魔法付与
「それじゃ支度をして開門の鐘の頃にギルドで集合ね」
「ああ」
と言ってリオと分かれて宿の自室で一泊し翌朝。
ちなみに、この宿屋──月夜のペガサス亭──は前払い制だったおかげで一文無しとなった今の私でも安心して泊まることができた。
「すぱぴー」という寝息が聞こえてきそうなほど熟睡する私の耳に鐘の音が聞こえてくる。
鳴った回数は2回。
「んん」
〈マスターおはようございます! やっと起きたんですね……!
さあ、付与しますよ付与!〉
寝ぼけて目をこすりながらベッドから起き上がる私に、アイカが声をかけてくる。アイカはかなり興奮しているようで早口だった。
「ん。おはようアイカ、起きるの早いね……
……ってそれどうしたの!?」
見ると宿の部屋の床には大量のアイテムが散乱していた。その光景に一気に目が覚めた。
私の質問にアイカが答える。
〈マスターが昨日購入した剣に付与する魔法の触媒ですよ。フフフ……〉
そう言ったアイカはニヤリと笑みを浮かべていた。
アイカが悪い顔になってる!
〈さあ! マスター、この魔方陣の上に剣を置いてください!〉
アイカが目をキラキラさせながら私を急かす。
そんなに慌てなくても大丈夫だから。
私はそう思いながらパジャマのままベッドを出る。
机の上を見ると複雑な魔法陣が敷かれており、その上には禍々しく光る巨大な牙と、内部で風が具現化するほどに高いエネルギーを秘めた宝珠、他にも夜空の星を水晶に閉じ込めたようなキラキラ輝く石などが置かれていた。もちろん机の周りにも多種多様な素材が転がっている。
そして、魔法陣の中心には剣をモチーフにした記号が書かれていたので、昨日買ったばかりのミスリルの剣をゆっくりと鞘から取り出してそこに置く。アイカは、私が剣を置くのを待っている間、ソワソワしながら私を見守っていた。
「そんなにじれったいなら自分で置けばいいのに」と聞いてみると、私を所有者として登録するのに必要な儀式なんだとか。
所有者登録かあ、血とか使わないで済んでよかったよ。痛いのは嫌だからね。
そして、アイカは私が剣をおいたのを確認すると魔法陣の端に手を添えた。
〈マスター! 見ていてくださいね!〉
そういうアイカの輝く目を見ていると私も自然と期待してしまう。
なんかすごい効果が付与されそうな予感。
〈いきます!〉
──カスタムマジック──エンチャント──エアリアルエッジ
アイカが魔法を発動させると同時、机に敷かれた魔法陣が淡い光を帯びた。その上に置かれた剣も魔法の発動に呼応するように淡い光を放ち、ふわりと空中に浮かぶ。その剣を包むように魔法陣の帯が幾重にも生じた。そして、剣と同様に部屋中に置かれた触媒も宙に浮かび、剣の周囲を回り始めると、溢れた魔力による風が生じて私の髪を揺らす。
まるで私たちの頭上で剣と素材が踊っているようだった。
「ダンスしてるみたい」
私のつぶやきに得意になったアイカが魔法陣へと込める魔力を強めると、魔法の光が一段と輝きを増す。そして、触媒である牙や宝珠が剣に吸い込まれるように引き寄せられ、白い光となって溶けて剣身全体へと浸透していく。そうして素材が次々に剣に吸い込まれる度に、剣が放つ輝きが増していく。一定間隔で素材を吸収し光が強まる様はまるで剣が鼓動しているようだった。
やがて、空中に浮いていた大量の素材が持つ力はすべて一本の剣に集約される。その時には、剣は眩いほどの光を放ち大きさも元の倍以上になっているように感じられた。
〈仕上げます〉
アイカの少し緊張した声音と共に、この魔法は最終段階へと入る。
剣に集められた力を圧縮するように魔法陣の帯がゆっくりと引き絞られていくと、光の剣も徐々に小さくなり凝縮されていく。しかし、元の大きさへ近づくにつれ、無理やり押さえつけられた力の反発が加速度的に強くなる。暴れまわる力は紫電となり、荒れ狂う風によって私のパジャマの帽子が飛ばされる。アイカにも相当な負荷がかかっているのか、額には汗が滲んでいた。
大丈夫かな……。ちょっと心配になってきた。
手についた汗を服の裾で拭う。
〈もう少しですっ〉
私の心配を知ってか知らずか、アイカが前のめりになり魔法陣へと込める力を更に強める。
すると、迸っていた紫電ごと抑え込むように新たな魔法陣の帯が幾重にも発生した。ついには剣自体が見えなくなるほどの無数の魔法陣が生じ、暴れまわっていた力は制御され再び収束を開始する。
やがて魔法陣の繭が完全に剣身の表面と同化する。
その瞬間、剣が眩いほどの閃光を放ち──
──部屋は白に染まった。
「わっ!」
私は眩しさのあまり思わず目を瞑る。
「成功しました……!」
アイカがへたり込むようにそう言うと同時に、空中に浮いていた剣がガチャリと落ちた。そして、まるで豆腐でも切るように机を半分ほど切り裂き、静止する。
唖然。
私はポカンと口を開けたまま直立していた。
きっかり5秒後。
「今の見た!? すごい切れ味じゃん! やっぱりアイカの付与魔法はすごい!」
〈ふふふ! マスターやりました! 途中ちょっと爆発しそうでしたが大丈夫でした〉
興奮する私たち。
アイカが爆発とか物騒なことを言っているが、気にしたら負である。
そして、私はあることに気づいてしまった。
いや、見えてはいたけど所持金ゼロの私の頭が考えるのを拒否していたのかも知れない。
「アイカ、机……弁償しないと……」
〈あっ!!! マスター、ごめんなさいぃぃいいい!!!〉
「まあまあ、落ち着いて」
私は慌てるアイカを制して、剣を机から引き抜こうとした。
その瞬間──
スッパーン!
──机が真っ二つに割れた。
「あっ!!!!!」
〈あっ!!!!!〉
私にとどめを刺されてしまった木の机が、乾いた音を立てて床に転がった。
◇
結局、綺麗に縦半分になった机はアイテムボックスに隠し、代わりに取り出した虹竜のラウンドテーブル──机の表面には虹色に艶めく竜の鱗をタイルに見立てて散りばめられ、それを美しい彫刻が施された足が支えるゲーム内でも最高級の机──をしれっと置いておくことにした。
「安いものじゃないし、これで良いよね……?」
〈この部屋には高級すぎる気がしますが……〉
そのアイカの一言によって、部屋の内装を全て高級な物へ入れ替えるという劇的リフォームを行うことになったのだが、それはもう過ぎた話である。
「よし、証拠隠滅完了だね」
〈マスター、お疲れさまでした〉
達成感を噛みしめる私の脳裏に、何かがよぎる。
なんか忘れてる気がする……。
ドンドンドン!!!
部屋の扉が激しく叩かれる。
えっ! やばい!!! 怒られる!!!
机壊したのバレた!? それともうるさくしてたから!?
あああああ!!! どどど、どうしよう……!?
次回、『カミングアウト』。
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※作者もカミングアウト笑(偶然です)
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