街並み
街の中に入ってから、外套のフードをかぶる。
その後すぐに、アイカが変身を解きイヤーカフスから妖精の姿へと戻った。周りの人からはフードの中に隠れているので見えないだろう。
<マスター! ごめんなさい!>
変身を解いた直後に、私に謝るアイカ。
「ん? どうしたの?」
<先程は、看破石という魔道具を見落としてしまっていて申し訳ありませんでした>
「ああ、そんなことか。気にしないで。私もちょっと考えが甘かったから」
<うう、マスター>
「ほらほら、メソメソしないで。次はもっと注意深く情報集めれば良いだけなんだから」
<はい>
アイカがしょんぼりしているので、話題を変えることにする。
「よし! 街を見て回ろうか!」
私は外套のなかに手を入れて、肩に腰掛けるアイカの頭を撫でた。
<はい! 楽しみです!>
「それじゃあ、ちゃんと隠れててね!」
<了解です! マスター!>
アイカの機嫌も治ったところで、私たちは街の散策を開始した。
(まずは宿を決めて、それから情報収集かな)
◇
街に入ると人の往来が多く、活気があった。客引きの声や、値切りの声、世間話や子どもたちが遊ぶ声など多くの人の声が聞こえる。
種族は、外套をかぶっていて分からない者も居るが、基本的には獣人しか居ないようだ。犬、猫、狼、虎、猿等々多種多様な獣人が街には暮らしているのが分かる。
「素敵な街だね!」
<はい!>
門を出ると正面には大通りがあった。
丘から見下ろした街の構造を思い出しながら思案する。
この大通りは、古い方の城から放射状に伸びている道だ。内側の城門まで続いており、更にまっすぐ進んでいけば古い方の城まで行けるはずである。
街を見回してみると、大通り沿いには比較的大きな店舗が軒を連ねていた。見た目から判断すると、城壁と同じくらいに建てられた建物だと思う。
「中世っぽい!」
<ですね。レンガ造りの家もありますが、殆どは石造りでしょうか>
写真やゲームでしか見たことのない西洋風の町並みに胸が高鳴るのを感じる。
ネットの友達が中世はあまり衛生的じゃないって話をしていたけど、この街は掃除が行き届いているみたい。
おおー!とか、はあ~!とか感動の息を漏らしながら街を見ていると、街が綺麗な理由をアイカが発見した。
<マスター! 右手の路地に怪しい流動体がいます!>
「ん? 流動体?」
アイカが言っている意味がわからずに聞き返しつつも、その路地の方に目を向ける。
「兄ちゃん捕まえたよ!」
路地からは少年たちが騒ぐ声がしたする。
ポヨン!
少年の腕の中から飛び出して、大通りに逃れてきたのは、数多のファンタジー世界で大活躍している魔物──
──スライムだった。
「スライム!」
<スライムです!>
私が驚いていると、スライムは石畳の隙間に染み込むように消えてしまった。
それを見た犬獣人の少年たち3人が、石畳を見つめてしゃがみ込みがっかりしている。
(子犬3兄弟って感じでかわいい!)
「あーあ、逃げちゃった」
「お前がすぐに渡さないからだぞ」
どうやらこの少年たちは、スライムを使った遊びをしていたようだ。
<スライムを捕まえる遊びなのでしょうか?>
「そうかも。なんか異世界ならではの遊びだね」
魔物で遊ぶなんて異世界のちびっこ恐るべし。
「なあ、次のやつ探しに行こうぜー!」
「あいつらに負けてらんねえしな! 行くぞ!」
「待ってよ兄ちゃん!」
少年たちはそう言って路地の奥の方へと元気に走って行った。
<マスター、私たちも宿を探さないとですね>
「そうなんだよね!」
まずは、最低限、今夜泊まるための宿を探さないといけない事を思い出す。
「でも、お金が全然ないんだよね……」
お金を作るにはどうしたら良いか。
仕事をしようにも情報が無いし、今日すぐにお金が貰えるとは限らない。あとは借りるとかだけど、今日街に来たばかりの私にお金を貸してくれそうな人なんて、さっきの門番さんくらいだよね。
やっぱり恥を忍んでお金を貰っておくべきだったのかも知れないけど。
「うーん、やっぱり適当に手持ちのものを売るしかないのかな。でもさっきの光る剣みたいに大騒ぎされても困るんだよね。相場が知りたい」
<それでは、あそこのお店に行ってはいかがでしょう? いま客が出てきたところです>
その大通り沿いの店からは、背中に斧を背負った戦士風の男が出てくるところだった。
あのお店でアイテムを買ってもらえるようですよ。手持ちのアイテムを何種類か売ってはいかがでしょう?
相場も分かりますし、お金も手に入ります>
「確かに!」
◇
私たちは大通りから路地に入り、買取屋に行くことにした。
店に入る前に店先の横長の看板を見るとそこには、こう書いてあった。
「えーっと、魔道具……ってあれ? なんで読めるんだろう」
看板に書いてある文字を見て無意識に読んでいる自分がいた。もしかして女神様が何かしたのかな。
<睡眠学習です>
犯人はまさかのアイカだった。
<やはり、こちらの世界の文字が読めないと不便ですからね>
「いや、そうじゃなくて睡眠学習ってどうやったの!?」
<それはですね。まず魔法でマスターの眠りを深くして、次に幻術を……>
私には詳細は全く理解できなかったが、魔法ということだけは分かった。
アイカが「結構苦労したんですから」と褒めて欲しそうにしていたので、フードの中に隠れた彼女の頭を撫でておいた。
改めて店先に置いてある看板を見てみると、それはおしゃれな喫茶店にあるような看板で、道具屋という文字の下には絵が書いてあり、ポーションや魔法のアイテムを扱っている店だと分かった。
「この看板って、魔道具をメインにポーションも扱ってるってことだよね? 買取もやってるのかな?」
<はい。先程出てきた男性はポーションと短剣を売ったようでした>
「さすがスーパー聴力。情報収集が早いね。
っていうか武具も扱ってるんだ」
こうしていつまでも、看板を眺めていても仕方がないので、店の中に入ろうと思う。その前に、ちょっとだけ店内の様子を伺おうと外から覗き込む。
(この世界にもガラスがあるんだね)
外から見る限りだと、雑貨屋のような印象だった。
店内の細かい様子を見る前にカウンターで店番をしている女の子とあっさり目があってしまったので、アイカに隠れるように言ってから、扉を開けて中に入る。
カララン!
ドアに取り付けられたベルが心地よい音色を奏でた。
「素敵……」
思わずそう漏らしてしまうような好みのお店だった。
店内の第一印象としては、雰囲気の良い雑貨店と昔ながらの喫茶店を足して2で割ったような感じだった。道具屋なのに、とても居心地が良さそうである。
ゆっくりと息を吸うと、窓辺に干されている草のものなのか、ハーブのようなフレッシュな香りが優しく鼻を撫でる。
窓辺には小さなテーブルと椅子が置いてあり、ポーション瓶に白い花が生けられている。棚には道具や薬、武具など様々なものが並べられている。魔道具の横に置いてあるのはおそらく魔石だろう。品揃えとしては、ポーション、魔道具やスクロールが大半を占め、本や武具などは端の方に追いやられている。
「いらっしゃいませー。シルフィーン魔道具店へようこそー」
次回、『シルフィーン魔道具店』。
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読んでくださってありがとうございます!
街のお掃除屋さんスライム。
彼らのおかげで街はいつでもとっても綺麗! ありがたい存在です!
陽の光が苦手なので基本的には夜に活動し、昼間は日陰や壺の中、地面の下にいます。
子どもたちがやっていたのは"スライム追い"です。鬼ごっこの鬼がスライムな感じの遊びです。
この遊びが得意な子は、子どもたちの間でヒーローになれます!
もし、『もっとスライム見たかった!』『魔道具店の雰囲気好きかも!』とか
思っていただけていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!
もちろんブクマも大歓迎です!!!




