新たな武器
ヴォレアド武具店にて、ジャンガリアンハムスターもとい、鼠人族のチュメールを撫でくりまわすこと10分。
途中からアイカも参戦して、たっぷりとモフモフを堪能させてもらった。私たちはご満悦だった。特にアイカは<透明化の魔法を作って正解でした!>と、満足そうな笑顔で言っていた。
うんうん、今度はアイカに我慢させないですんで良かった!
リオは私たちを待っている間、自分の装備の手入れをお願いしに行ったようだった。ヴォレアドの姿も見当たらないが、たぶんリオと一緒だろう。
チュメールは私の手のひらの上で、身だしなみを整えながら言う。
「コホン、確か欲しいのはショートソードっチュよね」
チュメールが店の一角を指差す。
「あの辺りにちょうど良い大きさの剣があったはずっチュ!」
私はチュメールが指差す方へと向かった。
見ると片手剣がいくつも樽に立てられている。傘立てに入れた傘みたいな感じだけど、傘じゃなくて武器なんだよね。抜身の剣が無造作に入れられていて、ちょっと危ないんじゃないかなと思ってしまった。
樽に入っている剣以外にも、壁に掛けられたものやケースに飾られている物まである。
「これが良いと思うっチュ!」
チュメールは私の手のひらから壁に掛けられたショートソードの柄へとジャンプした。
そのショートソードは、長さが80cmくらいで非常にシンプルなデザインだった。切先は鋭く尖っており、剣身は柄のほうに向けて徐々に太くなっている。剣身に何か特殊な文字が刻まれているわけでもなく、何の変哲もないショートソードだった。
「なんか普通」
私は思わず呟いていた。チュメールの耳がピクリと動く。
私はしまったと思って慌てて口を押さえるが、時既に遅し。
「よいでチュか! この剣はでチュね!」
チュメールが言うには、この剣の形状はダンジョンでの乱戦で戦いやすい長さ、刺突に向いた切先、身幅を徐々に太くすることで重さを押さえながら必要な頑強さも確保しており、洗練された形状なんだとか。
そして、何と言ってもこの剣の最大の特徴は軽いことである。極力軽くするために、剣身は通常のものよりも薄く仕上げているが、それでも強度が落ちないように工夫があった。それは、あるモンスターの甲羅を粉末にして練り込んだ特殊な金属を使うということらしい。それによって、通常品よりも圧倒的に軽くし、しかも頑強さも通常品とは比べ物にならないようだ。その剣身に使用している金属というのがミスリルというファンタジーものでよく聞くもので、魔法付与とも相性が非常に良いんだとか。
その"魔法付与"という単語を聞いたアイカが、<私! 私が付与します!!!>と念話とは思えないほど大きな声で主張していた。
「この剣を作る時は三日三晩かけてオイラも含めた家族全員で魔力を注いだんでチュから! ミスリルは扱うのに魔力も使うんで、とっっっても大変なんっチュよ!! ぜえぜえぜえ」
チュメールは身振り手振りを交えて、小さい身体をめいいっぱい使って熱弁していたが、ついに息が切れてきたようだ。
「ごめん、普通とか言っちゃって」
「いえ、分かってくれれば良いっチュ。さあ早速、振ってみるっチュ」
私は剣身で手を切ったりしないように気をつけて壁から剣を外す。
「軽い……」
「そうっチュよね、そうっチュよね! 軽さにこだわったんでチュから!」
上機嫌な様子のチュメール。
「うん。良い感じかも!」
「では、第一候補はこちらとして、他も試してみるっチュよ!」
調子に乗ったチュメールの案内で、私が店中の片手剣を試し終える頃、店の奥からリオとヴォレアドの二人が戻ってきた。
「なんだ? 嬢ちゃんまだ決まってねえのか?」
「いえ、これにしようと思うんですが、せっかくなので色々試してみたくって」
「まあ、納得いくまでやったら良いさ。
ところで嬢ちゃん、腰のモン鑑定させてもらっても良いか?」
え? 鑑定!?
鑑定って、ゲームではレアスキルだったけど、装備とかアイテムの能力を全部解析しちゃうあれだよね? 焔竜剣を見られると色々まずいかも! やばい、油断しちゃってた!
「あの! ごめんなさい遠慮させてください!」
「ああ、いやすまねえ。ついな! 気にしねえでくれ」
無許可での鑑定はタブーなのか、あっさり引き下がってもらえた。
さっきからこのヴォレアドって人、厳つい見た目の割にグイグイこないから意外と好感がもてるかも。サイって草食動物で元々臆病だし。まあ犀人族とは関係ないのかも知れないけど。
そう思いつつ、私はちょうど最後の一本を試し終えた。
「良し! やっぱり最初に勧めてくれたコレにします!」
私はミスリルのショートソードを指差した。
「ほう、そいつを選ぶたあ嬢ちゃん見る目があるな!」
「軽くて扱いやすそうだったので」
付与魔法についてはあえて触れないでおく。
「まあ、そいつなら長く使えることは間違いねえからな。大事にしろよ」
「はい」
大事にしろよと言うヴォレアドの顔にはどこか、大切な娘を嫁に出す父親のような複雑な表情が見え隠れしていた。
「そんじゃ一万ベルだ」
「…………………」
「お前どうしたんだ?」
リオが固まっている私の顔を覗き込んでくるが、私の頭の中は"一万ベル"という言葉で埋め尽くされていて目に入らない。
一万ベル……?
<マスター、一万ベルだと日本円に換算するとおよそ100万円くらいですね。物によって物価が大きく違うのであくまで目安ですが。ちなみに今の手持ちは542ベル、銀貨5枚、大銅貨4枚、小銅貨2枚です>
アイカがこっそり私に教えてくれる。
たりなーーーーーい!!!!!
え? お金がぜんぜん足りないよ?
一万ベルなんて払えるわけないじゃん!!!
みるみる青ざめていく私の顔を見てリオがまさかという表情を浮かべる。
「お前、もしかしてお金無いのか?」
「いや、えっとその、あの……」
口ごもる私。
ゆっくりとポーチに手を入れ、有り金全部を取り出し店のカウンターの上へと置く。カウンターの上にちゃらりと小銭が散らばる。
「これでなんとかなりませんか……?」
「いや、全然足りねえだろ!」
リオが何いってんだお前という感じで叫ぶ。
私はダメ元で、ドラゴンズリングでの通貨であるゴールド金貨も追加で一枚だけ取り出してみる。これなら私の手持ちだけでも数百億枚はあるんだけど。
「えーっと、これじゃダメですよね……」
「見たこともない硬貨だ。どこの物か知らんがダメだな。しっかし珍しい物もってる嬢ちゃんだな。どわははは」
ヴォレアドからあっさりNG判定をくらう。
やっぱりダメだったー!!!
どうしようお金ないよ!
もちろん、今から選び直すという選択肢も無くはないんだけど……。
そう思って床に転がる大量の剣を見て、やっぱり思い直す。
あの中から選べる自信なんてない。
葛藤している私に、リオが呆れたように声をかける。
「あのなあ、お前金持ってねえならなんでそれを先に言わねえんだよ……」
「えーっと、その、ごめんなさい!
リオさん、お金貸してくれませんか?」
私、ヴォレアド、チュメール、そしてカウンターの後から顔を覗かせているチュメールの家族たち、皆の目線がリオに集まる。
「は? なんで俺が……!」
「すぐに返すから! なんなら担保にこれ!」
私はアイテムボックスからお金になりそうなものを取り出す。
スクロール、宝石、指輪、髪飾り、野菜等々……私が骨付き肉を出そうとしたあたりでリオが折れた。
「待て待て! こんな所でそんなもの出すな!」
リオは「はあ、なんで俺が……」などとブツブツ言いながら腰のポーチに手をかけた。
「分かったよ、これでいいんだろ……
でもぜってえ返せよな!」
「は、はい! もちろんです!」
リオが金貨袋を机の上に置く。
「おいおい、リオ、お前そんなに金持ってたのか?」
ヴォレアドが少し驚いた用にリオの顔を見つめる。
「ああ、この前いつもより深くを探索して、たまたまマジックアイテムを見つけたんだ。
これはその時の傷だよ」
リオは頬に着けている傷あてを指差しながら苦笑いを浮かべる。
「まあ、二年間こつこつ貯めた分も半分くらいは含まれているんだけどな?」
リオがそう言って私の方をジトッとした目つきで見てくる。
ひいっ! 分かりましたちゃんと返しますから! そんなに睨まないでくださいーーー!
帰り道。
こっそりアイカと会話をする。
「ねえアイカ、鑑定魔法ってこっちの世界にもあるんだね」
<そのようですねマスター>
「ネトゲではレアだったからすっかり油断しちゃってたよ。危なかったね。
ちなみにアイカは使える?」
<いえ、でも女神に申請すればあるいは……>
「それじゃ聞いてみてくれる?」
<了解です。申請が通れば使えるようになるはずです>
「助かるよ!」
アイカは<対価を払う必要はありますが>と誰にも聞こえないくらい小さな声でつぶやいた。
結局、私は一文無しになり、リオも全財産の大半を支払って買った剣がいま私の腰から下げられている。「お金貸してもらっといてなんだけど、頼まれたからってあったばかりの他人に大金貸すかなあ」と疑問にも思ったがあまり深くは考えない。早めに返せば済むことだし。
まあ、色々あってもう夕方になっちゃったけど、武器も買えたことだし明日はダンジョンに行けるよね!
次回、『魔法付与』。
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読んでくださってありがとうございます!
新しい武器はミスリルのショートソードでした! アイカは魔法付与したくてうずうずしています!
リオには災難でしたが、きっと近いうちに返ってくるでしょう!
お金の貸し借りはあっさり人間関係を壊したりしますが、二人の関係は
うまくいくことを祈りましょう!
さて、続きが気になるという方は、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想(一言二言だけでも)で聞かせてください!




