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攻略開始

「もういい攻略に向かうぞ」


 やけくそ気味にそう言って歩き出そうとするリオ。

 私は慌ててリオを静止し、時間短縮のためにアイカに移動速度アップの補助魔法をお願いする。


「ちょっとまって、アイカ付与ちょうだい」

「なんでお前が指示してるんだ?」

<マスターには恩があるんです>

「そうか」


 私の言葉にリオが不満げな表情を浮かべたが、続くアイカの一言であっさりと納得した。

 妖精アイカが言うと納得するの早いなあ。


<いきます!>


 ──カスタムマジック──フィジカル・アクセラレーション

 ──カスタムマジック──メンタル・アクセラレーション


 アイカが魔法を発動させると、リオの身体が一瞬だけ淡く輝く。


「何だこれは!?」


 アイカの魔法により身体加速と思考加速の効果が付与されたリオが驚きの声を上げる。アイカが「驚くのも当然でしょう」という顔で満足そうにうなずいている。身体加速はともかく、思考加速は周囲の時の流れが遅くなったようにすら感じられるものなのだから当然である。

 そうしてリオが驚いている間に、私は女神装備の力を発動させる。


 ──思考加速

 ──身体加速


 もちろん、アイカが魔法をかけるフリをするのも忘れない。

 女神装備の話はまだ内緒だからね。


「妖精様の魔法は凄まじいな……」


 リオが自分の身体の調子を確かめながら感嘆の息を洩らしている。


「しかし、先程は詠唱もしていなかったようだが……?」


 ギクッ!


 も、もしかして魔法って詠唱しないとダメだったの!?

 この世界の禁忌とかだったりしたら、ど、どどどうしよう!!


<これは精霊術という種類の詠唱が不要な魔法なんです>


 え! アイカがしれっと嘘ついたー!!!


「なるほど、さすが妖精様だ」


 リオもあっさり信じちゃったよー!!!


 アイカは<ふふふ、そうでしょう!>と胸を張っている。内心で「これでいいのか」と自問自答している私を尻目にリオとアイカがこの世界の魔法について話をしている。


<リオさんが知っているのはどんな魔法なのですか?>

「ああ、俺の知っているのはどれも詠唱を必要とする魔法だ」


 リオが「俺も魔法はそれほど詳しくはないんだが」と前置きして説明してくれる。この世界の魔法は基本的に詠唱が必要らしい。しかも、使える者もほとんど居ないんだとか。

 それを聞いて私の脳裏に一抹の不安がよぎる。


 あのアイカが光る魔法を付与した剣……大丈夫かな……。

 私はこの首都に入る時に、お役人さんに渡した賄賂のことを思い出したが頭を振って思考を打ち切る。いまさら考えても仕方ないし。


「詠唱が無いというのは戦闘時にかなり役立つぞ……!」

<もちろんですとも!>

「これなら俺たちだけで攻略も行けるかも知れない……!」


 私が思案している間に、リオとアイカだけで盛り上がっているのが面白くなくて、私も会話に混ざる。


「でしょでしょ? これがあれば私だって戦えると……」


 私がすべて言い終わる前にリオがかぶせ気味に言ってくる。


「俺が頼りにしているのは妖精様だ。お前は引っ込んでろ」


 リオが最後に「危ないから」と付け加えていたので、私の身を心配しての発言だったようだが、私はそこまで聞かずに憤慨していた。


「ひどっ!!!」


 なにもそんな言い方しなくたって良いのに!

 弱くないって所、絶対に見せつけてやる!!!


 こうして私たちはアイカの魔法付与を行い、高速で迷宮(ダンジョン)の攻略エリアへと向かうのであった。


 ◇


 迷宮(ダンジョン)の入り口の門を抜けると下へと降りる階段がある。そこを降りていくと、いよいよ迷宮(ダンジョン)の中である。

 中に入るとひんやりとした空気に変わる。魔法のランタン以外に明かりはなく、暗い洞窟という印象を受けた。もちろん女神装備の知覚強化をすぐに発動させ、問題なく見えるようにしている。洞窟の幅は思ったよりも広く、2人並んで両手を広げてもまだ十分余裕がある。

 そんな洞窟が四方八方に入り組んでおりどこまでも続いている。


 暗くてちょっと怖いけど、女神装備のおかげでしっかり見えるし、大丈夫。いざとなったらアイカも居るし。

 なんかミステリアスツアーって感じだね。

 そう思ってアイカの方を見ると、目をキラキラさせて<お宝お宝……>と呟いていた。

 お宝が目的じゃないよ! 女神様のミッションだからね!?

 そりゃあ、お宝でたら嬉しいけどさ!


「俺から離れないように着いてきてくれ」


 リオが先頭となり歩みを進めていく。

 最初こそ慎重に進んでいたが、私たちが慣れてくる様子を見ながら身体加速の効果を駆使して徐々にスピードを上げていく。


 そうして高速で第一層を進んでいくと、最初の敵と遭遇した。


「敵だ! 3体いるぞ」


 敵はキャベジーナという名で、キャベツの木──芽キャベツを3mくらいの高さまで成長させて短い足を生やしたらこうなりそう──のような魔物だった。ちなみに、いくつもキャベツを生やした姿からスズナリキャベツとも呼ばれる。

 その魔物は私たちを見るなりこちらに突進してきた。突進とは言ったものの、そのスピードは足が短いせいでとても遅かった。


「おそっ!」


 私が魔物の動き(の遅さ)に驚いていると、リオが素早く武器を構えて飛び出した。その手に持つのは2本の短剣だった。


「はっ! たあ!

 すごいぞ! 付与魔法の効果で身体が軽い!」


 興奮した様子で敵に次々と斬りかかるリオ。

 逆手に持った短剣で斬撃と刺突を繰り出し、時には身体を大きく捻った渾身の蹴りを加えたりと、全身を使った戦い方だった。

 切り裂かれた魔物の傷口からは、緑色の血──ではなく血光と呼ばれる赤く光る粒子が舞っていた。


「基本は俺が敵を倒す。妖精様は援護をお願いします!」

<了解です!>


 ──カスタムマジック──アイシクル・ピアー


 氷の柱を出現させて、リオの援護を行うアイカ。

 リオの攻撃リズムを正確に読み、彼をめがけて突進する敵の足止めを行っているのだ。


 私も加勢したくて、アイカが足止めをしている敵に向かおうとするとリオが叫ぶ。


「ハルは引っ込んでろ!」


 むっ! バカにして!!!

 私はリオの声を無視して、前に出ようとする。


<マスター、危ないので下がっていてください!>

「アイカまで……ひどい!!!」


 結局、第一戦目は私が戦闘に参加出来ないまま終わった。


 倒したキャベジーナは赤い粒子となって消え、そのあとにはキャベツが一個だけ残っている。

 てっきり、解体しなきゃいけないと思っていた私にとって、素材だけ残るというのはありがたかった。植物ならまだましだけど、動物の身体を切り分けて解体するのとか絶対無理だし。

 なんでも、迷宮(ダンジョン)の魔物は倒すと粒子になって消えてしまうが、その魔物を象徴する部位だけは消えずに残ることがあるらしい。これをドロップと呼ぶのだとか。

 ただ、三体倒してキャベツ一個というのは、ゲームでの感覚からするとすごく少ないんだけど、この世界ではこれが普通らしい。むしろ運が悪いと10体倒して一個も出ないこともあるんだとか。でも逆に、運が良いと高級な魔石がドロップすることもあるらしい。


「よし、良い感じだ。ガンガン行くぞ」


 リオはそう言いつつドロップしたキャベツを拾ってこちらに駆けてくる。

 アイカもそのキャベツを受け取りながら、<ガンガンいくです!>と嬉しそうにしている。

 このアイカの笑みは<マスターに苦労を駆けずに女神のミッションを進められそうで良かった>という気持ちからきたものなのだが、私からすると疎外感しか感じなかった。


 二人だけで盛り上がっちゃって……私は出番無しかあ。


 ◇


 アイカはもちろんリオも強くて、私は全然戦闘に参加させてもらえないまま第五層まで来てしまった。


 ここに来るまであっという間だった。

 第三層や第四層では、キングバッファローやダイオウリクイカなど大型の魔物とも遭遇したけど、特に苦戦することもなくあっさりと倒してしまったのだ。魔法のランタンの石を見ても全然小さくなっていないことからほとんど時間が経過していないのがわかる。


 もちろん私はここまで一度も参戦できずドロップ回収係になってしまっているので、フラストレーションが溜まりっぱなしなのは言うまでもない。その火に更に油を注いだのが、途中であったパーティーからの嘲笑である。



 そんな私の不満を知ってか知らずか、敵の群れと遭遇する。

 虹色の雲が5つ。ゆるきゃらでいそうなずんぐりむっくりな体型をした人型だった。


「もしかしてあれってカフェで食べたやつじゃ?」

<おそらくそうですね。フワフワで美味しそうです>


 のんきにそんな会話をする私たちにリオが叫ぶ。


虹雲(レインボークラウド)だ!」


 リオが警戒の声をあげると同時、最も前列にいる虹雲(レインボークラウド)の体から分離した2つの白い雲が小さな犬型へと変化した。


「くそ。もう猟犬を出されたか。

 あいつらは素早い上に遠距離攻撃をしてくる。気をつけろ!」


 リオが悪態をつくと同時に、残りの虹雲(レインボークラウド)も同様にして猟犬である白い雲を出現させる。そうして、虹色の本体が5体と白い猟犬が10体、計15体の敵と対峙することになった。


「多いな……」


 リオはそう言いつつも正面の虹雲(レインボークラウド)に向かって駆けた。

 計10体の猟犬が一斉にリオを狙って走り出した。

 その尻尾を構成する雲が瞬時に圧縮され、研ぎ澄まされた刃へと形を変える。そしてこちらへ向けて襲いかかりながら、ブーメランのようにその刃を飛ばしてきた。それらの刃は、緩やかなカーブを描きながらリオへと吸い込まれるように矢の如き速さで飛翔する。


「ちっ!」


 舌打ちをしつつも瞬時に姿勢を低くし、そのすべてを避けきるリオは流石だったが、虹雲(レインボークラウド)への攻撃が浅くなってしまい、肝心のコアへのダメージが通らなかった。アイカが事前にリオから聞いていた魔物情報によると、虹雲(レインボークラウド)にはコアがありそれを攻撃しないといつまでたっても倒せないのだとか。リオが使うのは短剣というリーチが短い武器という点を考えると相性の悪い敵だった。


 猟犬が邪魔で本体へと攻撃が通らず、猟犬を倒してもすぐに次の猟犬が生み出される。そして、その際に本体の体積が小さくなるので、それを利用して本体が無くなるまで猟犬を倒し続けるというのも倒し方の一つでは有るが、それを行うとドロップは出ないらしい。だからこそ、リオは猟犬への反撃を一切行わないのだが、それでは猟犬の攻撃を避け続けることになる。

 つまり本体を倒したくても猟犬が盾となり、その猟犬を倒すとドロップが出なくなるという非常に面倒な敵ということだった。


 苦戦するリオに、アイカが魔法で援護を行うが遠距離攻撃だと猟犬も倒してしまうため、うかつに手を出せない状況だった。


「くそ! 埒が明かない! 一度安全地帯まで撤退するぞ!」

<仕方ありませんね>


 私は二人が苦戦する様子を見てニヤリと笑う。


「ここは私の出番だよね!」


 満を持して真打登場!

 という気分で私は悠然と前へと歩み出る。


<マスター、危険です! 怪我でもなされたら……!>


 アイカが私に気づいて声を上げるが、気にせず歩みを進める。アイカは過保護すぎるんだよね。

 私は溜めていた鬱憤を晴らすべく、腰に下げたミスリルの剣の柄を強く握りしめる。そして、アイカの魔法付与の効果が切れていない事を確かめる。この付与のおかげで切れ味が極限まで高められているはずなのだ。


 よし! いけそう!


「おい! お前は引っ込んでろって言っただろ!」


 私が前に出てきている事に気づいたリオが叫ぶが、猟犬の対応で手一杯の様子。

 私はすっと姿勢を低くし、


「だいじょーぶっ!」


 ダッと地面を蹴って駆け出した。


 そしてリオめがけて飛び交う刃の間を掻い潜り、一瞬で虹雲(レインボークラウド)へと肉薄する。


 そして剣を握る手に力を込め──敵のコアを横薙ぎに一閃する。


 直後、コアを両断された虹雲(レインボークラウド)はその場で粒子となって消え始める。私はそのままの勢いで、次の敵へと肉薄しコアを両断する。

 そうして5体の敵をあっという間に一掃してみせた。猟犬も本体が倒されたために光となって消えていく。


 赤い光の粒子が舞う中──

 ──私は緋色の髪をなびかせる。


 私はミスリルの剣を鞘に納めながら、満足感と快感を噛み締めていた。


 やばい!!!

 私めっちゃ強くない!?

 女神装備の効果ですんごく早く動けるし、この剣も強くて一撃だったよ!


 めっちゃ気持ちーーーーーぃ!!!


 私がほおと息をついてからゆっくりと振り向くと、リオが呆気にとられたような顔で突っ立っていた。アイカは拍手して<さすがマスターです! 写真に撮っておきたかったです!>と絶賛してくれている。

 私がドロップしたアイテム──虹色の雲が入った透明な風船のような玉──を拾ってから二人に近づいていくと、リオが我に返る。


「お、お前……! そんなに強かったのか!?」

「ふふふ、これが私の本当の実力よ!」


 得意になってニッと笑い、胸を張る。

 すると、リオが思案顔になり「やっぱりあの試験では実力を隠して……そうか、妖精様か……」などと何やらブツブツ言い出した。


「お前、あの時は実力を隠していたのか?」


 あの時っていつのことだろうと思いつつも、とりあえず肯定しておく。


「あー、うん。まあね。牙と角は隠せって言うじゃん?」


 確かポルクス村の村長さんがそんな感じのことを言ってた気がする。ちょっと違うかも知れないけど。


「そうか……!」


 間違っていなかったのか私の言葉に、リオは得心がいったという表情で力強くうなずく。

 そうこうしている間に、新たな敵が現れる。


「それより次きたよ! さあ行くよ!」

「おう! 俺が猟犬の囮になる。お前は本体を攻撃してくれ!」


 リオが私に攻撃役を任せてくれた。

 私もちゃんと戦えるって事を、リオが認めてくれたようで嬉しかった。


「オッケー任せて!」

<私も援護します!>


 新たに現れた7体の虹雲(レインボークラウド)を私たちはあっさりと倒し赤い光へと変えた。


 このとき私たちは確信した。


 ──私たちなら攻略だって行ける!


「行けるね!」

「行けるぞ!」

<行けます!>


 私たち3人が仲間となった瞬間だった。




 その後、私たちは連携を確かめながら第五層を駆け抜け、ついに第六層へと降りる階段へと到着する。ランタンの魔石で時間を確認すると、まだ迷宮(ダンジョン)に入ってから一時間くらいしか経っていなかった。

 これは驚異的な踏破速度らしい。「妖精様の魔法のおかげだ」とリオが興奮していた。


「ここを降りたら第六層だ」

「いよいよ攻略開始だね!」

<楽しみですね>

「うん! 行こう!」

「ああ!」

<ハイです!>


 こうして私たちの迷宮(ダンジョン)攻略が開始されたのである。

次回『第六層の悪魔 その1 ソルジャー』


**************************


読んでくださってありがとうございます!

また評価も頂けて感謝です!

お礼の6千字更新です!!!


いよいよ迷宮攻略が始まります!

攻略始まって早々サブタイトルが不穏な感じですが(笑)


もし、続きがきになると思って頂けていたら幸いです!

引き続き、小説評価☆☆☆☆☆や感想、ブックマークお待ちしております!!!

執筆の励みになりますので、是非よろしくお願いします!!!

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