月夜のペガサス亭
「さて、どこから見て回ろっか?」
私は耳飾りに手を添えてアイカと思念通話をする。
〈マスターできれば早めにこの形態以外のカモフラージュ方法を検討したいのですが……〉
アイカがやや遠慮がちにそう言ってきた。
(あー。要するに触りたいし食べたいってことね)
先程のシルフィーン魔道具店で、アイカが猫に触れたそうにしていたのを思い出す。
「オッケー! それじゃ先に宿に行って考えよう」
〈ハイです!〉
アイカは嬉しそうに返事をした後、「やっぱりマスターは優しいです」と小声でつぶやいた。
「ん? 何か言った?」
〈わわわっ! なんでも無いです!〉
◇
月夜のペガサス亭。
シルフィーン魔道具店のスーニアから教わった宿である。
石造りの建物に、月とペガサスをモチーフにした袖看板が設置されている。
一通り外観を堪能してから中に入る。
中世ヨーロッパ風の大衆食堂。
そう表現するのが一番しっくりくる。
クラシカルな雰囲気で、調度品は落ち着いた風合いの物が多い。
(お洒落!)
シックなデザインの革張りの椅子とよく磨かれた木のテーブルが並んでいるが、座っている客が見当たらない。
(食事を出していない時間帯なのかも)
正面はカウンターとお酒が並べられており、その奥には厨房が見える。右手には2階へ上がる階段と、地下へ降りる階段がある。地下は食料庫だろうか。
左手には一際目を引く、月とペガサスが描かれた絵が飾られていた。
(お店の名前と同じだ)
月と星々の光に照らされ優雅に羽ばたくペガサスと、それらを鏡のように写す透き通った湖が幻想的に描かれている。
引き込まれそうになるような魅力を感じる絵だった。
「素敵……」
私はすっかり絵に見惚れてしまっていた。
「おや、いらっしゃい!」
急に声をかけられたので少し驚いた。
声がしたカウンターの方を振り向くと、厨房で仕込みをしていた女性がカウンターへと出て来る所だった。
その女性は恰幅がよく、牛のような角と耳を持っている。ゆとりのある服を着ているが、胸部の膨らみがとても大きい事が見て取れた。
(私以外で角が生えている人を見たの初めてかも。っていうか流石に大きい)
頭部の角のことで自分をごまかそうとしたが、やはり胸元に目が行く。そんな立派なのと比べたら確かに私なんて、まな板みたいなもんだろう。ポルクス村の人の言うことにも納得だ。
「泊まりかい?」
「あ、はい」
「泊まりだけなら銀貨1枚で、プラス大銅貨5枚で夕食と朝食が付くけど、何泊するんだい?」
口調は丁寧では無いが、威圧感などは全くない。
むしろ、老舗の飲食店に居るおばちゃんのような雰囲気の女性だった。
「えーっと、3泊で食事は今日の分だけで」
先程アイテムを売ったおかげでお金が無い訳では無いけど、この先どれくらい掛かるかも分からないので、やや控えめに3泊と伝えた。
「おや、短いねえ」
女性は残念そうにそう呟く。
彼女が言うには、この宿に泊まる客はもっと長く止まることが多いらしい。
「それじゃあ、泊まってもし居心地が良かったら延長しておくれよ」
彼女はそう言いながら宿帳をパラパラとめくり始めた。
「おや、ちょうど最後の一部屋だったんだね!」
(先に宿に来ることにしておいてよかった!)
意外とギリギリだったことにヒヤッとしつつも、1部屋だけ残っていた事に安堵する。
(やっぱり、この宿って人気なんだ!)
そう思うと、今夜の食事もこれから案内されるであろう部屋にも期待が募る。
◇
私は2階の部屋へと案内された。
特別に広い部屋という訳ではないが、スーニアの言っていた通り部屋はとても綺麗に掃除されていた。
ベッドが2つあり、その間には引き出し付きの小さなテーブルがある。その上の壁には魔法のランタンが付けられていた。
ベッドの向かい側には年季の入った木製の長机と椅子、鏡が設置されている。そして、窓辺には1輪の花がいけられていた。
(これでスクロール一本分か)
私は、手持ちのスクロールの本数を思い出しながら、椅子に荷物を置きベッドに腰掛ける。
ベッドに使用されているマットレスはやはりふかふかだった。
私は、ポルクス村で聞いた話を思い返す。
(このベッドもウールウッドからできているのかな?)
見たことは無いがもこもこの綿飴のような木を想像する。
最後に入り口の扉を開けて外に誰もいないことを確認してから、扉の内側から鍵を締めた。
念の為、窓の外にも誰もいないことも確認しておく。
(よし、誰にも見られてなさそう)
私は耳飾りに手を添えて一言。
「アイカ、戻って大丈夫だよ!」
私の言葉で、アイカが耳飾りから元の妖精の姿へと変身する。
<ふー! 疲れましたー!〉
アイカはそう言いながら、伸びをしたり肩をぐるぐる回したりしている。
(なんか大人の真似をしている子供みたいで、ちょっとかわいい)
その微笑ましい姿に思わず笑みが溢れる。
私は少しの間アイカの事を待ってから声をかけた。
「アイカ、そろそろ話し合いを始めるよ」
〈了解です!〉
こうして一旦宿屋にチェックインしてから、アイカの隠れ方についての話し合いを始めるのであった。
次回、『ステルスモード』。
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読んでくださってありがとうございます!
月夜のペガサス亭!
ここでの夕食は3話ほど後になると思います! もう少しだけお待ち下さい!
もし、『素敵なお店!』『アイカはどうやって隠れるんだろう』と
思っていただけていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!
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