ステルスモード
今回はボリュームたっぷりの7000文字です!
───遥香視点───
月夜のペガサス亭の一室。
そこで私たちはアイカの隠れ方について話し合いを始めていた。
「やっぱり、耳飾りだとダメなんだよね?」
<ダメという訳ではないですが、できれば自由に行動させて頂きたいです>
「なにか良い方法はないかな?」
私がそう聞くとアイカは指を立てて得意げに説明を始めた。
<私のシミュレーションによると、人化や動物化、魔獣化、透明化あとは……>
アイカがいくつも案を挙げていく。
中には、見えないくらい小さくなると言うアイディアなんかもあった。
「それで結局、アイカはどれが良いの?」
<うーん。
ちょっと考えさせてください>
きっかり1分後。
しばらく考えた後、アイカが結論を出した。
<マスター、透明化で行きます! 名付けてステルスモードです!>
「でも透明化って……」
私は、ポルックが言っていた話を思い出す。
「確か透明化とかそういうのを見破る獣人も居るんじゃなかったっけ?」
そう聞いてみると、アイカは想定質問ですと言わんばかりの得意満面の笑みを浮かべる。そして胸を張って説明を始めた。
<マスター、問題ありません! 視覚的に透明化した上で、匂いや音など五感全てに対応させますので、存在を知覚できることは物理的にありえません! 具体的には魔法で……>
アイカが自信満々に言うには、五感情報全てを魔法で隠蔽しそこに居ると認識させないようにするらしい。アイカの説明は、後半の空気の流れとかって話の辺りで私の理解の範囲を超えちゃったけど、要するに完璧な魔法らしい。
<魔法式の構築は少々骨が折れそうですが、構築した式を何かに封じ込めておけば……>
説明を終えたアイカは魔法の準備をはじめていたが、どうやら大掛かりな魔法らしく珍しく難しい顔をしている。
アイカが妖精サイズの指輪を見つめながら何やらブツブツと言っている。こういうことは、考えてばかりいても仕方ないと思うんだよね。
「アイカ、試しにやってみてよ」
<はい。では準備を始めますので少々お待ちを>
アイカは考え込むのを止めて、魔法の構築を始めた。
<この指輪を魔法核にして……よし。
魔法核強化、知覚遮断、幻惑術式生成……
うーん。この手応えは……もっと効率化しないとダメかもしれませんね>
アイカが両手で包むように指輪を握り、ブツブツと何かを呟いている。
(指輪に魔法を込めているのかな?)
私がそう思って見ていると、指輪にはめられた宝石にひびが入る。
パリンッ!
<う、壊れちゃいました。負荷が大きすぎるようですね……。
次のを試してみましょう>
指輪作りはもう少し掛かりそうだなあと思った私は、待っている間に街を歩くための準備を始めることにした。
ペンとインク、それからスクロール用の羊皮紙を取り出して、記憶にある街の地図を書き始めた。しかし、窓辺から差し込む温かい昼下がりの光のせいか書き始めて早々に、眠くなってきてしまった。
(やっぱり慣れてない環境だから、眠りが浅いのかなあ。なんか最近いつも眠い気がする……)
それから私が船を漕ぎ始めるのは間もなくのことであった。
◇
───アイカ視点───
(マスターに褒めてもらうのです!)
そう思って魔法の構築をはじめたのは良いのですが、なかなかうまく行きません……。
<やはり五感全てを隠蔽するのは難しいですね。しかも、それを同時にとなるとかなりの難易度です。発動した瞬間の負荷が大きすぎます>
先程から何度も試行錯誤していますが、思ったより時間がかかってしまいマスターが呆れて寝てしまいました。
泣きたい気持ちになります。
マスターは私のことを捨てたりしないでしょうか……。不安でいっぱいです。
この感情というものにも、ずいぶん慣れてきたとは思いますがどうしても考えや行動に波が出てしまいます。
私はこんなにも揺れ動いてしまうのに、マスターはいつも冷静でやっぱりすごいです!
<弘法筆を選ばずとは言いますが、マスターを何時までも待たせているわけには行きません! こうなったら多少魔力を多めに使っても、一刻も早く完成させてしまいましょう!>
私はアイテムボックスから虹色に光る宝石がはめられた指輪を取り出します。パルティヌスの指輪です。
ドラゴンズリングでの効果は、自分よりレベルの低い単体相手に幻を見せて攻撃の命中率を大幅に下げるというものでした。特にこの効果がボス相手にも有効という点が、極めて優秀なのです。
これを手に入れるのには苦労しましたね。
私はあの時の様子を思い出します。
ガチャのレバーボタンをクリックし続ける私。
仕事で疲れていて眠いのに、私が当たりを引くまでずっと起きているマスター。
想像の中の私は、なぜかメイド服姿ですが細かい所は気にしないのです。
(一緒に夜通しガチャを回していましたね。ふふふ)
確か1つ目はすぐに出たのですが、2つ目の私の分がいつまでたっても出ませんでしたね。それでもマスターは諦めずにいてくれたので、なんとか当たりを引くことが出来たのですが。
こうしてマスターとの思い出の事を考えると懐かしい気持ちになるのが不思議です。あの頃の私には感情はなかったはずですから────。
<……はっ! しかし今は、マスターとの思い出に浸っている場合ではありませんでした!>
私は自分の頬をペチリと叩いて気合を入れ直しました。
<失敗は出来ませんからね>
今から使おうとしている指輪は、マスターと私でそれぞれ一個ずつしか持っていない非常に貴重なアイテムなのです。
もちろんマスターのお手持ちの物もありますので、いざとなったらマスターはそれを譲ってくださるとは思いますが、最初からそちらに頼るわけにはいきません。
この1回で成功させるのです!
<すぅーはぁーーー>
私は深呼吸して邪念を振り払い、両手で握り締めた指輪にゆっくりと魔力を通していきます。
<効果改変。音声遮断、光学迷彩、幻惑術式刻印……効果範囲指定……>
私は、目を瞑って指輪に集中し指輪の内部にいくつものルーンと複合魔法陣を組み込みました。
最後に発動キーを指定すれば完成です。
<ファイブセンス・ステルス・リング……
……ふう。完成です!>
これでマスターに褒めてもらえますね!
私は小躍りでもしてしまいそうなほど歓喜していましたが、ここはグッと抑えます。喜ぶのは寝てしまっているマスターを起こして、実際に褒めてもらってからです!
<マスター! 起きてください! 完成しました!>
私はマスターの頬をツンツンと突いて、最終的には肩を持ち上げたり揺すったりして起こします。
「ん……? あれ、私寝ちゃってた?」
<はい。ほんの少しだけですが>
実際は小一時間ほどですが、こういう時は短めに言っておく物だとマスターの好きな小説や漫画から教わりました。
<それよりマスター! 出来ましたよ!>
私はそう言って目元をこするマスターの前に指輪を差し出します。
マスターは目を凝らしながら、妖精サイズの指輪を見つめます。
「うん。アイカに似合ってて可愛いね」
(えへへ。ふふふふふ)
マスターに褒められちゃいました!
でも、本番はこれからです! 苦労して作った指輪の能力を見せるのです!
<マスター、やってみるので見ていてくださいね>
「うん。透明になってみて」
<いきます……!>
私は指輪にゆっくりと魔力を通し、魔法を発動させました。
──カスタムマジック──ファイブセンス・ステルス・リング
瞬間、私の身体が淡い光の膜に包まれました。
「おおお! 消えた!」
マスターが歓喜の声を挙げて、目を見開いています。
<ふふ、驚いているようですね! 大成功です!
マスター! 聞こえますかー?>
私はやや大きめの声を出してみますが、マスターの反応はありません。音声遮断もうまく機能しているようです。
私の居る辺りをマスターがまじまじと見ていますが、マスターの目には何も居るようには見えないでしょう。
そう思っていたらマスターが急に顔を近づけてきました!
キスでもされそうな距離にマスターの顔があります!
<ダメです! 透明だからってそんな! マスター!!!>
私の叫び声は魔法の効果でマスターには届きません。私はとうしたら良いか分からず、とっさに手をぎゅっと握って、目を瞑って身構えました。
永遠とも思える3秒後。
(……あれ?)
当然キスされるなんてことはありませんでした。
どうやらマスターは鼻を近づけて私の匂いをかいでいたようです。なんだかとても恥ずかしい気分になります。
「見た目も完璧だし、アイカの花みたいな香りもしないね」
私は花みたいな香りらしいです。
私が惚けているとマスターが手を伸ばしてきて、柔らかな手のひらが私の頭に触れました。
パッ!
マスターに触れられ、魔法が解除されました。
実験は成功でした。
指輪は思っていた通りの効果を発揮するようです。
<どうです? すごいでしょう!?>
私は鼻高々にドヤ顔を作ってマスターに言います。
「うん、びっくりした! 本当に見えないし、香りとかも無かったよ!」
惜しい!
驚いてはくれましたが、偉いとは言ってくれませんでしたね。私が高くなった鼻を引っ込めているとマスターが疑問を口にしました。
「でも触ることはできるんだ?」
<はい、じゃないとご飯が食べられませんからね!>
マスターが興味を示してくれました!
(今が攻め時ですね)
私はもちろんですと人差し指を立てます。難しい内容ですが分かりやすく丁寧に説明します。
「まず、この魔法は観光用に作った魔法なので直接の接触はできるようにしているのです。私自身から触る分については、透明化魔法は解除されないのですが、他人から触られると自動的に解除されるように設計しています。理由は魔法の負荷が大きくなりすぎて魔力核がショートしてしまう恐れがあるからです。つまりブレーカーのような機構も組み込んであるのです」
指輪に込められた魔法の凄さを説明できて私は満足です。私は「ふっふっふー!」としたり顔で得意げに鼻を鳴らしました。さあマスター、ここが褒める所ですよ!
「なるほど。なんかすごいってのはよく分かったよ」
(うう、ダメでした。
マスターは先程からすごいとしか言ってくれません。うーん、説明が長すぎたからでしょうか。簡潔にするべきでした)
仕方ありません。
次の作戦に移るのです!
今度こそ「偉い」の一言を頂くのです!
かくれんぼをして、私が頑張ったのを認めてもらうのです。
マスターに「全然見つからなかった。こんな魔法作るなんて偉いよアイカ。頑張ったね」と言ってもらう姿を想像します。
<マスター! 次は練習も兼ねてかくれんぼをしましょう! 私のことを見つけてください!
いきますよ!>
──カスタムマジック──ファイブセンス・ステルス・リング
「え!?」
マスターは一瞬だけキョトンとしていましたが、すぐに透明になった私を探し始めました。
流石マスターです。切り替えがはやいです。
私が先程まで居た所にマスターが手を伸ばしますが、その手は空を切ります。私はもうそこには居ないのです。
「え、アイカどこ?」
<ここですよー!>
私は扉のドアノブの上で、両手を振ってピョンピョン飛び跳ねてマスターにアピールしました。
当然マスターには聞こえませんし、見えないのですが。
◇
それからどれくらいたったでしょうか。
30分くらいはたったと思うのですが、マスターは一向に私を見つけてくれませんでした。同じところを何度も探して、部屋中色んなものに触っていましたが、ドアノブにだけは触ってくれませんでした。
(ちょっとだけ、魔法の制御を緩めてみるか悩みます)
私がドアノブに腰掛けて足をブラブラさせながら、そんな事を考えているとマスターの様子が少しおかしいことに気づきました。
マスターが床にへたり込んで小さな声で何かつぶやきました。
「お願い……出てきてよ……」
私はそれを聞いて、すぐにマスターの作戦に気づきました。
<ははーん、さては、そうすれば私が自分から出てくると思っているのですね! その手には乗りません!
やはり魔法を緩めるのは止めておくことにします>
その後もマスターはしばらく、その場にへたり込んだまま動きませんでした。私は根比べですと意気込んで、ドアノブの前で沈黙を続けました。
私がそれを後悔したのは、それから更に10分が経過した頃です。
◇
「アイカ、なんで出てこないの……」
そう言ったマスターの声は震えていました。
よく見るとご自分の肩を抱いていて、いつもの凛々しいマスターとはずいぶん様子が違っていました。
私は困惑しました。
<え、マスターどうしたのですか……?>
思わずそう口にしましたが、魔法の効果でマスターには届きません。なぜかそれがとても悲しい事のように感じました。予想外の感情の動きに戸惑います。
私が困惑していると、マスターが言葉を続けました。
「アイカ、ずっと我慢させてごめん。ちゃんとアイカのこと考えていなかった。アイカが頑張っているのも分かったから……。本当に偉いと思ってるから……。
お願い出てきてよ……!」
マスターはいま確かに私を褒めてくれました。しかし、それを聞いても全然うれしくありませんでした。
理由は簡単です。
マスターの目の端に光るものが見えたからです。
私はすぐに魔法を解いてマスターの前に飛び出しました。
ですが、こんなときの適切な言葉が思いつきません。頭の中で検索をかけますが、感情が邪魔をして正解を見つけられないのです。
<マスター、私は……>
私が口ごもっていると、マスターに抱き寄せられました。
<わっ! マスター??>
私は困惑して、どうして良いか分からなくなってしまいました。
そんな私をギュッと胸元に抱きしめて、マスターは言いました。
「居て良かった……。
ごめんね、ちょっと……アイカが居なくて……寂しくなっちゃったみたい……」
私はハッとしました。
私は褒めてもらいたい一心で、また失敗をしてしまったようです。
<マ、マスター。ごめんなさい。
私、その、ただ褒めてもらいたくて……。
元はと言えば私がこの世界に……私が悪いのに……>
「ううん、アイカは悪くないよ。
ただ私が思っちゃったの……この世界で一人ぼっちなんだって……」
<違います! マスターは一人ぼっちじゃありません!>
自分でも驚くくらいの大声が出ました。
そして気づくと目からは涙が出てしまっていました。
涙とともに先程まで喉の奥につかえて引っかかっていた言葉が、感情が、溢れました。
──私はマスターが好きです!
<マスターには私が居ます!>
──私はマスターのために存在するのです!
<この透明化もマスターにだけは分かるようにします!>
──マスターのためなら何だってします!
<だから一人じゃありません!>
──マスターの役に立ちたい、役に立ち続けたいです!
──ずっとマスターの側にいたいです!
<ずっと一緒です!!!>
溢れ出る感情のままに紡いだ言葉を聞いたマスターの頬には一筋の涙が伝っていました。
そして、はにかんだ笑顔で言いました。
「ありがとう」
◇
私は指輪に追加の術式を加えて、マスターにだけは見えるように、聞こえるように透明化の魔法を調整しました。
「あのさ、さっきはごめんね。
ちょっと情緒不安定だったみたい。寝不足のせいかも」
<いえ! マスターが謝ることなんて何もありません! 私が悪いんです>
「えーっとさ、それじゃどっちが悪いって訳でもなくてお愛顧ってことにしない?」
<マスターがそう望むのなら、それでも良いですが……>
「それじゃ決まり! さっきのは忘れて! ちょっと恥ずかしいからさ」
マスターはそう言って頬を掻きました。
マスターは本当に優しいです。
きっと私が罪悪感を覚えないように配慮してくれたのだと思います。それなら私もいつまでも引きずっていてはいけませんね。ちゃんと観光を楽しむことにします!
<マスター! そうと決まれば早く行きましょう!
一緒に観光をするのです!>
私はマスターの服をグイグイと引っ張りました。
こうしてマスターと私は、"二人"で一緒に観光を楽しむために、街へと繰り出すのでした。
次回、『観光と地図作り』。
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読んでくださってありがとうございます!
悩んだ末に、途中からアイカ視点に切り替えました!
是非、感想などいただければ嬉しいです!!!
もちろん小説評価☆☆☆☆☆やブクマもお待ちしております!
次回は透明になったアイカがはしゃぎます!!!




