幕間 ~シェリオ~
──ローラ視点──
私がギルドの受付を始めてから半年経った頃、ある銀髪の狼獣人の少年がボロボロの姿でギルドにやってきたのです。
名前はシェリオですが、皆からはリオって呼ばれてるです。
リオくんはすごい攻撃回避能力をもってるから、すぐに有名になったです。
私より遅くに冒険者ギルドの仲間に加わったのに、攻撃を感知する能力もあって、あっという間にヒーローになってしまったです。最初はボロボロだったけど、いまでは革の動きやすそうな防具を着けていてカッコいいです!
そんなリオくんにちょっと憧れていたのは内緒です。
でもいくつかのパーティーを転々とした後、パーティーを組まなくなってしまったです。
「パーティーを組まないですか?」
私は、リオくんを呼び止めてギルドでパーティーを推奨している理由を説明したです。
何かあってからでは遅いのです。
でもリオくんは、
「馬が合わない。一人でいい」
とぶっきらぼうに言っていたです。
「でもリオくんの回避能力はすごいのです! きっと女神様からの贈り物です!
気の合うパーティーだってすぐに見つかるですよ!」
「これは贈り物なんかじゃない。呪いだ」
それからリオくんの態度が急に変わったです。
前からぶっきらぼうな言い方しかできないでしたが、今は棘があるです。
もう、知らないです!
「くん」だって着けてやらないです! これからは他人行儀に「リオさん」って呼ぶです!
そうです他人です!
リオさんの事なんてもう好きじゃないです!
嫌いです!
──シェリオ視点──
俺はいつものように、少し遅めの時間を狙って冒険者ギルドにきていた。
この時間だと人が少なくて良い。
俺は"一人"で受けられる依頼を探していた。
そうして掲示板の前で依頼を吟味していると、ギルドの入り口が何やら騒がしい。
──何かあったのか?
見てみると、緋色の髪の女が尻もちを付いていた。
装備の仕立ては良いみたいだが、あの色の革はこの町でもたまに見かける物だ。ぱっと見ただけだと、ドラゴンの革のように見えなくもないが、駆け出しどころかまだ冒険者でもないやつが、そんな上等な物を誂えられる訳がない。おそらく雨季に大発生するレッサー・レッドトードの革だ。火に強い以外は何の取り柄もない、ただの革の服だろう。
そうして女に気づかれることなく観察しているやつが俺以外にも何人もいた。
あの女……初めて見る顔だ。
新入りか?
そう思っていると博打好きなグオンが、女をヒョイと持ち上げた。
まるで子供だな。
「あまりにどんくせえから人間族かと思っちまったぜ」
グオンにそう言って笑われた女は、怒るでもなくただ驚いた顔をしていた。
女はグオンと少し会話をした後、キョロキョロしながら受付カウンターの方へと歩いて行った。
やはり冒険者登録に来たのか。
だとしたら、シューレルの所は止めておいたほうが良いんだが……。
あいつめちゃくちゃ強いからな。
あれだけ短剣つかえて本職は弓だって言うんだから、相当にヤバイやつだ。
わざわざそんな強いやつの試験なんて受けることねえのに。
まあ俺も、うっかりあいつに手続き頼んじまった口だからな。
あの時はコテンパンにやられたもんだぜ。
◇
緋色の髪の女の試験を見ていると、シューレルの圧勝だった。
あいつは元冒険者でダイヤ級だからな。新人じゃ相手になるはずがない。
にしても、あの女はいくらなんでも弱すぎる気もするが、わざとやってんのか?
そんな事を考えながら、他人事と思ってゆったりと構えて観察していたのだが。
女が振り上げた剣が手からすっぽ抜けていた。
放物線を描きながら回転する両手剣が、真っ直ぐ俺の方へと向かってくる。
「あっ!」
ローラが声をあげる。
俺は気づいたときには、反射的にジャンプして空中で剣をキャッチしていた。
しまった!
思わず取っちまった……くそ……!
あまり目立ちたくないんだよな。目立つとろくなことがない。
俺をチラチラ見ながら周りの奴らが話している声が聞こえる。
「おい、今のって……」
「リオじゃねえか?」
「ああ、腕は悪くわねえんだが、いつも一人でパーティーも組まねえ変わったやつだ」
俺は苦虫を噛み潰したような気分だった。
この剣、どうするか……。
やっぱギルド職員に返すしか無いよな。早くこの場を離れたいのに。
面倒くさい。
俺は内心で舌打ちをし、ギルド職員の方へと両手剣を持っていく。
試合が終わって見に来ていた冒険者たちはギルドの方へと向かうが、俺は反対にその人混みの中心へと向かう。その冒険者たちの方から、女の事を話している声が聞こえてくる。
「あんな、へなちょこ剣技じゃ命もあぶねえな」
「おれはぜってぇ組まねえぞ」
「だいたい、自分にあった武器っちゅうもんが分かってねえ」
俺への興味よりも、あの女への興味のほうが強いようでラッキーだった。
ギルド職員に近づくと二人は、困った顔で会話をしていた。
「ローラ、やはりハルさんと組んでくれるような方は居なさそうですね」
「うーん、皆さんの今の反応だと難しいかもです。しばらくはパーティー募集をかけながら、上層で安全な依頼を進めるのが良いと思うです」
確かに俺もそれは同感だ。
時に味方は敵より怖いからな。
俺もなるべく関わりたくない。
そう思いつつ、俺は持ってきた両手剣を二人に差し出した。
「この剣……返す」
俺が剣を差し出すが、二人は剣を受け取らずに俺の顔をじっと見つめる。
そして二人でちらりと目配せしてから、
「いました!」
「いたです!」
と叫んだ。二人同時に。
ちょ、まっ! 二人とも目が怖いぞ!
そう思って俺は一歩後ずさる。
「コホン。あー、リオさん」
「何だよ!?」
シューレルは「ちょうど良いところに来てくれましたね」といって、怪しく瞳を光らせながら、罠にかかった獲物を見るような表情をこちらに向けてくる。
俺は身構えた。
しかし不思議と悪意は感じない。なぜだ?
「確かリオさんは、ここしばらくパーティーを組んで居ませんでしたよね?」
「そ、そうだが……」
俺がしどろもどろに肯定した瞬間、シューレルがニヤッと笑った。
お前の笑顔って怖いんだよ!
「でしたら、この娘と組んでくれませんか?」
「嫌だ!」
俺は即答した。
こいつのへなちょこ剣技を見て、組みたいと思うやつなんて居る訳がない。
「まあ、そう言わずに、助けてあげると思って……」
ちらりとシューレルに抱きかかえられた女を見ると、幸せそうな顔をして伸びていた。
これってお姫様だっこって言うやつだっけか。
そう思っていると、胸元の"ある物"がちらりと見えた。
ん?
これは……ポプルの……。
──それは見覚えのある"ポプルの首飾り"だった。
見覚えがあるどころか、懐かしくすらある。
故郷の村に伝わる伝統的なお守りだ。
この女もしかして──。
そう思って首飾りに手を伸ばす。
本当に故郷のものと同じか確かめたかったからだ。
もしかしたら、よく似た別の物かも知れない。この女は、見た所村の出身でもないようだし、どちらかと言うと、信じられないという気持ちの方が強かった。
パシッ!
女の胸元に伸ばした手がローラに叩かれた。
「何すんだ!?」
「リオ"さん"、気を失っている女の人の胸を触ろうとするなんてダメです!」
ローラが怖い顔でそう言った。その後、「あ、気を失っていなくてもダメですけど……」とゴニョゴニョ言っているローラをおいて、シューレルもローラに賛同した。
「そうですよ、リオさん。女性は大切に扱わないと」
シューレルもジトッとした目でこちらを見てくる。
「ち、ちげえよ! 俺はただ首飾りを見ようとしただけで」
「ホントですかねえ……」
シューレルが訝しむように言うとローラも加勢してくる。
「リオさん! 目がいやらしいです! 変態です!」
「なんだと! このチビ狐!」
「ムキーーーッ!!! 狐をバカにするなです!
だいたい狼は品がないです!」
「狐だってガサツだろ! それに短気だ!」
「狼は嘘つくです! 本当はパーティーに入れてもらいたいくせに意地はってるです!」
もはやこの状況と関係のない悪口の応酬が続く。
「ははは。お二人は本当に仲が良いですね」
「仲良くねえよ!」
「仲良くないです!」
図らずしも、二人同時に答えてしまった。
プイッと顔を背けるローラ。
バツの悪さに押し黙る俺。
俺も少し興奮しすぎた。
……ふう。
頭を冷やさなきゃな。
そう思って深く深呼吸をする。
俺が落ち着いたのを見計らってシューレルが言葉を紡いだ。
「それで? この娘とは組むんですか?」
しばしの沈黙。
この首飾りの事は聞きたい。
どこで手に入れたのか。見つけたのか、拾ったのか。
そして、どうして着けているのか。たまたまなのか、いつもなのか。
この首飾りの意味を知っているのか。
もし首飾りの意味を知っているなら、あるいは故郷の事も──。
「………………分かった。一回だけ組んでやる」
次回、『新たな仲間』
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読んでくださってありがとうございます!
そしてブックマーク追加もありがとうございました!!
今回は次章に入る前に、シェリオの紹介的な話を差し込ませていただきました!
主人公は気絶して眠り姫状態なので、新キャラに焦点を当てて書いてみました!
蛇足ですが……
「手を出さないで」と言われていたアイカは歯噛みしながら遥香の様子を見守っていました。
よく我慢しました! えらい!!!
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ついでに作者の執筆意欲にも繋がります(笑)
もちろんブクマも大歓迎です! 是非お願いします!




