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第六層の悪魔 その1 ~ソルジャー~

グオンは遥香がギルドの入り口で会った虎獣人の大男です。

 ──グオン視点──


 俺はグオン。

 俺たちはいつものようにパーティーを組んでダンジョン探索をしていた。今は第五層の最奥の階段の手前で休憩し、仲間たち4人が各々に装備の手入れや水分補給を行っている。

 そんな中、"何か"の声が聞こえる。


「ピャィ……」


 ん? なんだ?

 俺は仲間のうちの一人、狐獣人のテゴに聞いてみる。


「おいテゴ、何か聞こえなかったか?」

「いや?」


 俺の質問にテゴが作業の手を止めて辺りを警戒し耳をすませる。


「何も聞こえないっすね……」

「そうか、俺の気のせいかもしんねえ」


 俺が気のせいかと安堵しかけたその時、階段の下から悲鳴にも似た叫び声が聞こえる。


「ビャルガァァァアアアアア!!!」

「なんだ!?」

「六層の方から聞こえたっすよ!」

「六層ってことは──まさか攻略パーティーか!?」

「グオンさん、俺もそいつらの噂は聞いたことあるっす。最近話題になってるっすよね」


 そう言ったテゴは手入れ中の道具を手早く片付け、すっと立ち上がる。


「グオンさん、俺ちょっと見に行って来るっす! 攻略パーティーってのがどんなもんか見てみたかったんすよ」

「構わねえが無茶すんなよ?」

「心配いらねえっすよ! 階段近くの安全地帯でちょこーっと様子を見るだけっすから!」


 そう言ったテゴは斥候らしい軽やかな身のこなしで静かに第六層へと向かっていった。


 ◇


 それから少しして、今度はテゴの悲鳴が階段の下から聞こえてくる。


「ギャァアアアアーーー!」


 テゴの悲鳴に仲間全員が気づいて立ち上がる。

 すると、すぐにテゴが血相を変えて階段から這い上がってきた。息も絶え絶えで顔色も真っ青で、額には脂汗が滲んでいる。


 普段の探索じゃいつも冷静で汗一つかかねえでいるこいつが、こんなに取り乱しているなんてただ事じゃねえのは確かだ。

 いったい何が起こったっていうんだ?


 俺はとりあえずテゴに水筒を差し出して落ち着くように言う。

 そしたらテゴのやつ、俺の水筒を一気に飲み干しやがった。ちくしょう。

 心のなかでぼやいていると、テゴが軽く息を吐いて気を取り直したように話し始める。俺たちは他の仲間たちと一緒にテゴの話を聞いた。


「最初は、人の声と、剣撃の音が聞こえたからさっき言ってた攻略パーティーが戦ってんだと思ったんすよ。だけど、霧が濃くてよく見えなかったもんで、安全地帯の外縁ギリギリのところまで近づいたんす。そしたら、見えちまったっす……」


 ゴクリ……。


 テゴが言葉を切ると、誰かが唾を飲み込む音がした。


「……赤い目の悪魔が見えたんっすよ! あいつは……霧の中で信じられない速さで大男を捕まえて、何度も切りつけて……そしたら、こっちをギロッと睨んできたんす!

 次はお前だって、言われたような気がしたっすよ……あ、あいつはぜってえ人じゃねえっす! 悪魔っすよ……!」


 テゴが言うにはその赤い目の奴と、目があったもんだから次は俺が殺されるって思って怖くなって逃げ出したんだと。

 だが俺から言わせてみりゃあ、そいつは──


「冒険者の見間違いじゃねえのか?」

「そんなはずはねぇっす。動きが明らかに異常だったんすよ。ありゃあぜってえ人にはできねえ動きだったっす」


 そんな会話をしていたんだが、急にテゴが目を見開いて叫び声を上げる。


「ヒ、ヒィィイヤァアアア!!!

 あ、悪魔が……! どうして、おまえが階層を上がって来られるんだ……!?」


 背後からコツンコツンと誰かの足音が聞こえる。そして、目の前のテゴは腰が抜けたようにへたり込み、ワナワナと震えている。


 まさかさっき言ってた悪魔じゃねえよな?


 魔物は階層間を絶対に行き来できないはずだ……! 大丈夫。テゴの冗談か何かだろう。俺は自分にそう言い聞かせつつ、ゆっくりと振り向いた。すると──


「グオンさん?」


 その正体は──知っている女だった。

 っていうか昨日ギルドに入ったばっかりのハルの嬢ちゃんじゃねえか。

 二人はちょうど下層から上がってくる所だったみてえだ。


 んだよ! ビビらせやがって!

 俺は安堵しつつも挨拶を交わす。


「お前ら! リオとハルの嬢ちゃんじゃねえか!」


 ってあれ? どうして第六層から?


 まさか──

 ──攻略か!?




 こうしてグオン一行が、遥香たちが第六層から出てくる所を目撃したことをきっかけに、第六層の悪魔の噂が広がることになるのだが、それはまだ先の話である。

 ましてや、誰が悪魔と呼ばれることになるのかなど、このときの私たちには知る由もない事である。




 ──遥香視点──


 ──時は私たちが第六層に入った直後まで遡る。


「良いか? よく聞け。第六層からは一気に難易度があがる」


 例によって私たちは第六層の入り口の安全地帯でリオからレクチャーを受けていた。


「俺たちならいけるとは思うが、油断は禁物だ」と念押しから入った説明によると、第六層ではキノコ系のモンスターがメインのようで、今までの層とは違って武器や魔法を使用してくるようになるらしい。

 それを聞いただけでも第五層までとは違うんだと思ったけどそれだけじゃないみたいでリオの説明は続く。


「第六層で最も危険なのが階層主だ」


 階層主とはその名の通り、その階層で最も強い魔物らしい。強いだけではなく、"ソルジャー"と呼ばれる仲間を従えており、徒党を組んで襲いかかってくることもあるんだとか。


「今まで戦ってきて分かったと思うが、ダンジョンの魔物は普通は狂乱状態なんだ。俺たちを見つけたらすぐに襲いかかってくるだろう?

 だが、階層主は違う──あいつらは狡猾だ」


 リオ曰く、それが階層主の最大の特徴らしい。今までの敵のように単純に攻撃してくるだけではなく、待ち伏せや集団での包囲、時には逃げ出したりと状況に応じて臨機応変な動きをするんだとか。


 ふーん、頭いいんだ。知能……があるのかな……?

 でも今までの階層にそんな敵は居なかったような……。


「あのさ、第六層より上には階層主っていないの?」

「いやいるんだが、魔物が再配置されると、すぐに階層主は討伐されるんだ。階層主はドロップの質も量も良いからな」


 再配置とはダンジョンの構造が変化した時に起こる魔物の再出現のことらしい。階層主だけは、倒すと次の再配置まで出現することはないんだとか。


「じゃあなんで第六層のは討伐しないの?」

「討伐しないんじゃない──」


 リオはそこで言葉を切り、ゆっくりと首を横にふる。


「──討伐できないんだ。数え切れないほどの冒険者がこいつに殺されてる」


 リオの話によると、なんでも第六層の階層主は第五層までと比べ物にならないほど強いらしく、今まで倒せた人は一人もいないんだとか。


 それほど強いと言われる理由はいくつかある。

 まず、ソルジャーだけでもそれなりに強いので階層主に近づけない。その状態で統率されたソルジャーが遠距離から魔法攻撃を放ってくる。そして、一番厄介なのがこちらからの遠距離攻撃が効かないことだそうだ。


「遠距離攻撃が効かないってどういう事?」

「階層主と戦って逃げ出したやつの話だと階層主自身が怪しげな魔法を使って矢を防ぐらしい」


 なるほど。確かにそれは相手にするの大変かも。ゲーム(ドラゴンズリング)でもそういう魔法とかを使ってくる敵がいたっけ。

 そう思いつつ、ふと思った疑問を口にする。


「ねえ、リオってなんでそんなに詳しいの?」

「あ? 情報は命だから当たり前だ」


 そっか……。冒険者にとっては命がけ何だよね……。

 なんかすごく説得力あるなあ。


「話を戻すが、第六層の主のやり口はこうだ。

 まず出会い頭に遠距離から攻撃してくる。その後すぐに、ソルジャーの一部が近接戦を仕掛けてくるんだ。そして、近距離と遠距離の両方から攻撃される訳だが、それを止めようにもこちらからは攻撃手段が無い。こんなの勝てるわけ無いだろう? だから合わないようにするんだ」

「なるほどね。アイカ、いけると思う?」

〈問題ありません。いけます〉

「だよね!」


 頷きあう私とアイカ。


「ま、まてまてまってくれ! いけるって……まさか戦う気か?」


 私たちを見て慌てた様子のリオ。


「え? 戦わないの?」

〈もちろん戦いますよね?〉

「ええ!? 妖精様まで!!」


 ジーッとリオの目を見つめる私とアイカ。きっと私たちの瞳は期待に満ちてキラキラと輝いていたはず。

 リオが腕を組んで思案する。


「……しかたない」


 リオが「ただし、遭遇したときだけだぞ!」と条件付きで了承してくれた。

 やったね。

 私とアイカはハイタッチする。

 リオはそんな私とアイカの様子を見ながらため息をついていたが、「まあ、こいつらとならなんとかなるかも知れないな」とポツリと呟いて気を取り直した。



「よし、そうと決まればアイカ! 魔法で探してみて?」

「お、おい! ずるいぞ!」


 というリオの言葉は無視してアイカが探知魔法を使う。

 合っちゃえばこっちのもんだよね! 報酬たくさんあるっているし楽しみ!


 ──カスタムマジック──ワイドレンジ・サーチエネミー


「どう?」

〈うーん、申し訳ありませんマスター。なぜか魔力が跳ね返って来ないのです。変ですね……〉


 首をかしげつつ何度か魔法を試すアイカだったが、どうやら索敵魔法はダンジョンでは使えなさそうというのが結論だった。

 それを聞いたリオはほっと胸を撫で下ろしていたが、すぐに切り替えて「ダンジョンは特殊な場所だから仕方ない」とアイカをフォローしていた。

 私はそんな様子を眺めつつ、小さな声でつぶやく。


「──ダンジョンってなんなんだろ?」


 ◇


 その後、私たちは第六層を進んでいた。

 もちろん、マッピングはアイカにまかせている。


〈マ、マスター! 宝箱です!!!〉

「やったお宝!!!」


 私とアイカは、金や宝石がふんだんにあしらわれた見るからに豪華な宝箱を発見し、歓喜の声を上げていた。

 そして、一目散にその宝箱へ向かって駆け出す。

 しかし──


「それは罠だ」


 というリオが私の首根っこを掴んで静止する。私が急に止まったせいで、追い抜こうとしていたアイカが背中にポフンと音を立てて衝突した。


「いてて……」

〈マスター、鼻が痛いです……〉


 目をばってんマークにして鼻を押さえるアイカ。

 リオがその横を通り過ぎて、拾った石を宝箱に向かって放り投げる。


 石が放物線を描いて宝箱に当たる正にその瞬間──

 ──宝箱がダンジョンの壁面ごと大きく裂けた。


 そして人を余裕でひと飲みにできるほどの大きな口が出現し、周囲の空間ごと石ころを飲み込んだ。こぶし大の小さな石ころ相手に不必要なほど口を大きく開ける姿は一種異様だった。


「えっ!」

〈ひゃうっ!〉


 私とアイカは小さく声を上げた後、絶句していた。アイカはかわいそうになるくらい怖がってプルプルと震えている。パックリと口を開けた瞬間に見えた無数の歯が、私の脳裏にも焼き付いている。


 ダンジョン怖っ!!!


「あいつはミミックだ。宝箱に擬態して冒険者を待ち構えているんだ」

「そうなんだ……倒せないの?」

「無理だ。ダンジョンと一体化していて倒せない。もし飲み込まれたら助け出す手段はないから気をつけろ」


 リオの話を聞いて背筋に悪寒が走るのを感じる。


「アイカ……き、気をつけようね……」

〈ハイです……マスター……〉


 そうして私たちがほっと一息をついて、気を取り直してから再び攻略を開始しようとした瞬間──


「敵だ!!!」


 リオの声に私はビクリとなって動きを止める。


 ヒュン!


 その直後に風切り音が聞こえ、壁に何かが刺さった。


「ひゃっ! 今度はなに!?」

〈矢です!〉


 私はアイカの声を聞いて周囲を警戒する。見ると矢が壁に深々と刺さっていた。

 う、嘘でしょ!? 全然気づかなかった……!

 あ、危なかった……!

 言われたばっかりだったのに、油断しちゃってたかも。

 気を引き締めなきゃ!


 キンッ!


 私がそうこうしている間にも矢が飛んでくるが、リオが剣でそれを叩き落とす。そして、短剣を構えつつ矢が飛んできた方向へと走り出していた。

 さすがリオ!


「アーチャーストゥールだ!」


 そう言ったリオは矢を短剣で弾きつつあっという間に敵に肉薄し。素早い斬撃を放っていた。しかしその敵であるはずの"何か"は不自然なほど身体を捻って、バックステップをしながらリオの攻撃をギリギリで躱していた。まるで関節が無いようにアクロバットな動きだった。その何かは、細く長い腕で長弓を操っていて、頭にはキノコの傘に似た形のものがちょこんと乗っている。


 なんか白くて細くてエノキっぽい。

 っていうか、動き早っ!


「ハル! ボケっとするな! 妖精様も援護を!」


 叫ぶリオの声を聞いて、思考を一時中断し素早く動いてアイカと共にリオに加勢する。


 その後は一瞬で決着が着いた。

 私が肉薄して大ぶりに切りかかって、敵が避けた所をアイカが魔法で足止めし、リオが止めを指した。


〈ふう。明らかに第五層までとは動きが違いますね〉

「うん、でも三人なら行けるね!」


 不意打ちされた時はびっくりしちゃったけど、気をつけていればこれくらいならまだ余裕かな。確かに普通の人には相手するの難しそうだけどね。

 そう思ってリオの方を見ると、苦々しい顔になっていた。


「どうしたの?」

「こいつは……階層主のソルジャーのうちの一体のはずなんだが、これほど手強いとは思わなかった」


 リオ曰くソルジャーの構成は、弓使いのアーチャーストゥール、剣使いのソードマンストゥール、魔法使いのウィッチストゥール、そして召使いのレディーストゥール、各4体ずつの計16体いるらしい。

 全てキノコっぽいへんてこな見た目をしているみたいなんだけど、さっきのアーチャーストゥールと同じくらい強いんだって。まあでも、いざとなったら女神装備のパワーを全開にすれば行けるはず。アイカもいるし!


 ってあれ?

 ちょっとまって、なんか変なの混じってない!?


「最後に言った"召使い"だけなんかタイプが違うけど、お世話係ってこと?」

「ああ、いや。常に階層主の傍から離れないで、戦闘には参加しないからそう呼ばれているだけだ……と思う」

「ふむふむ」


 私は脳内で傍に召使いを侍らせている感じの貴族を想像する。イメージはそう、この都市に入るときの門番の太ってた方って感じ。名前なんだっけかな。

 私がどうでもいいことを思い出そうとしていると、アイカがリオに尋ねる。


〈なるほど、それで肝心の階層主は何と呼ばれているのですか?〉


 アイカの問に、リオはゴクリと唾を飲み込んでから重々しく口を開く。


「 "第六層の悪魔" キングポルチーニだ 」

次回『第六層の悪魔 その2 ~捕食~』


**************************


読んでくださってありがとうございます!


「第六層の悪魔」のお話ですが、評価とブックマークのお礼ということで気合い入れすぎました……!

現時点で合計2万字くらいあります!(笑)

流石に長くなりすぎてしまったので分割しますね。推敲終わり次第順次更新していきますので、少しだけお待ち下さい!


さて、この階層の主である"キングポルチーニ"……

じつは最初は"ポルチーニ男爵"でしたが王様に昇格させました!

男爵ってついただけでジャガイモっぽくなってしまったので!(笑)

ポルチーニはクリームパスタとかに入れるととっても美味しいキノコです!

ああ、お腹がすきました……!


もし、『どんなふうに調理されるんだろう(二重の意味で)』と思っていただけていたら、嬉しいです!

ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想、ブックマークお待ちしております!!!

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