旅 その1 ~異世界の青空~
〈「うぎゃああああああ!!!」〉
猛スピードで走る巨大蟹によって、私たちは荷物のように運ばれていた。
「よし、ここらでちょいと休憩すっか! 相棒!」
ポルックの号令によって、相棒と呼ばれる巨大蟹が川辺で急停止し、水を飲み始めた。
〈はぁはぁ……マスター無事ですか……?〉
「ぜえぜえ……なんとか……生きてるよ……」
「何だ嬢ちゃんたち、もうへばっちまったのか。ラウネルからめっぽう強いって聞いてたんだがな。
まあ気分が悪いなら一度外へ出たらどうだ?」
私たちが息を切らしていると、ポルックが「外に出て新鮮な空気でも吸ったらどうだ」と提案してきた。
元はと言えば、この行商人が蟹に全力疾走を促したことが原因なのだが、今は反論する気力もなかった。
蟹の背から転がるように降りて、そのまま地面に寝転がった。
「はあああああ~~~。死ぬかと思った」
〈ひどい目にあいましたぁああああ〉
私とアイカは、草の上で仰向けになり思い切り脱力して大きくため息を吐いた。
──ミドルヒール
アイカが息を切らしながら、簡単な治癒の魔法をかけてくれる。
もちろん、自分にもかけているようだ。
寝転がって青空を眺めることしばし。
アイカの魔法の効果もあり、呼吸も落ち着いてきた。
「アイカ、雲が綺麗だね」
〈ですね〉
「ん? あそこ何か飛んでる」
私の目線の先、遠くの空には魚のような巨大生物が飛んでいるのが見えた。平たくてエイのような形をしているが大きさは桁違いで、クジラの何倍もあるように見えた。
〈何でしょう……? 周りに鳥のようなものが複数飛んでいますね〉
私とアイカが疑問を口にすると、ポルックが干した果物をかじりながら教えてくれた。
「あれはスカイマンタだな。周りのはハーピーの群れだ。この辺りを飛んでるなんて珍しいな」
その巨大な魚、スカイマンタは無数のハーピーを従え、空を滑るように優雅に、それでいてとても気持ちよさそうに泳いでいた。
クジラのような鳴き声が空に響き渡る。
「すごい……」
それ以上の言葉が出てこなかった。
ただ、異世界の大自然の一旦を見たような気がして、感動に心が湧いていた。
(もっとこの世界を見てみたい……!)
その想いに答えるように──
──空飛ぶ彼らの動きが急激な変化を見せた。
スカイマンタは何かに警戒するように大きな鳴き声を上げると、見る間に透明になっていった。その周囲のハーピーの群も何かに警戒するように慌ただしく飛び回っている。
〈何かあったのでしょうか?〉
「ポルックさん、あれって何……?」
私がすべて言い終わる前に、ポルックが焦ったように私の言葉を遮った。
「ドラゴンが来るぞ!!!」
「へ? ドラゴン! 見てみたい!」
「嬢ちゃん、そりゃ無理だ!!!
目をつけられる前に、あそこの洞窟に逃げるぞ! 相棒頼む!」
私とアイカはポルックに急かされるまま、慌てて巨大蟹の背に飛び乗った。
「よし相棒! 急いでくれ!」
私たちが飛び乗ると同時に巨大蟹は勢いよく、近くの洞窟へと走り出した。私は、衝撃に備えて小屋にしっかりと掴まる。一度経験しているからか、今回は外を眺める余裕があった。
スカイマンタがいた辺りの上空を見上げると、突如、大気を震わす咆哮が聞こえてくる。
グアォオオオオオオオオッ!!!
大地すら揺れているように感じる咆哮に、本能的な恐怖がこみ上げてくる。
咆哮の直後、真っ赤な炎のブレスが散り散りに飛ぶハーピーの群を襲った。
炎によってかき消された雲の隙間から見えたのは──
──まさしく竜、ドラゴンそのものだった。
小さな村を覆ってしまうほど巨大な影を落とす翼、発達した前足の鉤爪、脈動するように緋色に輝く2本の角、そして紅く分厚い鱗を持つ、西洋風のドラゴンが再び咆哮を放つ。
その後に放ったブレスと強靭な爪と牙によって、ハーピーは次々と蹴散らされていく。
まるで獰猛な狼が脆弱な野ネズミで遊ぶように、ドラゴンはハーピーの群に次々と襲いかかっていった。
「うわぁ……凄まじいね」
異世界の大自然の、あまりの壮大さに開いた口が塞がらない。
〈ですね……〉
アイカも引きつった顔で同意した。
ポルックも私たちと同じ空を見上げながら呟く。
「あんなのに襲われたらひとったまりもねえよな。くわばらくわばら」
そうこうしていると、洞窟にたどり着いた。
「ここまで来りゃあ安心だ。あの様子じゃ、こっちには見向きもしてなかったようだしな」
それを聞いてホッと胸をなでおろす。
「それにしても、あんなに距離が離れているのに襲われることなんてあるの?」
「ああ、昔一度追いかけられたことがあってな。
奴らは縄張りでも荒らされねえ限り、食う所の少ねえ人が襲われることはねえんだが、若い頃にうっかりやつの根城の近くを通っちまってな。それ以来俺らは狙われてるって訳さ」
「もしかして、一つの村に長く留まらないのって……」
「ああ、嬢ちゃん鋭いじゃねえか。まあそういうことさ。
これでも村に迷惑はかけねえようにしてっから安心しろよ」
そう言ってポルックはケラケラと笑っているが、それを聞いた私とアイカは身の縮む思いだった。
(ポルクス村が襲われなくてよかった……!)
そうして一息ついたところで、ポルックが御者台で手綱を握り出発を告げた。
「さて、このまま洞窟を抜けるぞ」
次回、『旅 その2 ~洞窟~』。
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読んで下さってありがとうございます!
旅っぽくなってきて書いてて楽しいです!!!
もし『もっと異世界生物をみたい!』『旅の続きが気になる』と思って頂けていたら
ぜひ小説評価☆☆☆☆☆で聞かせてください!
もちろんブクマもコメントも大歓迎です! 執筆の励みになります!




