試験
「ほへ?」
ギルドのイケメン受付スタッフのセリフを聞いて、思わず素っ頓狂な声が出た。
「風早くん、いまなんて言った?」
〈マスター、彼の名は風早ではなくシューレルです。
『僕と本気で戦ってもらいます』と言っていましたね〉
え? 戦う?
しかも本気?
なに言ってるの???
シューレルのイケメン顔を見て舞い上がっていた気持ちが一気に冷めた。
「えーっと、ごめんなさい、本気で戦うってどういう事ですか?」
「言葉通りの意味です。迷宮では魔物との戦いは必須ですからね。あなたの強さを見させてもらいます」
シューレルは改めて説明をしてくれたが、最後に少し困った表情で先程も言ったんですがとポツリと呟いた。
ごめんなさい! ちゃんと話きいてませんでした!
ちょっと反省。
「ですから実力を見せてもらうためにも本気で戦ってもらう必要があるんです。さあ戦いましょう」
にっこりそう言われても……戦うなんて大丈夫かな……。
そう思いつつも彼の案内で、ギルドの脇にある訓練場へと移動する。
「ああ、それから、もちろん僕はちゃんと手加減しますから安心してください。弱い者を痛めつける趣味はありませんから。それに実力を見るだけなので、僕に勝てないからと言って冒険者になれないという訳でもありません」
カッチーン!
手加減?
弱い者?
上から目線のシューレルにイラッときちゃった。
入り口で転んだから下に見ているのかも知れないけど、あれは気を抜いてたからだし!
これでもゲームでは強かったんだから! それに、いまなら女神装備もあるし! 負けないよ!!!
──格好良く勝って冒険者デビューするんだ!
私はちょっとだけ本気を出しちゃおうと思うのであった。
◇
ギルドがある城を抜け、屋外へと出る。
そこが訓練場だった。
藁でできたカカシや訓練用の武器が置かれており、そして石畳には決闘を行う時に使いそうな円が描かれていた。
「ではこの中からお好きな剣を選んでください。ああ、安心してください。刃引きしてありますので」
「これにしようかな」
私はゲームで使い慣れていた両手剣を選ぶ。
「おや、両手剣ですか? それだと少し重くないですか?
ハルさんの体格でしたらこちらのショートソードかレイピアが良いと思うのですが……」
「こっちの方が慣れているので大丈夫です」
シューレルは、親切のつもりで言っているのかも知れないが私は聞く耳を持っていなかった。
だって、好きなのを選んで良いって言ったじゃん!
絶対負けない! この両手剣で勝つ!
ゲームでは使いこなしてたし、女神装備のおかげで問題なく持てるもん。
少し意固地になり過ぎかも知れないけど、勝てば良いんだよ。勝てば。
だいたい受付のお兄さん相手に、負ける訳なんてない!
この時の私はシューレルの事を完全に甘く見ていた。
「アイカは手を出さないでね」
〈了解です! 正々堂々と一対一で戦うんですね! カッコいいです!〉
女神装備を使う訳だし正々堂々かどうか分からないけど、アイカには手出ししないようにきちんと釘を指しておく。せめて一対一という点は、きっちり守ろうと思う。
防具はいつものクリムゾンシリーズを着用している。女神装備の力もきちんと発動することを確認する。
よし、戦う準備はいつでもOK!
私が自信満々でストレッチをしていると、シューレルが制服の上着を脱ぎながら徐に口を開いた。
「ああ、それから──
──そのマジックアイテムは外してくださいね。
貴方の本当の実力を図れませんから」
シューレルがそう言ったとき、彼の眼がキラッと一瞬光ったように見えた。
私の心の中では大慌てで緊急会議が開かれ、どうすべきかの議論が始まった。
ひえ! それっていま言う!?
女神装備外したら、この両手剣すんごく重くなっちゃうよ!?
っていうかまさか、これが女神装備だなんてバレてないよね???
え!? だとしたら、めっちゃヤバくない!?!?
もちろんシューレルは心の中の会議の結論を待ってはくれない。
「なにかまずいことでも?」
「い、いや、大丈夫です!」
(あーーーーーっ! 私のバカバカバカァーーーーーッ!
武器変えさせてって言えばよかったのに、つい大丈夫って言っちゃったよぉおおお!)
仕方がないので、女神装備のアクセサリを外して腰のポーチへとしまう。ちなみにポルクス村を出る時に渡された首飾りも外そうとしたが、「宗教的な物は外さなくて大丈夫ですよ」と言われたのでそのままにした。ただのお守りで、宗教は関係ないんだけど。
女神装備を外した瞬間、両手剣の重量が何倍にも増えたような気がした。もちろん、腕力が落ちただけなのだが。
ずっしりと重たい両手剣を持ち上げてみる。
(っく! 剣おもっ!)
持ち上げるのがやっとで、自在に振り回すなんて夢のまた夢だった。
「それでは、こちらへ来てください」
◇
演習場の中央。
円形の決闘場の中で、向かい合う二人。
もちろん私と受付スタッフのシューレルである。
いつの間にか、ギルドの大広間にいるはずの面々がギャラリーとして集まってきていた。見ると、入り口で合った虎獣人の大男もいた。やけにニマニマとしているのが気になる。
「なんかいっぱい人集まって来ちゃったなあ」
ため息交じりにそう呟く。
〈当然です! 世界一美しいマスターの事を見に来ないわけがありません!〉
自信満々にそういうアイカの言葉を聞きながら、周りを見ていると白銀の髪に金色の瞳を持つ狼獣人の少年と目があったような気がした。
(あの人さっきから私のことじっと見てる気がする……)
そう思っていると、ギャラリーの一部がざわめき始めた。
見ると女性スタッフの一人である、ちびっこ美少女がその人混みをかき分けて前に出てくるところだった。身長より大きな大杖を持っている。
「ああ、来てくれましたかローラ」
「はいです! おまたせして、ごめんなさいです!」
どうやら彼女が審判と怪我の治癒を担当してくれるらしい。
「それより、この人だかりは何ですか?」
「それは……あの、えっと、グオンさんがその……」
彼女がしどろもどろに言うには、グオンがこの勝負で賭けを始めてしまったらしく、多数の冒険者が乗ってきた為にちょっとしたお祭り騒ぎになってしまっているようだった。
(あいつかー!!!)
どうりでニマニマしている訳である。
後でちゃんと分け前を貰わないとね!
「はあ、またですか……。
まあ良いです。始めましょう。ローラ頼みます」
「はいです! ハルルさん、でしたっけ? 準備はいいですか?」
「えーっとハルルじゃなくてハルなんだけど……」
「あわわ! ごめんなさいです! ハルさん!」
「大丈夫。いつでも良いよ」
「ふう……それでは……始めてくださいです!」
ローラが開始を宣言する。
私は両手剣を下段に構え、真正面にシューレルを捉える。
なぜ下段なのか──
──それは単純に両手剣が重すぎて、剣先を長時間持ち上げていられないからである。
よく見たら、剣先が地面に着いちゃってる事に気づかれちゃうかも知れない。※よく見なくても皆さん気づいています。
早く終わらせないと腕がプルプル震えちゃいそう。※もう既に震えています。
一方、シューレルの眼は油断なく私を捉え、頭頂部の耳もこちらを向いて警戒しているのが分かる。彼は両手にそれぞれ短剣を持っている。左手で逆手に持った短剣を正面に、もう一方の手は背後に隠し、全体的にゆったりと構えていた。
昔は弓を使っていたと言っていたが、いま構えているのは短剣だった。
「弓じゃないんだ」
口をついて出た言葉に、シューレルの顔に一瞬影が指したような気がした。
「昔、色々ありましてね。
さあ、先に仕掛けていいですよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて! 行きます!」
私は渾身の力を込めて両手剣を大上段までぐいっと持ち上げ、勢いよく振り下ろ────せなかった。
両手剣を持ち上げた辺りで、私の意識は途切れた。
その瞬間、彼が私の背後で「隙だらけですよ」と言ったのだけは分かった。
遥香が気絶した瞬間。
「あっ!」
誰かがそんな声を上げる。
気を失って崩れる遥香を支えるシューレルの頭上では、遥香が振り上げた両手剣が放物線を描いて、観客達の方へ向けてクルクルと回転しながら飛んでいた。
シューレル、ローラ、その他大勢の観客たちがポカンと口を開けてその剣を見つめる。
そんな中、一人の銀髪の狼獣人の青年が軽く跳躍し空中にてこれをキャッチした。
少年の名はシェリオ。
これが私と彼との初めての出会いだった。
もちろん、気絶している今の私には知る由もないことだが──。
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第三章 首都エルドミトス 観光編 ─ 終 ─
次章 首都エルドミトス 冒険者入門編
次回、『シェリオ』。
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読んでくださってありがとうございます!
第三章完結!
二人とも、これから迷宮攻略がんばれ!!!
少しだけ幕間で新キャラをお見せしてから次章をスタートさせる予定です!
次章からも二人の応援よろしくおねがいします!!!
もし、ここまで読んで『続きが楽しみ!』『面白かった!』と
思っていただけていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!
執筆の励みになります!!!




