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夕食

 月夜のペガサス亭。

 その扉を開けると中はほぼ満席だった。


「おまちどうさま、ダイオウリクイカの白ワイン蒸しだよ!」

「おお、こいつは美味そうだ!

 モニーユ! エールのおかわり人数分追加だ!」

「あいよ! ポルクス大麦のエール6杯ね!」


 モニーユと呼ばれていたのは昼間カウンターで応対してくれた牛人族の女性だった。彼女がちょうど料理を運んでいたときに、私に気づいて声をかけてくる。


「おや、おかえりなさい! 案外早かったね! このまま夕食にするかい?」

〈ハイです!〉


 アイカが元気に返事をするが、彼女には見えていないし聞こえてもいないので、全く気づかれない。


(アイカが答えてもしょうがないじゃん)


〈っは! そうでした!〉


 早く食べたくて仕方なくて返事までしてしまうアイカの代わりに、私が答える。


「お願いします」

「あいよ! それじゃあ持っていくから適当に開いてる席に座っとくれ!」


 私は席に座って周りを観察しながら待っていた。

 犬獣人や猫獣人、獣人度合いが濃い人や、パット見は人間にしか見えない人も居るし、中にはハーフっぽい人もいる。客層も様々で、カップルや家族連れが比較的多いように見える。料金設定のせいなのか、比較的裕福そうな人が多いように見える。


 私が人間観察に精を出しているとモニーユが最初の料理を運んできた。


「おまたせ! これから何品か運んでくるけど追加注文もできるからね」


(だってさアイカ。食べたいのあったら言ってね)

〈了解ですマスター! いっぱい注文するです!〉


 モニーユが最初に持ってきた料理をテーブルに置く。


「バクレツレタスとレッサーリトルドラゴンの生ハムサラダだよ」


 みずみずしい葉野菜の上に贅沢に生ハムを載せたサラダだ。酢とチーズで作ったコクのある白いドレッシングがかけられている。

 名前はともかく、生ハムをのせたシーザーサラダといった感じだった。


「飲み物は注文するかい?」

「どんなのがありますか?」

「お茶や果物のジュースが何種類か。お酒だと、ぶどう酒、蒸留酒、それから蜂蜜酒……

 あと今日のオススメはやっぱりポルクス大麦のエールだね。ちょうど今日良いのが入荷したところなんだよ」


(もしかして、ポルックさんが運んでたのかな……。でも首都の中には入っていないはずだけど)


 私はお世話になった村の特産っぽいお酒を頼むことにした。


「それじゃ、そのエールをください」

「あいよ」


 エールはすぐに運ばれてきた。


「ポルクス大麦のエールね」


 注文したエールは木製の樽型マグに波々と注がれた状態で運ばれてきた。テーブルに置いたときの勢いで、中身が少しこぼれる。私は容器が中世風のデザインだったことに感動して思わず声がでそうになっていた。


「さあ、冷えてるうちに飲んどくれ! おかわりもまだまだあるからね!」


 私は大きめの木製マグを両手で持ち、慎重に一口飲んでみる。

 アイカも自分用のジョッキをアイテムボックスから取り出して、小さじ一杯分くらいの量をすくい取った。


〈マスター! すっごくいい匂いです! これがホップの香りなのでしょうか?〉

「多分そう! いい香りだね」


 味よりも先に香りを感じた。

 爽快な香りに優しく鼻を撫でられ、幸せな気分になる。飲み口はとてもあっさりとしており、後味はエール特有の程よい苦味とコクを感じられる。


(昔、先輩に連れて行ってもらったビアバーを思い出すなあ)


 そうして私がエールの味を堪能していると、次から次へと料理が運ばれてきた。


 スズナリキャベツとミギキキロブスターのキッシュロレーヌ。

 キングマダラジマサーモンのカルパッチョ。

 ダイオウリクイカの吸盤の白ワイン蒸し。


 近くに海があるとは思えないが、運ばれてきた料理はシーフードが中心だった。

 当然だが、どの料理もアイカ用に作られている訳ではないので、私が彼女用に小さく切ってあげている。アイカはそうして切り分けた料理を次から次へと美味しそうに頬張っている。たまにエールを飲んでプハーッとやっているのを見ているのが楽しい。周りの人の様子を見て覚えたのだろうか。


(それにしてもここの料理、名前が陸烏賊だったりするし、もしかしたら陸の生物なのかも)


 そんな事を考えながら、吸盤の白ワイン蒸しに目をやる。

 広げた手と同じくらいの大きさの吸盤がドーンと皿の中央に盛られつやつやとした光沢を放っている。上からは小さく刻んだ緑色の香草がかけられており、その香草と白ワインにより特有の生臭さが和らぎ、食欲をそそる香りが湯気とともに立ち上っている。

 皿の脇には緑色の柑橘系の果物が半分に切られて添えてある。


(それにしても大きい)


 かなりの大きさの吸盤なので、小さく切り分けようとナイフを入れるとしっかりとした弾力が伝わってくる。切り分けたら、そこに柑橘の果汁を絞ってまんべんなく回しかける。そして、こっそりアイカにも渡しつつ、自分でも食べてみる。

 口に含むとバターのような濃厚な香りが広がる。


〈プリプリしてて美味しいです!〉


 噛むとアイカの言う通り、ぷりっとした食感があり、その後にねっとりとした甘さを感じられる。


「おいしい……!」


 たまらずワインが飲みたくなったので、モニーユを呼んで追加注文した。


「シャルル・ドワレゴ14世だよ。口に合うと良いんだけどね」


 まるで何処かの偉人の名前のようだが、れっきとした酒の名前である。琥珀色で蜂蜜酒のような芳醇な香りと、豊かなコクと酸味が特徴の白ワインだった。


「濃い……」


 香り、味ともにとても濃いワインだった。

 大学時代からの友達と巡った山梨のワイナリーを思い出す味だった。

 比較的さっぱりとした味わいの酒蒸しと非常によく合うワインだと思う。酒を選ぶのは奥で料理をしている店主の仕事のようだが、グッジョブである。



 次に運ばれてきたのはパスタだ。


「大渦巻サザエのガーリックだよ。うちの看板メニューさ」


 湯気とともに香るのは、食欲をそそるニンニクとオリーブオイルの香りだ。

 分厚く切られたサザエと、狐色に炒めたニンニクがオイルによって麺とよく絡んでいる。その上からは小さく刻まれた海苔と小ねぎのようなものが散らされ、艶のある麺とのコントラストが映える。


「美味しそう……」

〈マスター、早く食べましょう……!〉


 アイカも口元を拭いながら自分の背丈と同じくらいの大きさのフォークを構えている。

 その口元からはよだれが零れそうになり、目をランランと輝かせている。


 私もフォークを手に取り、ニンニクとサザエを刺し、麺を一口サイズに巻き取った。そして、香りをかいでからゆっくりと口に含んだ。

 コリコリとしたサザエ、ホクホクの厚切りニンニク、もっちりとした麺の食感が口を歓ばせている。ソースはサザエの凝縮された旨味の他に、隠し味なのか他の魚介系の旨味も感じられるような気がした。


 正直言って、このパスタだけでお腹を満たしたいと思えるほど美味しかった。看板メニューと言うだけはある。


(もう1皿頼んじゃおうかな)


 アイカを見ると、口の周りを汚しながら一心不乱にパスタを食べていた。私のことを待てなかったようで、皿から直接食べているが他の人から見たら、皿の上のパスタが突然消えたように見えるのだろうか。

 まあ少し心配だけど今は食事に集中しよう。


(少し前に言ったばかりだし、アイカもそこまでうかつじゃないよね)


 ◇


 私たちはその後、主にアイカの食欲を満たすために、何品も料理を追加注文した。

 ボードに書いてあるメニューのなかで気になる物を全て注文する勢いだった。


 スカイバスのカツレツ。

 シマイ貝とオンソク海老のブイヤベース。

 シールドシャークとスナホタテのグリル。


 などなど、次から次へと料理を注文した。もちろんサザエのガーリックのおかわりも頼んだ。

 そんな私にモニーユはかなり驚いていた。


「嬢ちゃん見かけによらず良い食いっぷりだねえ」


 最後に頼んだデザートのモモルのパイとお茶を持ってくる際にモニーユに聞かれる。


「たくさん注文してくれるのはありがたいんだけど、いったいどこに入ってるんだい?」


 私は心の中で答える。


(アイカの中です)


 おなかがいっぱいになったところで、部屋に戻って就寝である。


「アイカ、明日はダンジョンに行ってみようね」

〈楽しみれすねぇ。あ、れもモーニングもひゃんと食べますから……ふわぁ……〉


 寝る前に簡単に明日について打合せをしたが、アイカはお酒もまわって随分と眠そうにしていた。

 それでも明日の食事の事はしっかりと考えているようだった。

 こうして、首都エルドミトスで初日の夜が更けていった。

次回、『カフェ』。


**************************


読んでくださってありがとうございます!

そして、評価も頂きありがとうございます!

執筆の励みになっています!!!


今回はグルメ回でした!!!

たっぷり銀貨8枚分の食事でした。これでもモニーユさんがまけてくれています!

ちなみに残金は572ベル。銀貨5枚、大銅貨7枚、小銅貨2枚です。

そろそろ働かないと、いよいよお金が無くなってきそうです!


もし、『美味しそう』『食べてみたい』と

思っていただけていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!

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