シルフィーン魔道具店
店に入ると、カウンターの女の子が元気よく挨拶をしてくれる。
「いらっしゃいませー。シルフィーン魔道具店へようこそー!」
店外から覗いた時に目があった子だ。
頭部には白い兎耳があり、兎獣人だとひと目で分かる少女だった。先端が少したれた兎耳がぴょこぴょこと動いていてちょっとかわいい。
髪の色も耳と同じ白で、背中くらいまでの長さがありどちらかと言うと落ち着いた雰囲気の女の子だった。
髪の毛も物腰もふわふわした印象である。
そしてカウンターには猫も居た。
赤いリボンのような首輪をつけた真っ黒な猫は、ちょうど窓から光が差し込む位置で日向ぼっこをしている。あくびをしながらちらりと私の方を見た後、再び丸くなって寝てしまった。
無性に撫でたくなるけど今は買取に来たんだし我慢だ。
私がそうして自分の欲求をぐっと堪えていると耳飾りに変身したアイカが思念通話をしてきた。
〈マスター、あの生物に触る許可をください!〉
「ちょっ! アイカ!? ダメだよバレちゃうでしょ!」
〈むむむっ〉
アイカもこの猫に触りたいらしい。
森で動物に囲まれたときは、こんな反応はしなかったのにと思って聞いてみると、この子が特別に気に入ったようだ。
(猫が好きなのかな)
〈無念です……〉
「ごめんね。後でなんとかする方法考えるから、今は我慢してね」
私とアイカが声に出さずに思念通話でそんなやり取りをしていると、店員の女の子が訝しげな顔で私を下から覗き込んできた。
「お客さん、どうかしたんですかー?」
「あっ! ごめんなさい。かわいい猫だなって思って」
「ふふ。この子はミーちゃんって言うんです。かわいいですよね」
私は気を取り直して、この店でお金を作れるか聞いてみることにする。
「ここでアイテムを買ってくれるって聞いたんだけど?」
アイカの集めた情報が間違っているとも思えないけど、いきなりカウンターにアイテムをどーんと出して「買い取ってくれ」じゃ変だし。
「はい、買取ですねー。どんな品ですかー?」
私が何を取り出すのか期待した目でみる店員の女の子。
そう見つめられてもあまり目立つものは売れないし。
(相場も知りたいから、剣、盾、ポーション、スクロールあたりでいいかな)
「これです」
そうして、背負い袋に手を突っ込むふりをして、アイテムボックスから最初に短剣を出すとあからさまに嫌そうな顔をされた。
「剣ですか……」
「あれ、もしかして武器は買い取れない?」
「あーいえ、買い取れないって訳では無いんですが……」
彼女は言葉を濁したが、兎耳がへにょんと垂れる。見るからに残念そうだ。
(まあ、ここ魔道具屋だもんね。剣は武器屋で売れって話だよね)
話を聞いてみると先程の男性が売ったのは魔法付与された品だったらしい。ちなみにその人はこの店の常連らしく、ポーションをよく買いに来るのだとか。
話ついでに店員の女の子に名前を聞いてみると、この兎耳少女はスーニアというらしい。
この店でも剣や盾は買取できるが、専門ではないので相場より安くなってしまうようだ。売れない品も多く、そうした売れ残りはまとめて武具屋にもっていくこともあるのだとか。
「剣以外もあるから安心してね」
私はそう言いながら、盾、赤ポーションとスクロールを取り出した。
盾を出したときにスーニアには更に落胆されたが、ポーションを出すとホッとした様子になり、スクロールを出すと目が輝いていた。
アイテムを取り出す度に彼女の表情がコロコロ変わるのが面白くて、調子に乗ってスクロールを15本も出してしまった。出したアイテムの中ではスクロールを出したときが、一番反応が良かった。
「わわっ! こんなにたくさん! ありがとうございますー!
あと、あと! もしかしてそれって魔法袋ですか!?」
スーニアは目を輝かせていた。彼女曰く、魔法袋とは迷宮で見つかる珍しい品で、見た目よりずっと多くの物を収納できる袋らしい。珍しいとは言っても、成功している商人や裕福な旅人が持っている事もあるようだ。
実際にアイテムを取り出す所を見られているし、無理に隠すこともないと考えて肯定しておく。
「うん、魔法袋だよ」
「やっぱり! すごいですー!」
スーニアは目を輝かせてそう言うと、私に少し待つように言ってから店の奥へと入っていった。
「おばあちゃーん!」
彼女が祖母を呼ぶ声が聞こえてきた。
「お客さんかい?」
「うん。たくさん買い取って欲しいんだって」
なるほど、家族経営なのだろう。
少しすると、スーニアと同じ兎耳で優しい顔つきの老女が出てきた。
「おやおや、まあまあ」
出てきた老女はさっそくカウンターに並べられたアイテムの査定を始めた。彼女は、スーニアの祖母で名をレニーアというらしい。
祖母の紹介を終えると、少し時間がかかるからと言われて、窓辺のテーブルのところに案内された。
アンティークな趣を感じさせる椅子に座ると、ハーブティーを出される。
湯気とともに爽やかな香りが立ち上り、レモンの果汁をほんの少したらしたような、ほのかな酸味を感じられる。ほっこりしていると鐘が3回鳴るのが聞こえた。
(もうお昼かぁ)
そう思っていると、一度カウンターの奥に戻ったスーニアがはちみつで作ったという飴を持ってきてくれた。
「お腹空いちゃいますよね。よかったらこちらをどうぞー」
(おいしい)
貰った飴には、はちみつのような柔らかい甘さがあった。先程のハーブティーと一緒に味わうと、ハーブティーのほのかな酸味と飴の甘さが口の中で混ざりあい、ちょうどよいところで調和する。
私はその味と香りを堪能しながら、二人が査定している姿をのんびりと眺める。
窓辺から差し込む陽の光の暖かさも心地良い。店内にいる猫も、日向ぼっこをして丸くなっていて、とても気持ちよさそうに寝ている。
それを見ていた私もだんだんと眠くなっていき、気づくと寝てしまっていた。
次回、『査定結果』。
**************************
読んでくださってありがとうございます!
ブックマーク登録数が70を超えました!!! パチパチパチ!
ありがとうございます! これからも楽しんで頂けたら幸いです!!!
今回出てきたシルフィーン魔道具店は、昔ながらの静かなカフェのような雰囲気のお店です!
心地良すぎたせいで遥香はうっかり寝落ちしてしまいましたzzz
ちなみに、店名の『シルフィーン』は風の妖精の宿という意味です。
出会いを運ぶ妖精が来てくれますようにという願いを込めて、創業時に付けられたようです。
もし、『私も行ってみたい!』『査定結果が気になる!』とか
思っていただけていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!




