城門
私たちは、行商人ポルックと別れてから城壁へ向かって歩いていた。
その途中で、遠くで鐘がゴーンゴーンと2回鳴った音が聞こえてくる。
「これが開門の鐘かな」
ポルックに聞いた話だと、これは民に時間を知らせるためのものらしい。
鐘が鳴らされる時間帯は全部で5回。
それぞれ朝から順番に、目覚めの鐘、開門の鐘、昼の鐘、夕の鐘、閉門の鐘と呼ばれるらしい。鳴らす回数は、朝から順に1回、2回、3回と1回ずつ増えていく。
日の出の少し前に目覚めの鐘、目覚めの鐘と正午の中間くらいで開門の鐘、正午に昼の鐘、正午と日の入りの中間くらいで夕の鐘、日の入りの少し前に閉門の鐘が鳴らされるようだ。
心地よい鐘の音の余韻を聞きながら、歩みを進めていくと城壁の目の前に着いた。
「思ったより高い」
城壁は見上げるほどに高く、弧を描きながら都市を囲んでいた。試しに、城壁の周りをぐるりと一周してみたが、まともに歩いたら、街に入る前に昼の鐘の音を聞くことになりそうだったので、途中から女神装備を使って猛スピードで走り抜けた。
こうして1周してみると改めて思う。
「やっぱりすごく大きい都市だね」
<はい、この城壁も魔法で作れるなんてすごいです>
「確かに」
そんな会話をしながら、城門の付近に集まっている人々の様子を観察する。
旅人や商人風の多様な風体の者たちが列を作っているが、種族は皆獣人のように見える。軽装で徒歩のものも居るが、大半のものは馬や荷馬車に大量の荷物を積み、遠方から来たのがひと目で分かる格好だった。
<マスター、この先の城門前で都市の中へと入るための審査があるようです>
アイカのスーパー聴力で情報収集をしてみたところ、この城門で身分証や紹介状の確認などの審査と、通行税の徴収が行われているようだ。
最初に門番に身分証を見せて目的を話す、そこで通行許可証があればそのまま通れるらしい。身分を検めたり通行許可をとる必要がある者は、側塔の中に連れて行かれて取調べを受けるみたい。
「でも私、身分証明書なんて無いし、村長の紹介状とかも持ってないよ? どうしよう……
……偽造、しちゃう?」
冗談半分でそんな事を聞いてみる。
<いえ、偽造はリスクが分からないので現時点では避けたほうが良いでしょう。先程通過した者は、家宝と言って指輪を渡していたようです。つまりは賄賂ですね>
アイカに真面目に返された。
(んー、でも賄賂かあ。ピンとこないなあ)
賄賂と言われて最初に思い浮かぶのは政治家だが、私にとっては遠い存在である。
私が渡したことのある賄賂なんて、せいぜいが職場の事務の女の子に飴をあげて私の仕事を優先でやってもらったくらいである。
感覚的には、賄賂と言うより前払いのお礼のようなつもりで渡していたんだけど。
<あと、通行税はギルドや組合に入っている者は支払いが免除されるようです。それ以外のものは銀貨1枚か銅貨10枚を渡していますね。銅貨はおそらく大銅貨つまりアリューレ銅貨でしょう>
「えーっと、銀貨1枚ってことは100ベル?」
ポルックさんに道すがら教えてもらったこの国の通貨の話を思い出す。話を聞いた時は、銅貨が大銅貨と小銅貨の2種類あって分かりにくかったけど、一つは小指くらいのちっちゃい銅貨だったから、実際のやり取りでは間違えようが無いと思う。
なんであんな小さい硬貨を作っちゃったんだか。
<はい。通行税は100ベルです。確か1ベルで、モモルの実1個分くらいと聞きました>
「ってことは100ベルはモモルの実100個かあ。通行税として高いんだか安いんだかよく分からないね」
もちろん100ベルの価値が分かったところで、この世界のお金なんて一切持っていないから払えるわけがないんだけどね。
こんなことなら、村長とかに相談してお金貰っておくんだった。ついでに紹介状も書いてもらえていたらベストだったんだろうなあ。でも今更言ってもしょうがないか。
(うーん、どうしよう)
私がそうして思案顔になっていると、察したアイカが説明を補足してくれる。
<ちなみに、通行税も装飾品などの物で支払っても良いみたいです>
「そうなんだ。賄賂が通じたり通行税もお金じゃなくて良かったり、割とゆるいんだね。ラッキーなんだけど」
いまの私にとっては好都合だが、その反面、この都市の治安に不安が残る。
まあ、でもいざとなったらアイカも居るし大丈夫だよね。
「それじゃ、賄賂でいくとして渡すのは何が良いかな?」
<剣などはいかがでしょうか? 身に付けているものを渡せば、心理的効果も大きいと思いますが>
「確かに、コレしか無いんですってアピールにもなるね。アイテムボックスから直接だすと、もっと良い物をよこせとかってゴネられることもありそう。剣なら身に付けられるし、アイテムボックスにいっぱい入ってるから良いかも!
でも問題はどの剣を渡すかだよね。普段使ってた剣は性能が高すぎて危ないし」
この世界に来てすぐの試し切りで、うっかりやってしまった森の大伐採を思い出しゾッとする。
まあ、そもそも女神装備で身体強化しないと重くて持てないんだけど。
「かと言って安物じゃ、賄賂として受け取ってくれないかもしれないし」
<では、その安物に私の魔法付与を行うのはいかがでしょうか?>
「魔法付与?」
<はい、属性付与は危険なので、光らせるだけの付与ではいかがでしょうか?>
「それ良いかも! 安いし安全だね!」
私は城門から少し離れた茂みに隠れて、アイカに勧められるままに、アイテムボックスから1本の剣を取り出した。
なんの変哲もない鋼鉄製のロングソードである。
<それではちゃちゃっと付与しちゃいますね>
アイカが剣の刀身に両手をかざし意識を集中させる。
──カスタムマジック──エターナル・シャイン
瞬間、アイカが触れていた所から波紋のように光が広がり、刀身全体を黄金の輝きが覆う。
元がただの鋼鉄製とは思えないほどの神々しい光だった。
「ちょっと派手すぎない?」
<こういうことはインパクトが大切ですから。それに、こうして鞘に入れてしまえば分かりませんよ>
アイカはそう言いながら、付与済みのロングソードを安物の鞘にしまった。アイカの言う通り、その外見だとポルクス村の家にもありそうな見た目だった。
(見るからに金ピカの剣を持っていて怪しまれるよりは、コレくらいのほうが変に目立たなくて丁度いいかも。それに、鞘から抜いたときのギャップはすごいからインパクトはあるね。でも、鞘から抜くまでは侮られそうだから、そこだけ気をつけておいたほうが良いかも知れない)
それから、どうやって切り抜けるかアイカといくつか打ち合わせをした。
念の為、服もポルクス村のそれに近いものに着替えて、遠方から来た田舎娘を演じることにした。
(ふふ、ちょっとスリルがあって楽しいかも!)
私たちはこうして楽しみつつも入念に準備を整え、城門前の列に加わったのだった。
次回、『審問官』。
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読んでくださってありがとうございます!
今回は、準備がメインのお話でした!
無事に街に入れるように、二人ともがんばれ!
もし、『トラブル起きちゃうのかな』『賄賂がうまくいくのか気になる』とか
思っていただけていたら、ぜひ小説評価☆☆☆☆☆や感想で聞かせてください!
あと、硬貨の設定資料を下記URLにUPしておりますので気になる方は御覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n9525gr/4/




