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賄賂

(賄賂きたー!)


 賄賂の話は、こっちから切り出すしか無いと考えていたが助かった。まさか、審問官から行ってくるとは思わなかった。

 それは良いのだが。


(この人、アイカが変身している耳飾りが欲しいみたい)


 精巧な作りって部分には同感だけど、審問官の不快な目線が私の耳に集中しててちょっと気持ち悪い。鳥肌が立ってきた。

 しかしそんな不快感よりも、この人からアイカを守らなきゃという気持ちの方が断然強い。


(うちの娘は渡さないよ!)


「ちょっとだけ悪く言うけど許してね」とアイカに心の中で予めことわってから、用意していた賄賂用の剣の方へと話を持っていく。


「いえいえ、このような田舎娘が身に付けるような粗悪品など……貴方のような高貴な方には。

 それより、私にとって宝物の剣を持ってきたのでどうかお納めください」


 あたかもとても大切な物という雰囲気で、腰にベルトを二重にして括り付けあるそれを丁寧に外し、鞘ごと机の上に置く。

 インパクトが大切なので剣はまだ抜かない。


 そして「どうぞ手にとってお確かめください」と伝えて、説明を始める。


「私たちは旅の途中で運悪く魔物と遭遇してしまいましたが、なんとか逃げ出すことはできました。しかし、そのときには所持金は1ベルたりとも残っておりませんでした。

 私がいま身に付けている物のなかで、まともなお金になりそうなのはこちらの剣だけなのです。」


 嘘を言わないために少々変な言い回しになってしまったが、幸いにも彼ら剣に意識が向いているおかげで、そこを指摘されることは無かった。

 審問官は相変わらずのいやらしい目つきで、一方の書記官はモノクルを使って真剣な眼差しで、私が差し出した付与済みロングソードを観察している。


「それで、金が無いということは、通行税もこれで払う気かね?」

「はい」

「ふむ、しかし見た所そこらの平民が使うような粗悪な剣にしか見えぬが。

 レナルド殿、どうかね?」


 レナルドと呼ばれた書記官が、机に置かれた剣を柄、鍔、鞘の順に丁寧に観察している。この書記官はどうやら剣の目利きができるらしい。

 たまに「ほう」と関心したような息を漏らすのが気になる。


(外見はそんな大したことないはずなんだけど。わざわざ普通の鞘を選んだんだし)


「なんとも珍しい品ですな」

「ほう?」

「鞘と柄は一見すると、見習い鍛冶師の作ったような雑な出来なのですが……」


(まあ、私がドラゴンズリングで鍛冶師レベルを上げるために作ったものだからね)


「……柄の細工や革の仕上げ方など、細部に私も見たことがない工夫が施されているのです。荒く仕上げているように見えるのは、意図的なものかもしれませんな。

 まあ、外ばかり見ていても仕方ありませんね。フレーダー殿、すまないが鞘から抜いてもらえますかな?」

「うむ」


 フレーダーと呼ばれた審問官が贅肉で軋んでいた椅子から立ち、剣を鞘から抜き放つ。


 瞬間、刀身から発せられた光が──

 ──眩く弾けた。


 部屋の暗さも相まって、外でアイカが付与した時よりも何倍も神々しく見える。

 扉の横に立つ兵士は、目を見開き驚く。

 そして、これまで一言も発しなかったが、目の前の美しく光る剣を見て思わず声を上げてしまう。


「おお……!!!」


 それを聞いた書記官は刀身を一度鞘に戻した。そして鋭い眼差しで兵士をひと睨みし、告げた。


「貴様は何も見ていない。良いな?」

「はっ! 自分は何も見ておりません!」

「分かったら壁の方を向き、口を閉ざせ」

「はっ!」


 兵士は短く返事をすると、くるりと反転し壁の方を向いて直立不動になった。


 それを見た書記官と審問官は満足そうに頷きあい、光る剣へと再び目を向ける。

 2人は、己を律しているつもりのようだが、尻尾が小刻みに振られており興奮しているのが丸わかりだった。


「これを握っていろ」


 そう言われて私に差し出されたのは、複雑な彫刻が施されたハンドベルだった。小さな宝石が4つはめ込まれており豪華な作りなのだが、所々に細かい傷があり使い込まれているのがひと目で分かった。


(ん? 何かあったらこのベルを鳴らせってこと?)


 そうして私が訝しげにベルを見て見当違いなことを考えていると、審問官が苛立ち混じりの声音で説明を始める。


「これは沈黙の鈴だ」


 差し出されたのは特殊な効果を持つ魔道具だったらしい。触れているものは周りの声が聞こえなくなり、自分の声も出なくなる効果があるそうだ。


「早く握れ。

 それと勝手に手放すな。合図するまでは持っていろ」


(なるほど、これからあなたたちは内緒話をするってことね)


 納得した私は、魔道具のベルを持ち上げてみる。

 すると触れた瞬間から、周囲の音が聞こえなくなった。試しに喋ろうとしてみるが、そもそも音が聞こえないので自分が話せているかも分からなかった。


〈マスター、発言の許可をください〉


 私が色々試していると、アイカが話しかけてきた。

 少し驚いてしまったが、審問官と書記官は剣を見るのに夢中で全く気づく気配はない。どうやらバレてはいないようだ。


(このベルを持っていても、アイカとは話せるんだね。魔法での会話だからかな)


 私は練習した通りに頭の中でアイカに話しかけるイメージを作り返事をする。


「アイカ、話していいよ」

〈ありがとうございます。では私が2人の会話をマスターに伝えますので、聞こえないふりをしていてください〉

「ありがと」


 アイカは、コホンと小さな咳払いをした後、審問官と書記官の発言に合わせて声を当てる。


「やはり、これは素晴らしい品ですな。フレーダー殿」

「鞘は無駄に重かったが……。

 剣自体は軽く、重心のバランスも悪くない。確かに良い品だ。この輝きはやはり魔法か?」

「おそらく。

 詳しいことは専門の鑑定士に見せねば分かりませぬが、輝きからして魔法を帯びていることは間違いないでしょう」

「して、レナルド殿はいくらと見る?」

「少なくとも、金貨7枚はいくでしょうな。付与されている魔法の効果しだいではもっと高値がつくでしょう」

「するとこの女は……」

「ええ、この剣の価値が全く分かっていないのでしょうな」


 2人がニチャっと不快な笑みを浮かべる。


「これなら通行税としては及第点ではないですかな?」

「ふふ。これで及第点とは、レナルド殿もお人が悪い」


 含み笑いをしながら及第点とか言ってるけど、じつはめちゃくちゃ高価らしい。


(あちゃー。やり過ぎちゃったかもなあ)


 まさか、私とアイカが作った剣をここまで高く評価されるなんて思わなかった。目立ちたくなかったのに。


(だって、光らせただけだよ? 金貨何枚もするような値段になるなんて思うはずないじゃん!)


 私が内心で頭を抱えていると、手に持っていたベルを机に置くようにジェスチャーで指示される。


「よかろう。ポルクス村のハル。

 この剣を通行税として納めることと引き換えに、街に入ることを許可する」


 審問官がそう宣言し、書記官から仮の許可証を渡される。その後、扉の入り口に居た兵士の案内で、正式な許可証を発行してもらった。


 こうして街に入るための審問は終わったのだった。


 ◇


 兵士の誘導で街の中へと向かっていたのだが、その途中で彼が声をかけてきた。


「なあ、嬢ちゃん」


 兵士が急に止まって振り返るので、少々驚く私。


「何ですか?」

「よかったらこれ、使ってくれ」


 彼はそう言って大銅貨2枚を差し出してきた。


「え?」


 困惑。


「あんた、金ないんだろう? その上、大切な家宝まで取り上げられちまって……」

「確かにお金無いけど、でもどうして……?」


 私は困惑していた。初対面の私にお金をくれるなんておかしい。何かあるはずだ。

 ひとまず、会ったばかりの私にお金をくれる理由を聞いてみることにした。


「あの審問官はいつもあんな調子だからよ。有り金も所持品も全部取り上げられて、街に入ったは良いが金も行く宛もなくて最後には身売りしちまうやつも多いんだ」


 彼が言うには、審問官は複数いるが運悪くあの審問官に担当されたものは、様々な難癖をつけられて賄賂を要求されるらしい。そして、多くの者は手持ちのほとんどを巻き上げられて、文無しにされてしまうらしい。

 道端で寝泊まりし人さらいに合うものや、悪いやつに騙されて身売りしたりするものも少なくないのだとか。


「それに、俺にもあんたくらいの娘が居るんだ。もし身売りでもされちゃあ寝覚めが悪いからな。

 少ねえが手持ちはこれしか無くてな……いざって時に使ってくれ!」

「いや、でも受け取れません!」


 私は両手を振って頑なに断った。貰えるものは貰う主義だけど、お金のことはまた別である。

 私が断ると、彼は苦笑していた。

 「心配だが無理強いすることも出来ない」とでも思っていそうな顔だった。少々気まずい。


 私はお金を受け取る代わりに、先程から気になっていたことを聞いてみることにする。


「あのその代わりに、一つ聞いておきたいことが……」

「おお、何でも聞いてくれ!」

「さっき私が触らされた水晶玉ってなんだったんですか?」

「水晶?」

「私が触ると色が変わった透明な玉です」

「ああ、看破石のことか。あれは嘘を見破る魔道具の一種で、最後に触ったものが嘘をつくとヒビが入ったり割れたりするんだ」

「えっ」


 それを聞いて私は絶句する。


(危なかった! やっぱり嘘ついてたらバレてたんだ!

 嘘にならない言い回しを練習しておいてよかったよぉ~~~!)


「そうか。やっぱり嬢ちゃんは知らなかったんだな。いやあ、ヒヤヒヤしたよ。なにせちょっとでも嘘をついちまったら、おしまいだからな」


 冷や汗が背を伝う。


(おしまいって何!? 怖っ!!!)


 そう疑問に思ったが私には恐ろしくて聞けなかった。


「まあ感度が石によって違って曖昧だから目安にしかならねえんだが、それでも有ると無いのとじゃ大違いだ。

 バレるって分かってて嘘つくやつなんて居ねえだろう?」


 兵士の男はそう言うと明るく笑ってみせた。

 私も「あはは」と笑ってみせるが、こちらは乾いた笑みだった。


 私がやってたのって目を瞑って綱渡りをしたようなもんだったんだ。知らないって怖い。

 でも、いま聞いておいてよかった。この世界にはそういう人の心を見るような魔道具もあるんだね。


「あの、色々気遣ってくれて、本当にありがとうございました!」


 私は再びしっかりと感謝の念を伝えてから、街の中へと入っていった。

 この恩はいつかちゃんと返そうと心に決めて。



 こうして私たちは、首都エルドミトスの城門を通過することができたのだった。

次回、『街並み』。


**************************


読んでくださってありがとうございます!


小説評価&ブクマいただきました! パチパチパチ!

ありがとうございました! 

執筆かんばりますので、これからも応援よろしくおねがいします!



今回のお話では、長く感じる審問も終わってようやく街の中に入ることが出来ました!

二人ともよく頑張った! 

アイカが審問官たちのアフレコをする時にちょっと楽しんでいたのは、遥香には内緒です!


もし、『二人ともお疲れ様』『賄賂が通じてよかった』とか

思っていただけていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!

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