とは全く別の魔物と思えるような変化を遂げた。


 身長3メートル超まで巨大化し、王冠と王笏はどこかへと消え、代わりに現れた2本のグレートソードを発達した筋肉が纏う両腕で構えている。頭はなく、首の部分に牙が無数に生える大きな口があり、胸部の2つの眼からは強烈な怨念を感じる。

 先ほどまでの太った体躯からは想像もできないような変わりようだった。


 変化を終えた階層主"キングポルチーニ"は、身体の動きを確かめるように2本のグレートソードを振ってみせる。

 そして、ここからが本番だと言わんばかりの表情で私たちを睥睨する。




 こうして、自らの配下を吸収して強化された階層主"キングポルチーニ"との真の戦いが幕を開けたのである。

次回『第六層の悪魔 その3 ~決着~』


**************************


読んでくださってありがとうございます!

今日更新できるとは思いませんでした……! 頑張りました!


そしてなんと重大発表!

"総合評価ポイントが400ptを突破しましたーーー!!!" パチパチパチ!

皆様の応援のおかげです!!! ということで今回も頑張っちゃいました!(笑)

これからもよろしくお願いいたします!!!

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